097_賢者とデート!?
動けるようになったが、俺は何もしない日がずっと続いた。
七乃花も表情ではすごく心配しているが、それについて特に何も言ってこない。
体は動けるようになったのだが、気乗りがせず狩りに出かけたり剣を振るう気がしない。
扉がノックされ、戸を開ける。
「やはりここにいましたか、京さん」
「いちゃ駄目か?」
「いえ、そんな事ありませんよ。天気もいいので、お誘いに来ました」
「男とデートする気にはなれないな。そういう事で」
扉を閉めようとする。
「ちょっとちょっと!お待ち下さいよぉ。別に私もあなたとデートしたいなんて微塵も思っていません」
「はぁ、じゃあ何の用だ?」
「気晴らしですよ。それくらいはいいじゃないですか」
「分かったよ、あんたに付き合えばいいんだな」
「えぇ、お願いします」
特に支度する物もないので、すぐに部屋を出る。
賢者に案内されるまま、街へと繰り出す。
「てっきり、礼拝堂にも連れて行くのかと思ったけどそうじゃないんだな」
「えぇ、ヴァル神教の教徒ならお連れしますが、勇者は基本的に無宗教だと聞いておりますから」
「ああ、そうだな。俺の前の世界では宗教はあったが、特に信じていなかった。この世界はそうでもないな、、、理由は分からなくないが」
「そうですね、私もあなたの前の世界に興味はありますが、それは専門家の仕事でしょうかね」
「それでどこへ向かってる?」
「まぁまぁ、ちょっとお茶を飲みに来ただけです」
「はぁ、用があるなら早くしてくれ」
賢者は本当に手頃なカフェに入っていく。
「いや、だからって本当に入らなくても」
「えぇ、だから本当にお茶を飲みに来たんですよ」
「そうなのかよ・・・。というかあんた賢者って有名人だろ、大丈夫なのか?」
「問題ありませんよ。まぁ、私の顔がバレれば人に取り囲まれるかもしれませんね」
「バレればって、賢者の顔は知られてないのか?」
「知られていますよ。今は魔術で認識の阻害をかけているんですよ」
「魔術?そんな事も出来るのか」
「出来ます。これは良く知らない人には効くんですが、あなたのように私をはっきりと認識している人には効き目がありません」
「便利だな」
「私、こう見えても賢者ですからね」
魔術の効き目はともかく、店に入っても騒がれる事はなかった。
「さてお呼び立てして、すみません。個人的に話したい事がいくつかあったので」
「やっぱり話があるんじゃないか」
「えぇ、まぁ。何もなければ七乃花さんを見ている方が楽しいんですけどね」
「・・・・」
「そう睨まないで下さい」
「さて、まずはこれをあなたにお渡ししましょう」
賢者は見たことがある指輪を差し出す。
「これはアイテムボックスを使える指輪です」
「アイテムボックス?」
「えぇ、あなたが持っているアイテム袋のさらに収納力に優れたものですよ」
「こんなのもらっていいのか?」
「えぇ、受け取って下さい。これはハルエルの遺品の一つです」
「師匠の・・・」
見たことがあると思ったのは、師匠が身に着けていたものだからだ。
指輪を手に取ると、少しだけ悲しさを感じた。
「アイテムボックスやアイテム袋も所有者を登録すると、解除するのに専用の技術と時間がかかるのですよ。やっと解除して遺品の整理をしていたら、手紙が入っていましてね。自分の身に何かあったら、アイテムボックスといくつかをあなたに分けてくれと」
「師匠が俺に・・・?」
「ええ、だからこうしてアイテムボックスとハルエルの遺品の一部をアイテムボックスに入れてあります」
俺は指輪を嵌め、アイテムボックスを開く。
確かにいくつかの武器がしまわれている。
「そうか、わざわざ。ありがとう」
「いえ、それとハルエルの剣をあなたに渡してもいいんじゃないかという話があったのですが、あれは聖騎士の証の一つという事でお渡しできませんでした」
師匠の持っていた大剣の事だ。
「そうか、、、まぁ俺にはあんないい代物は扱えないから大丈夫だ」
「しかし何であんたがこんな事までしてくれるんだ?普通は侍女とかに言伝で十分じゃないか」
「四聖だから・・・というのもあるのですが、ハルエルは、いえ今代の四聖は全員が幼馴染なのですよ」
「幼馴染?」
「えぇ、、、だから皆は口に出しませんがハルエルを失ったのは、あなたと同じくらい悲しんでいるのです」
だからこいつは師匠の事になると、ちょっと悲しそうにしていたのか。
「すまない・・・」
「あなたが謝る必要ありません。もしあなたが勇者じゃないとしてもハルエルは同じことをしたでしょう。彼はそういう男でしたから」
俺は申し訳ない気持ちになってしまう。
「すみません、あなたを責めるつもりで言ったのではありませんよ。ただ一番フューネルが悲しんでるようでしたらからね、それを知ってもらいたく話したのです。彼は頭では分かっているのですが、どうしてもあなたを前にすると耐えられないようでしたから」
あの強面のおっさんがそんな風に思っていたとは考えられなかったな。
「さて、、、暗い話は以上にしましょうか」
「ああ、そうだな」
「京さん、必要以上に謝らないで下さい。あなたがその態度を取りつづける限り、許すものも許せなくなってしまう。人とはそういうものですから」
「あ、ああ、悪かった」
的確な事を言われ、俺は納得する。
「ん、ところで・・・、あんたも幼馴染と言ったか?」
童顔な賢者はニコニコ顔で返事する。
「えぇ、そうですよ」
「あんた、年齢いくつなんだ?俺はてっきり歳下に見えていたんだが・・・」
「そ・・・それは秘密です。あなたに言えば七乃花さんにもバラされてしまうでしょうから」
「師匠はどう見ても、40歳は越えてたぞ・・・?」
「と、ところで、京さんは魔術についてご存知ですか?」
賢者は無理やり話を逸らす。
「いや、、、どういうものかは知らない。ただ魔法と魔術は違うって・・・」
俺は公国での事を思い出す。
「そう、魔術と魔法は違うって、あんたの弟子に聞いたな」
「弟子・・・ですか?」
「公国で会った、キュウルだ」
「あぁ、彼女ですか。元気にやっています?」
「あんたの弟子だろ?今は分からないな。俺も公国で冒険者やってる時にパーティを組んでいた。キュウルはいつかあんたにもう一度師事をしてもらい、魔術を得たいと言ってたぞ」
「そうだったんですねぇ。まぁ、私も随分とフラフラしていましたから。魔術は・・・、人によっては覚えられませんから彼女の場合どうでしょう」
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