第九十五話
「おら!」
マリー王女が『バサラアックス』を振り下ろすたびに周りの空気が波打って竜巻のようにぐるぐると巻きあがる。
「なんという威力、風圧で吹っ飛びそうですね」
マリー王女が振るう驚異的な斧の威力を見てもャンは余裕の表情だ。それを紙一重でかわしていく。が、しかし、遥はジャンの額に少しだけ汗が滲んでいるのを見逃さなかった。
(余裕ぶってるけど、あのおじさん、マリーさんの攻撃を避けるので精一杯のようね。マリーさん。さっさとスキルをぶっ放してやっつけちゃって!)
遥は心の中でマリー王女に呟いた。しかし、マリー王女は先ほどから通常の攻撃を繰り返している。
(マリーさん、どうしてスキルで攻撃しないの?)
遥は不思議に思ったが、マリー王女とジャンの戦いを見てピンときた。
(そうか。あのおじさんのスキル…… 確か『焔蛇掌』とか言ったっけ? あのスキルは常時発動してる感じよね。ってことはずっとSPを消費し続けてるってことか、なら、このまま戦い続ければいずれSPが切れてあのスキルを使えなくなる。なるほど、マリーさんはそれを狙っているのね。あのおじさんを確実に倒すために)
遥はこの山でレベルアップした時に取得した敏捷強化魔法を詠唱し、発動した。
「アジェリエンター!」
マリー王女の体が一瞬、緑色のオーラに包まれた。素早い動きをするマリー王女の動きがさらに早くなった。
「オラオラ!」
「くっ!」
先ほどまで余裕の表情をしていたジャンの顔に焦りが見え始めた。
「どうしたジャン! この程度か!」
マリー王女の息もつかせぬ攻撃にジャンはジリジリと後ろに下がっていく。が、ジャンもそうそう負けてはいない。
咄嗟に薬瓶を取り出すと素早く飲み干す。すると、ジャンの体が一瞬、緑色のオーラに包まれた。そして、突然、動きが素早くなる。
「敏捷のポイントをあげる薬を飲んだな!」
「フフ正解ですよ。マリー王女」
ジャンの顔に先ほどの余裕の表情が戻った。二人は遥の目では追えないスピードで動き始める。
(まずいわ、二人の動きが早すぎて…… これじゃあ、マリーさんのサポートができない)
遥は仕方がなく二人の戦いを静かに見守る。
(我慢するのよ。いずれ、あのおじさんのSPが切れる、そしたら必ず私が攻撃するチャンスが生まれる。それをジッと待つのよ)
遥は魔法を詠唱をして、いつでも発動できるよう構えた。
そしてしばらくするとマリー王女が叫んだ。
「フフ、やっとSPが切れたなジャン。これでお前は『焔蛇掌』を使うことはできない。勝負あった!」
どうやらジャンのSPが切れたようだ。遥の目には見えないがマリー王女が勝負を決めようとしたのがわかった。
「食らえ! 『ドラゴンファーループ』!」
マリー王女がスキルを発動すると、振り下ろした『バサラアックス』から黒い龍の形をしたオーラが飛び出した。その黒龍は勢いよくジャンに向かって飛んでいく。
「うお!」
ジャンは黒龍をなんとかギリギリでかわす。が、しかし、黒龍はクルリと向きを変え再度、ジャンに向かって飛んでくる。ジャンはそれを見て舌打ちをした。
「チッ! 追跡型のスキルか……」
ジャンは避ける度に旋回し何度も襲いかかるマリー王女のスキルを紙一重でかわす、が、どうやら完全にはかわせていないようで、黒龍がジャンの体を横切る度に彼の体から血が吹き出す。
傷を負っているせいかジャンの顔が苦痛に歪む。そしてダメージのせいかジャンの動きが鈍くなると、遥の目にもジャンが見えるようになってきた。
それを見て遥はジャンが窮地に陥っていることがわかった。
「チャンス! いっけー、マリーさんのスキルを食らって倒れちゃえ!」
遥が叫んだ。そして、とうとうマリー王女のスキルがジャンを捉えた。ジャンは腹部に黒龍の体当たりを食らう。
「うぁ!!」
マリー王女のスキルを食らったジャンはきりもみしながら後方に思いっきり吹っ飛んだ。そして全身血だらけになりながらジャンはヨロヨロと立ち上がろうとした。
「まずい! マリーさん。おじさんが立ち上がろうとしてる」
「遥、わかってる。このチャンス見逃す手はない!」
そういうとマリー王女は思いっきり飛び上がるとジャンに向かって斧を振り下ろした。
「これで終わりだ!」
振り下ろした斧がジャンの額をかち割ろうとしている。それを見て遥は勝った! そう思った。
が、しかし、斧が振り下ろされるその瞬間、ジャンがニヤリと笑ったのが見えた。
遥はそれを見て嫌な予感がし叫んだが、遅かった。
ジャンは両手を顔の前に一瞬で出すと彼の両手がドス黒い炎に包まれる。
ハッとするマリー王女。
「なにぃ! 」
ジャンはニヤリと笑ったまま王女に向かって叫んだ。
「かかったな!王女。終わりだ!『焔蛇掌』!」




