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『極道農家のスローライフ〜ただ畑を耕していただけなのに、なぜか三国を無血制圧する覇王として崇められています〜』  作者: 月神世一


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EP 10

「ずっ友ロコシの収穫。裏社会の接待飯」

「黄金に輝く粒が、朝日に照らされて宝石みてぇに光ってやがるな」

 巨大ビニールハウスの中に、甘く芳醇な香りが充満している。

 俺の目の前に広がるのは、見事に実ったトウモロコシの群れだ。だが、こいつらはただのトウモロコシじゃない。異世界の特産品『ずっ友ロコシ』だ。

 これを半分にして相手と分け合って食うだけで、どんな関係の奴とも一瞬で「ズブズブの関係(ずっ友)」になれるという、曰く付きの代物である。

「よし、収穫だ。リバロン、そっちの畝を任せるぞ」

「ハッ! 龍魔呂様の手足となり、迅速に刈り取ってご覧に入れます!」

 泥だらけの高級スーツを着たリバロンが、残像を残す勢いでトウモロコシをもぎ取っていく。相変わらず仕事が早い。

 俺は収穫したばかりの『ずっ友ロコシ』を、ハウスの前に設置したドラム缶の即席コンロに持っていった。

 今日はポポロ村の村長であるキャルルや、ゴルド商会のニャングルも様子を見に来ている。シノギ(農業)を円滑に進めるには、ご近所や取引先への「接待」が欠かせねぇ。極道の世界でも、美味い飯を一緒に食うのが一番のさかずきになるからな。

「おい、お前ら。採れたての極上モンだ。今、焼いてやるから座って待ってろ」

 俺はスマホ通販で取り寄せた『高級バター』と『焦がし醤油』を用意した。

 網の上に茹でたてのトウモロコシを乗せ、ハケでたっぷりと醤油を塗りたくる。そして、仕上げにバターを乗せる。

 ジュワァァァァァッ!!

