第九十二話
「あららら、カルラったら、やられちゃったわね」
妹がやられて怒りを露わにするかと思ったが全く冷静でいるエーリカをエリノルとルイは不思議に思った。
「さあ、残りはあんた一人よ。観念しなさい」
ルイが剣先をエーリカに向ける。
「観念? 馬鹿なこと言わないで、私はジャン様の部下よ。目的はたとえ死んだとしても果たすのが努めよ」
「じゃあ、死になさい」
今度はエリノルが剣先を向ける。
「フフフ、死にのはあなた達よ。忘れたの? 私の職業は狂戦士、まだ奥の手があるのよ」
「奥の手?」
ルイが聞くとエーリカが楽しそうな顔で答える。
「フフ、そう、狂戦士にはこれがある! 『暴走』よ!」
突如、エーリカの全身が黒い炎のようなオーラに包まれた。
「『暴走』は一定の時間、ステータスの敏捷が5倍になるのよ。これで私を止めるものは誰もいない! いくぞ!」
エーリカは一瞬、腰を落とすと目にも留まらぬスピードで移動し始めた。そのあまりのスピードにルイとエリノルはエーリカの姿を見失った。
「きゃあ!!」
突然、ルイの肩口に衝撃が走る。どうやらエーリカに斬られたようだ。
「ルイさん!」
エリノルは慌ててルイの方へと向かう。しかし、すぐにエリノルも肩口を斬られた。
「ああ!」
「大丈夫ですか? エリノルさん」
「ええ。ルイさんこそ大丈夫?」
「はい、とりあえずお互い背中合わせにして身を守りましょう」
「はい」
二人は背を合わせ、剣を構えた。しかし、エーリカを目で追うことができない二人は所々、剣で斬られていく。
「あんな大きな剣を持ってこのスピードなんて反則です。どうしましょうルイさん」
「確かに。あのスピードは脅威ですが、どうやらそのスピードにあの女振り回されているようです。私たちが目で追えてないのだから、急所を一撃すれば簡単に終わるはずなのに、それが出来ていない。なぜか? それはきっと自身のスピードが早すぎて上手く剣をコントロール出来ないからです」
「なるほど、でも、だからといってどうしたら。このままじっとしていたらいずれやられてしまいます」
「一つだけ方法があります」
「え! 方法? そんなのあるんですか? ルイさん」
「ええ、エリノルさん。あなたのレンジャーイヤリングを貸してください、これで私の敏捷が15P上がります。そして、次はスピード魔法をかけます! 「アジェリエンター」!」
魔法をかけるとルイの体が緑色のオーラに一瞬、包まれる。
「これで私もスピードが上がり、エーリカに対抗出来ます。そして私のスキルブレスレッドを渡しますので、エリノルさんは攻撃力がアップしたスキル攻撃であの女を倒してください」
「え! そ、そんな、む、無理です。それにいくら魔法とアイテムでスピードを上げても。それだけではあいつのスピードに対抗できませんよ」
「大丈夫、私を信じて。エリノルさん、お願いします」
「む、無理です」
「エリノルさん。ここであいつを倒さなければ私たちはどっちみちやられてしまいますよ」
「そうですけど……」
「大丈夫、よく見るのです。あいつの姿ではなく。もっとあいつの動きがわかるものを」
「え! どう言う……意味…… 」
「お願いしますよ。それじゃあ! 私、エリノルさんを信じてるんで!」
そう言うとルイはまるで瞬間移動のような素早さで移動し始めた。そしてあちこちで金属音が鳴る。どうやら見えないスピードでルイとエーリカが戦っているようだ。
しかし、エリノルが注意深くあたりを見ていると、ルイの姿が見え始めた。どうやらスピードはエーリカの方が早いようだ。
(まずい、ルイさんの方が押されてる……)
ルイの体がだんだんと血に染まっていくのがエリノルには見える。だが。ルイは諦めず懸命に戦っている。
(ルイさん…… 本当に大丈夫なの? すごい血だわ)
どんどんとルイの体から血が流れていく。それを見てエリノルは焦った。
(ダメ…… ルイさん、私がエーリカの動きを捉える前に、あなた先に死んでしまう……)
このままではルイが死んでしまう。居ても立っても居られないエリノルは自分も戦いに参戦しようと剣を構えた。が、その瞬間、あることに気づいた。
(ハッ! あれはもしかして。ルイさんの言っていた、あいつの姿ではなく。もっとあいつの動きがわかるものをってまさか!)
エリノルは目を閉じて意識を集中する。そして目をカッと見開くとスキルを発動した。
「バーンブレスト!」
エリノルの剣から勢いよく光の刃が飛び出す。その光刃が弧を描き何もない所でドン!と大きな音を立てた。
すると、バシュ!という音とともに血が飛び出した。まるで透明人間が姿を見せるかのようにエーリカが現れた。
「ぐあ!」
エーリカはその場にうずくまる。
「勝負あったわね」
エリノルの剣をエーリカの喉元に当てる。
「な、なぜだ。お前の目では私の速さを捉えられる訳が無いのに…… 」
エーリカが悔しそうな顔でエリノルを見ている。
「ええ、確かに私ではあなたの動きを捉えることは出来なかった。だけど、ルイさんのおかげで見えなくてもあなたの動きを捉える事が出来たわ」
「な、なに、どう言う事だ……」
エーリカが不思議そうに尋ねるとエリノルはニヤリと笑い答えた。
「それはあなたに傷つけられて流れたルイさんの血よ。それが地面に流れたおかげであなたの足跡が見えたの。それを追っていけば後はタイミングを掴むだけ」
「なるほど…… やられた……な」
先ほどまで悔しそうな顔をしていたエーリカだったがフッと笑うとそのまま倒れ事切れた。




