第十五話『オーダー・アイリス』
パチンと指を弾く音がする。
金属がぶつかったかのように、されど不快ではなく心地のいい高い音。
一斉に放たれた岩の弾丸は敵が操る前の地面へと帰っていく。
地面を穿ったと思った瞬間に、まるで時間を巻き戻したかのようにそれは起こった。
「ある人がくれたこの左腕には情報を整理して元に戻すという刻印が混ぜられてるんだ」
私の前に出た先生は敵を見据えながら私に説明する。
敵はその時間を待つ事なく、一瞬で間合いを詰めると長剣を振り下ろした。
その時、敵の胸を何かが抉った。
「なっ……ゴフッ!?」
驚愕した敵は動きを止めると仮面の下から血を吹き出す。
前屈みになりながらもギロリと先生を睨むと傷を抱えてなお、こちらに向けて歩を進める。
先生の頭上に存在する冠はさっきと同様に光を増しており、現在は目を開けるのもやっとな程だ。
「さっきのナイフを返したつもりだったけど、君が居場所を変えるからその軌道に入ってしまった」
私は敵よりも遠くを見つめ、その男が先程まで居た場所にあるナイフを見つけた。
ナイフはおおよそ私達を目掛けて放ったと思われる場所に戻っており、宙に漂っている。
ナイフを元の場所に返した?
男が投げ、私が弾き返したナイフの軌道を先生は巻き戻したのだ、男が私達に詰め寄ってくるタイミングをみて、戻る軌道と重なった時に。
そうして巻き戻したナイフが男の胸を貫いた。
情報を整理するというのがどういうことか分からない、でも巻き戻しに近い事が起きている。
「僕の能力は時間を戻しているんじゃなくて、あくまでも一定の範囲で起きた事を元の状態に戻してるのさ、物が動かされた事に変わりはないから、元の位置に戻しても動かされた方向に対する力が消えるわけじゃない」
だから、と言って先生は私の手を引き川に入るぎりぎりの所まで後退した。
すると元の位置に戻った筈の岩とナイフが今いた位置と先程まで居た位置に激突した。
男は自身が放った技を浴びる事になり、土煙が晴れると身体の至る所が不自然な形に曲がっていた。
このまま放っておくと勝手に息絶えるだろう。
というより、先生が殺さずとも私が殺すけれど。
「最後に何か情報を吐く気はあるかな?」
「……私は……主を裏切らなィッ……お前とハッ……違うのだッ……」
どういう経緯で彼が魔女に惹かれたのかと疑問に思ったけれど、先生を非難する口は耐えがたいものだ。
まだまだ先生の事を知らない私でも、唯一の存在を馬鹿にされては沸騰する感情がある。
「そうかい、ならもう楽になるといい……」
後に知るそれは、左腕を使い情報を処理した際の熱の解放。
冠を下ろすように左腕で虹の環を導くと、そのままの軌道で敵に放る。
「オーダー空を飾る七つの弓」
まるで池に小石を投げ捨てるかのようだったが、直後、眩い光と共にとてつもない轟音が辺りを埋め尽くした。
それは家一つを形も残さず吹き飛ばす程の攻撃の七連射。
どこからともなく現れた七本の巨大な矢は、それぞれが別の色彩を携えて敵の身体を粉砕した。
自身もろとも吹き飛ばされる先生をすかさず捕まえる、ギュッと抱きしめて衝撃が収まるのを待つ。
……ご褒美かもしれない。
「ありがとう助手ちゃん、助かったよー!」
「自身も耐えれない技を使わないで下さい!!」
すこし寂しく思いながら先生を地面に下ろす。本当に少しだけ寂しい。少しだけ。
「いやぁ、助手ちゃんにかっこいい所を見せようと思ったらつい……でもでも、頼りになったでしょ??ねぇねぇ!!」
キラキラと目を輝かせながら、尻尾を振る犬のように身体をゆらゆら揺らす。
血生臭い時間が嘘のように可愛いが満ちている。
「こんな力に毎回頼っていられません!!」
「えぇ〜、なんでさ!!」
「なんでって、何かあったのが丸わかりじゃありませんか!! 早く場所を移さないと、今騎士や教会に尋ねられるとまずいんですよ!?」
「あ、忘れてた……」
力の詳細や魔女との恋は気になるけれど、今はとにかくこの場を立ち去る事にした。
あいにく食事の準備はまだだった為、食材を無駄にせず済んだのはよかったけれど。




