103_葛藤
俺はしばらく木剣で剣の感覚を掴むと、木剣をしまう。
汗を書いたので用意していた布で汗を拭う。
「精が出ますね」
「今日はやけに客が多いな」
ニコニコしながら賢者が俺に話しかけてくる。
「一体、何の用だ?」
「いえ、用という程ではないのですが、ちょっと様子を見に」
「様子を見にって、、、俺は勇者になる気はない」
「ええ、無理強いをするつもりはありませんよ。それでフューネルの事なんですが」
あのおっさんか・・・。
「それがどうしたのか?」
「ええ、まぁ何と言いますか・・・何か不快な事があったのかなと」
賢者は何とも歯切れが悪い。
「いや・・・、例の呪われた剣で頼み事をしている。まぁ、その時にちょっとあったと言えば」
「ディグマですね」
「あ、ああ・・・、師匠の息子と名乗っていた」
賢者は悲しそうな顔をすると話を再開する。
「私が言うのも何ですが、、、ハルエルは人望に厚い男でしたから。息子であるディグマももちろん」
「そうか・・・」
「私が気にするなと言っても、筋違いなのですが、あなたのせいではありませんよ」
俺はこの話から一刻も早く逃げ出したかった。
「ハルエルの事は皆が引き摺っているのですよ、ディグマもフューネルも」
「あのおっさんも?」
俺は意外な人物に驚く。
「ええ、彼は誰よりもハルエルを失った事を悲しんでいますよ。教皇という立場上、そのようには見えていないでしょうが」
「本当に、あんたはタイミング良く現れ、俺をかき乱す事を言うな」
「あなたが逃げる事を選択したのならば、何も言いません。ですが勇者はともかくやることをやると言われるのならそうするまでです」
その通りだ、この問題からはいつまでも逃げ続けられない。
自分の中でどう決着をつけるか、それは俺が見極めなければならない。
「分かった。続けてくれ」
「ええ、そうしましょう。フューネルは元々聖騎士を目指していたのですよ。彼の剣の腕前は一流。ハルエルはフューネルから剣を習っていました」
たしかにおっさんは剣をやっていたと言ったが、聖騎士を目指していたとは。
「我々は幼馴染でしたが、四聖を目指そうなどとはその当時は考えていませんでした。ただフューネルだけは聖騎士になりたいと小さな時から憧れ、一人剣に打ち込んでいた。いつだったでしょうか、ある日森を散策していた私達はモンスターに襲われました。その時にフューネルが一人戦い倒してくれました。」
あの鬼のように強い師匠が助けられるなど、信じられない。
「あの頃から、私達はモンスターの脅威を知り、戦う術を覚えようと決めたのです。ハルエルは助けてくれたフューネルに憧れを抱き、彼から剣術を覚えようと習っていました」
「師匠が、あいつに憧れていたのか・・・」
「ええ、フューネルは我らより歳上で兄貴分みたいな感じでしたから。それから数年が経ち、ハルエルとフューネルは聖騎士団に入団しました。ハルエルはその時もフューネルを慕ってはいましたが、その頃にはハルエルの実力はフューネルを上回っていました」
「才能がある・・・という事か」
「そうなるでしょうね。フューネルはきっと悔しかったでしょう。聖騎士団で実力が上がるハルエルを見て、フューネルは教会への道へと転向しました」
俺に剣の振り方を教えたおっさんはどこか寂しそうだった。
「ある日の事ですが、教会での仕事を終え私とアキーム、フューネルで酒を酌み交わした事があったのですが、酒に酔ったフューネルは言っていましたよ。ハルエルは俺の誇りだと。彼ならばきっと聖騎士になれると」
フューネルはものすごく悔しい思いをしたが、それを師匠に託したんだ。
「ですからハルエルが死んだ事は、私たちの誰よりも悲しんでおります。そしてその意思を継ごうとディグマがフューネルに詰め寄ってるようですが、彼の気持ちも分かってしまい板挟みになっているのです」
「そうか」
師匠が死んだ事は俺だけじゃなく、皆悲しいのだ。
フューネルももちろん。
「俺にはどうする事も出来ない。ディグマが憎しみで俺を斬りたいと思うなら、俺はそれを受け入れる」
「そうでしょうが、きっとフューネルは止めますよ」
賢者は真剣な眼差しでそう告げる。
「では、私は失礼しますよ。私も、、、あなたには期待をしているのです」
「え?」
振り向くが賢者の姿はもう見えなかった。
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