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090_救出4

俺は黙々と作業をこなす。

まるで心のないロボットのように。

ふと、手を止め自分のしてる事に笑ってしまう。

今まで俺が抱いていたのは野心だったんだろう。

今ではそれも踏みにじられてしまったなと。

俺は必死に働き続け、念願かなって大企業に就職する事が出来た。

しかし実際は俺の思い描いていたものとは違う。


「八月朔日君、例の資料は出来た?」

「はい、出来ました。メールで送ります」

上司はメールを確認すると去っていく。

あれも会議で使われるのだろう。

俺が作ったなんて一言も出ずに。

ここは俺が思ってた所とは違う。

野心なんてのとは無縁なところ、いや違う。

正確には成果に対して、正当な評価はされない。

必要なのは、コミュニケーションという名の感情の抑制と上司達に対するおべっかだ。

俺はそのどちらも向いていない。

例え仕事の事で熱くなったとしても、ぶつかり合うのは駄目だ。

どんな理由であれ、ここでは揉める事はご法度。

それと上司に対する魅せ方。

隙あらば上司にくっついて行き、心に思ってもない事で上司を褒める。

俺は初めてここに来た時は、そんなバカな事あるかと思ったが、ここではそれが当たり前なのだ。

それでも・・・と思い俺は耐えながら働き続けた。

気づけば3年も経っていた。


「八月朔日君、今日飲みに行かない?」

同僚の一人が声をかけてくる。


「あぁ、ごめん・・・。生活費が厳しくて」

「またそれか・・・。たまにはいいんじゃないの?」

「いや、行きたいんだけど。本当、ごめん」

気を使ってもらったんだろうが、それでも断る。

話す内容は大体分かってる。

上司の悪口か他の同僚の悪口。

ついていったところで、正直楽しくない。

酒の味もまずくなるだろう。

遠くから声が聞こえた。

付き合いが悪い、せっかく誘ったのに等。



必死に払い続けていた借金の目処も立ち始めていた。

俺は借金を払い終えること、”生きる”ことを目標にがんばった。

それで何を得ただろう・・・。

俺はそれでも、ここで働き続けなきゃいかないのだろうか。

心を殺してまで、働く事が”生きる”という事なのか。

そう思うとバカバカしくなり、上司に辞表を叩きつけ辞めていた。


その後はひどかった。

せっかくだし落ちぶれてやろうと酒を浴びるほど飲んでみた。

居酒屋をはしごしまくり、酒を飲む。

そして酔っ払った俺は、道端で転びそのまま交通事故に。


何て・・・何て愚かな人生だったんだろう!


けして良くもなく、けして最低という訳でもないのに。

あったのは虚しさだけだ!


重く閉ざされた瞼を開く。



「七乃花・・・?」


~~~~~~~~~~~~~~


―七乃花視点―


「!!」

義兄さんが私の名前を呼んだ気がする。


「義兄さん!」

声をかけるが返事は返ってこない。

ナツ様が足止めに魔力弾をばらまく。


「七乃花さん!魔術の使い方は覚えていますね?」

「はい!」

私は体内の魔力を集める。


「火よ。私の意志に応えて!」

集めた魔力を火の属性へと変化させる。

さらにイメージを集中させ、火の魔力を操作する。


「素晴らしい!」

私は魔術で火の鳥を複数作った。

それに命令を与える。


「お願い、義兄さんを止めて!」

火の鳥が一斉に義兄さんへと向かう。

義兄さんは火の鳥に反応するも、次々に屠っていく。

何羽かは義兄さんへと直撃するが、それでも怯まない。


「七乃花さん、下がってくださ」

ナツ様は大量の魔力を操作し、義兄さんを中心に竜巻を起こす。


「すごい、これが賢者様の魔術・・・」

「まだ終わりじゃありません」

さらに竜巻に魔力を追加し別の属性へと変換させる。

無色な竜巻は徐々に赤みを帯びる。

気付けばそれは炎の竜巻と義兄さんを取り囲む。


「uuuuuh!」

炎の竜巻に阻まれ、義兄さんは前へ出る事が出来なくなった。


「これで少しは大人しくなってくれれば良いんですけど」

炎の竜巻はその勢いを落とし少しづつ小さくなっていく。

竜巻は姿を無くし、そこに膝をついている義兄さんがいた。


「これでも倒しきれませんか、ならばっ」

ナツ様はまた魔力を操作する。

だが義兄さんは顔を上げナツ様を捉えると、立ち上がり駆け始めた。


「AAAAAAAh!」

「なっ、まさか!」

義兄さんは手に持つ剣でナツ様を斬る。

ギリギリで障壁を張り、致命傷は避けたが叩きつけられた。


「あぁっ!」

「ナツ様!」

私の声に反応し、義兄さんがこちらへ向かってくる。

魔術を発動する時間がなく、私はレイピアを正面に構える。


「AAAAAAAh!」

両手で剣を受け止めるが重い。

義兄さんは空いた片方の手で私の腹目がけて殴り飛ばす。


「うぅっ!」

壁まで飛ばされる。

腹を殴られた衝撃で、私は血の混じった胃液を口から吐き出す。

義兄さんは私の前に立ち、剣を突き立てていた。

構えて振り下ろす。


「っ!!」

私は思わず目を瞑った。

刺されているはずなのに、剣の切っ先は私の目の前で止まっている。


「京八義兄さん・・・」

お読み頂き、ありがとうございます。

毎日22時に更新を予定しております。


感想・レビューお待ちしております。

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