112_六花
私の両親は早くして亡くなった。
まだ私が物心つく前だ。
そんな私を引き取ってくれたのはおじいちゃんだ。
おじいちゃんはこのご時世には珍しく手作りの時計技師をやっていた。
と言っても町に小さな工房を持って、時計の修理や電池交換と言った簡単な仕事しか来ていないみたいだったけど。
それでも私はおじいちゃんが時計を作ったり直したりする所を見るのが大好きだった。
裕福ではなかったから女の子らしく可愛い洋服とかも買って上げられない事をおじいちゃんはよく悔やんでいた。
けど私は裕福でいる事もお洒落する事よりも何かを作る方が好きだった。
ある年の誕生日だった、おじいちゃんは私にとても可愛い洋服を買ってくれた。
だけど私は洋服よりもおじいちゃんがよく使っている工具に興味があった。
まだ幼かった私はおじいちゃんの気持ちを無視して、物凄く駄々をこねた。
その日から私はおじいちゃんの仕事を少しずつ手伝うようになった。
時計を修理したり電池を交換したり、何かを分解しては戻す。
初めてやった時はとても感動したのを覚えている。
私が学校に通うようになってから、私が周りとはちょっと違うんだなって気付いた。
皆はお洒落なお洋服の話やTVの話、学校の男子の話題で盛り上がっていた。
けど私はそんな話題に興味が持てなかった。
今までと同じく時計の事や何か身の回りの小さな機械をいじったりしてる方が楽しかった。
気付けば周りからは距離を取られ、影で機械オタクなどと馬鹿にされていた。
「おじいちゃん?」
いつもの時間、家に帰ると優しくおかえりと言ってくれるおじいちゃんの声がしなかった。
「おじいちゃん、どこ?」
その日おじいちゃんは家に帰ってこなかった。
私は一人寂しく寝る。
翌日になって誰かが家にやってきた。
警察の人だった。
何でも事故にあって死んでしまったとか。
それを聞いた時、私はパニックに陥ってしまった。
ようやく気持ちを取り戻した時には見知らぬおばさんの車に乗せられていた。
「あの・・・?」
「あら、六花ちゃん良かった。私はあなたのお母さんの姉よ。つまりあなたの叔母さんになるわね」
おじいちゃんが死んだ事で私は叔母さんに引き取られることになった。
なんでも叔母さん夫婦は子供がいなく、私を引き取る事に賛成していたらしい。
私はおじいちゃんが死んだ事でしばらくは呆然としていたけど、おばさん達はすごく良くしてくれた。
きっと本当の子供のように扱ってくれたと思う。
すっかり気持ちを取り戻した時に私は叔母さんに自分の工具はどこだと聞いてみた。
「おじいちゃんのかしら。女の子には必要ないから捨てたわよ」
おじいちゃんから唯一もらった大事な工具を捨てられたのはとても悲しかった。
私は少しずつだけど大きくなってきてたから分かった。
叔母さんは私を女の子として可愛がりたいのだ。
だから工具が欲しいなんて言っても、絶対に買ってはくれない。
私は内緒でお小遣いなど溜めて、買うことを決意した。
「本当、うちの六花はとても優秀でね…」
「ええ、見ていて分かります。それに何て可愛いのかしら」
叔母夫婦はそこそこ裕福なおかげか洋服をたくさん買ってもらえたし、欲しい物は大体買ってくれた。
それに叔母さんはよくお茶会を開いて、よく友達に私を自慢していた。
私は育ててくれてる叔母さん達に失礼にならないように、おしとやかで可愛い娘を必死に演じ続けた。
私は徐々にお小遣いを溜めて、やっと工具を買い揃えた。
試しにと安物の時計も買って分解をしてみた。
私は時計をいじりながら、気付けば涙が溜まっているのに気付いた。
おじいちゃんの事を思い出してしまったからだ。
私は叔母さんにバレないように声を出さず、泣き続けた。
「あれ、寝ちゃってた・・・」
あのまま泣き続けて私は眠ってしまったようだ。
そうだと思いだし、私は工具と時計をしまおうとする。
だがそこにあったはずの工具と時計は無くなっている。
私は部屋を出ると急いで叔母さんの元へ行く。
「叔母さん!私の工具は!?」
叔母さんの姿を見つけ、詰め寄った。
バシン
初めて叔母さんにぶたれる。
「六花!あんなのはあなたには必要ないの!!おじいちゃんのせいで、あなたが学校でいじめられていたのを知ってるのよ!!」
「ち、違う!!あれは私が好きで!」
ぶたれた事や工具を捨てられた事、色んな思いがごちゃ混ぜになり私は泣きじゃくりながら反論を続けようとする。
「いい!!あなたは女の子なの!機械いじりなんか二度とさせないわ!!」
反論を続けようとしたけど、私は部屋へと逃げこんでしまった。
布団の中に潜りこみ、出てくる涙を必死にこらえていた。
叔母さんにとって私はかけがえのない娘なのだろう。
そうである以上、私はおじいちゃんの孫ではないのだろう。
機械いじりが好きな六花ではなく、叔母さんの可愛い娘として私はここで育てられてしまうのだ。
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