「――――ッ!?」

 焦げた醤油の香ばしさと、溶けたバターの暴力的な匂いが、爆発的に立ち昇った。

 ただでさえ信じられないほど甘いずっ友ロコシの香りに、現代の反則的な調味料の匂いが混ざり合う。

 パイプ椅子に座って待っていたキャルル、ルナ、ニャングル、そしてリバロンの四人が、一斉にビクンと肩を跳ねさせ、ゴクリと喉を鳴らした。

「い、いい匂い……! なんだか、お腹の底からキュンってなるような、たまらない香りだわ……っ」

 キャルルがウサギの耳をピンと立て、口元を押さえている。

「へへっ、お待ちどおさま」

 俺はこんがりと焼き目のついたトウモロコシを手に取り、真ん中からパキッ! と真っ二つに割った。

 湯気が立ち上り、黄金の粒がキラキラと輝く。

「こいつは、半分こにして食うのが一番美味いんだよ。ほら、食いな」

 俺は半分に割ったずっ友ロコシを、キャルルやニャングルたちに手渡した。

 熱々のそれを受け取ったキャルルは、ハフハフと息を吹きかけながら、小さな口で黄金の粒にかじりついた。

 サクッ、プチュッ。

「あ……ぁ……っ」

 その瞬間、キャルルの動きが完全に停止した。

 弾けるような粒の食感とともに、口の中に溢れ出す圧倒的な甘味の果汁。それが、焦がし醤油の塩気とバターの濃厚なコクによって、極限まで引き立てられている。

 甘い、しょっぱい、香ばしい、濃厚。脳の処理能力をはるかに超える味覚の暴力が、彼女の理性を一瞬で焼き切った。

「あひぃぃぃっ! あ、あまいっ! しょっぱいっ! なにこれぇぇ! お口の中で、お日様と海と牛さんが、一緒にダンスしてるぅぅぅ!」

 キャルルは悶絶し、パイプ椅子からずり落ちて地面を転げ回り始めた。

「しゅごいっ! 止まらないのぉぉ! 粒が、粒がプチプチ弾けて、脳みそまで甘しょっぱくなるぅぅ……あはぁぁっ♡」

 語彙力が崩壊し、村長としての威厳など欠片もなく、彼女は恍惚とした顔でトウモロコシの芯までしゃぶり尽くそうとしている。

 そして、異常事態はそれだけでは終わらなかった。

 ずっ友ロコシの真の力――『ズブズブの関係』にする魔法が、完全に発動したのだ。

「あぁ……龍魔呂さん……♡ 私、あなたとならどこまでもいける気がする。村の権利書、全部あげる! だって私たち、ずっ友だもんね!」

 キャルルがとろけるような笑顔で、俺の腕に抱きついてくる。

「せやせや! 龍魔呂の兄貴! ゴルド商会の裏帳簿も秘密のルートも、全部教えまっせ! だってワテら、魂のずっ友やからな!」

 ニャングルまでもが、黄金の算盤を放り投げて俺の足にすがりついてきた。ルナに至っては「おじしゃまぁ、ずっと一緒だよぉ♡」と背中に張り付いている。

(……なんだこれ。接待のつもりだったが、ちょっと効きすぎたか?)

 俺は全身にまとわりつく連中を鬱陶しく思いながらも、マルボロに火をつけて紫煙を吐き出した。

「まぁ、ご近所と取引先と仲良くなれたんなら、大成功ってこったな」

 俺は至ってマイペースに、残ったトウモロコシを齧り続けた。

 ◇ ◇ ◇

[幕間:人狼族の執事 リバロン 視点]

(……恐ろしい。なんという恐ろしい御方だ……!!)

 私は、自らの口元をハンカチで押さえながら、ガタガタと震える膝を必死に堪えていた。

 私も先ほど、龍魔呂様から『ずっ友ロコシ』を半分受け取り、口にしてしまった。

 味は、もはや言うまでもない。この世の全ての美食を過去にするほどの暴力的な快楽だった。

 だが、真の恐怖はそこではない。

 私の心の中に、龍魔呂様に対する『絶対的な親愛』と『全ての秘密を打ち明けたいという猛烈な衝動』が、強制的に湧き上がってきたのだ。

 人狼族の精神防壁など、紙切れのように貫通された。私ですら、危うく自らの過去の暗殺リストを全て吐露してしまうところだった。塩を舐めて辛うじて理性を繋ぎ止めたが、気を抜けば「ずっ友です!」と叫んでしまいそうだ。

(ずっ友ロコシ……本来は貴族の汚職や裏取引の言い訳に使われる程度の品。だが、覇王様が極上の栽培環境で育て、あの『魔薬(バター醤油)』で調理した結果、効果が数千倍に跳ね上がっている!)

 もし、このトウモロコシを、対立する三国――ルナミス皇帝、レオンハート獣王、アバロン魔王の三人に「手土産」として食わせたらどうなる?

 彼らは一夜にして、いかなる確執も忘れ、龍魔呂様に対して「村の権利書」どころか「国家の全権」を譲り渡し、「ずっ友」として永遠の忠誠を誓うだろう。

(血の一滴も流さず、ただ『美味い飯を振る舞う』だけで、世界を精神から完全に支配する……。これぞ、究極の洗脳兵器にして、覇王の真の兵法……!)

 私は泥だらけのスーツのまま、畏敬の念に打たれ、深く頭を垂れた。

 この御方は、すでに世界を掌の上で転がしているのだ。

 ◇ ◇ ◇

「ぷはぁ、食った食った」

 俺は芯だけになったトウモロコシをゴミ箱に投げ入れた。

 周囲では、キャルルたちが「ずっ友ぉ……えへへ♡」と幸せそうに昼寝を始めている。

「おじしゃまぁ……私、お腹いっぱいだよぉ」

 背中から降りたルナが、ふらふらと立ち上がり、俺の服の裾を引っ張った。

「おじしゃま、美味しいご飯くれたからぁ……ずっ友の印に、私からのお小遣い、あげる!」

「おう、子供の小遣いなら有難くもらっといてやるよ」

 俺が軽く応じると、ルナは虚空に手を突っ込み、ゴトリと重たい音を立てて『何か』を地面に取り出した。

「これね、毎月おうち(世界樹)から送られてくるの。おじしゃま、これで新しいお道具買ってね!」

「……は?」

 俺は口に咥えていたマルボロを、ポロリと落とした。

 太陽の光を反射して、眩いばかりに輝く巨大な直方体。

 それは、どう見ても純度100パーセントの『純金塊(100キログラム)』だった。

「……おい、嬢ちゃん。お前の実家、どうなってんだ?」

 俺の極上スローライフが、また一つ厄介な方向に転がり始める予感がした。

お読みいただきありがとうございます!


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