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第九十四話


「ほう、ジャン。貴様が直々に相手してくれるのか?」


 マリー王女と姫野遥の目の前で、戦闘用の防具に着替えたのか、全身黒い拳法着を装備したジャンが笑みを浮かべて立っていた。ここは龍斗やエリノル&ルイたちがジャンの部下達と戦ったのと同じような作りをした大きな壁に囲まれた空間だった。


「ええ、流石にあなたに勝てる部下はいませんので私が本気で相手するしかありません。久々ですよ。この拳法着を装備したのは…… それに私としてもやり残した仕事を完遂しないといけませんからね。いや〜、やっとお会いできましたね。私が殺し屋になってから依頼を達成できなかったのは二度。マリー王女と姫野遥、あなた達二人の暗殺です」


 ジャンは笑みを崩さずこちらを見ている。すると遥がジャンに話しかける。


「おじさん、そんな事よりリカルダさんはどこ? 無事なの!」


 ジャンは遥の方を見てニッコリと笑った。


「ああ、無事だよ」


 その言葉を聞いて遥はホッとした顔をする。


「よかった。それじゃあ、リカルダさんを返してくれる?」


 ジャンはそれを聞いてフッと軽く笑った。


「いいですよ。ただし条件があります。私を倒したらリカルダを返してあげましょう。どうですか?」


「ふ〜ん、いいわよ。じゃあ、マリーさん、とっととこのおじさん倒しちゃいましょう」


「フフン、いいだろう遥。だが、あいつを舐めるなよ。只者ではない」


「うん、わかってる。私も一度戦ったからね。でも、きっと私たち二人なら倒せるわ。頑張りましょう!」


「フッ、なぜかお前の言葉には勇気がわく。不思議な力だ。いいだろう遥。まず、どう動く?」


 マリー王女が聞くと遥は顎に指をあて上目遣いになって考えている。


「そうね。まずはセオリー通り、タンクのマリーさんがおじさんを引きつけて。私は後方で支援するから」


「ああ、わかった。それなら好きに暴れさせてもらうぞ!」


 そういうとマリー王女は背中から斧を取り出し構えた。その斧を見てジャンが眉をひそめる。


「『バサラアックス』…… 相変わらず化け物ですね。マリー王女…… 魔神の戦斧と言われたその斧を軽々と持てるとは」


「フン、人のこと言えるか、素手でこの斧と互角の威力を持つスキルを持っているくせに」


 マリー王女の言葉にジャンはニヤリと笑うと両手を顔の前に出す。すると、ジャンの両手が黒い焔に包まれた。


「……『焔蛇掌えんじゃしょう』、いきなり本気だな。ジャン」


「フフ、あなたの斧と私のスキルどちらの方が強いか勝負しましょう」


「望むところだ!」


 マリー王女が気合いを入れ大きく飛び上がると素早く斧を振り下ろす。そのスピードは普通の人間ならこれで終わりだと思えるほどの攻撃だった。


 しかし、そのスピードに慌てることなくジャンは紙一重で攻撃を避けるとクルリと回転し背刀でマリー王女の首を狙う。


 だが、マリー王女は『バサラアックス』の背でそれを受けた。その瞬間、ガキンと金属同士がぶつかる音が聞こえる。


 そしてお互い、相手にダメージを与えられないとわかるとバッと後ろの飛び退いた。


「おいおい、恐ろしいな、貴様の手は金属で出来ているのか。ジャンよ」


 マリー王女の軽口にジャンは楽しそうに答えた。


「いやいや、こちらのセリフですよ。マリー王女こそ、その斧をまるでヒノキの棒ように軽々扱うとは…… 」


「やはりお前は面白い。久々に本気を出そう」


 マリー王女を重そうな斧を片手で持ちそれをジャンに向ける。


「いいでしょう。私も本気で戦いますよ」


 ジャンは右手を顔の前、そして左手を鳩尾の前に置き構える。


 二人はジリジリと間合いを詰め始めた。



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