第十三話『マクスウェル・中編』
わかりにくい設定に凝りすぎるという作者の病気がでているので『----------』の点線で区切られている文は読まなくてもたぶん問題ないと思います。
プロの分かりやすく、読みやすくという技術には驚かされます。
この世界において『力』とは。
『精霊を介して行う対象の変更』
である。
『精霊』とは意思疎通ができる存在ではないし、生物かも定かではない。
現実に対する変更を実行してくれる仲介者と言えば良いだろうか。
あくまで『精霊』と呼ぶのはソレが不可思議な存在あるいは作用であり『精霊学』なる学問を作った創始者が『精霊の仕業の様』と表現した事がその名の由来である。
『精霊』がどのような方法でそれを実行しているかは未だに解明されていないが『力』を実行する方法は現在二種類ある。
その二つが『刻印技法』と『詠唱技法』だ。
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まず、二つに共通する文法が存在しており、その文法を物に刻印する、または言葉にして発するという違いがある。
共通する文法は『精霊指定』『概念指定』『範囲・構成指定』『命令指定』の準で定められていて『刻印技法』の場合はカタカナ文字と少しの記号が使われる。
指定できる『概念』は一文につき、一つ、八文字までであり、その概念を『構成』する要素や『範囲』を合計して四文、符号一文字を含む八文字まで、構成からなる概念をどのようにするかの『命令』を一文、八文字までで指定できる。
『精霊指定』に関しては精霊の力を借りたい時に用いる起動文になるため、概念や構成、命令を使用するよりも前に『セイレイシテイ』と刻印するか発声するかの行為を必要とする。
なお、記号一つは一文字となっている。
例えば『岩を浮かす』という力を実行したい場合。
セイレイシテイ(精霊の起動命令)
ガイネンシテイ→イワ(またはガンセキ等、指定する名は人によって異なる)
コウセイ・ハンイシテイ(コウセイを意味する符号はa、ハンイを意味する符号はβとし、=は等しいを意味する)
→aイワ=x
→aイワを*に
→a x=500 kg
→β*テデフレル
メイレイシテイ
→フユウサセル
この工程を経て初めて岩を浮かせる事ができる。
この時『精霊』はこの文を解析し、使用者の脳から情報を検索し判断すると言われている。
つまり、岩という概念をカタカナ文字でイワと認識できる人物でない限り、この技法において『力』を実行できない。
さらに、自分自身がその概念を曖昧に認識している場合『構成・範囲指定』の際、構成要素及び範囲を具体的に指定しなければ、精霊が読み取れず実行は失敗に終わり、実行不可、最悪の場合暴発する。
例えば先に指定した岩を構成する要素に重さや範囲などを指定せず、aイワのみで指定を終えるとする。
その場合『精霊』はイワを使用者の脳から情報として呼び出す事は出来るものの、どのサイズ、もしくはどの範囲かを判断出来ない。
力の実行において使用者、または『刻印技法』が施された物には『熱』が生まれる。
詠唱、刻印技法の指定文が小規模な範囲で成立する場合その熱はそこまで問題にはならない、だが膨大な範囲に対して不意に力を実行する、つまり暴発してしまった場合、その熱は使用者を焼き尽くしてしまう。
指定文が不成立であり、力の実行に失敗する場合はそもそも熱が生まれない。
『精霊学』の権威達はこの文字数の制限を乗り越える為、概念や構成、範囲、命令を少ない文字数で表す事に時間を費やしている。
また『刻印技法』と『詠唱技法』の同時使用、もしくはそれぞれの技法を重ね合わせ、成立する確率を向上させたり、攻撃の威力を底上げする事も可能である。
先の指定文は『詠唱技法』で使う文であり、『刻印技法』では成立しない。
コウセイ・ハンイシテイ
→aイワ=x
→aイワを*に
→a x=500 kg
→β*テデフレル
この句において、β*テデフレルは『詠唱技法』における、人が発声し条件が実行できるという前提で書かれている。
岩を浮かすという指定文を刻印する際には『剣で囲った範囲の中をどのくらい』という句が必要となり、そのままの文字数では実行出来ないために不成立となる。
だが『刻印技法』の利点は詠唱と違い、物に指定文を刻む余地があればあるだけ、指定文を増やして補填する事ができる。
もちろん不成立の発生もその分増えてしまうが、それでも利点は余るだろう。
武器や鎧には『詠唱技法』で参照する為の情報やそれを簡略化する句を刻印する。
セイレイシテイ→=オーダー。の様に「オーダー」と詠唱するだけで『精霊』を呼び出す事も可能になる。
勿論、上の句だけでは不十分であり、その他の句で詠唱に対応させる必要があるだろう。
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先生に向かい岩をぶつけてきた相手はその両方を使っている。
きっと『刻印技法』を使い、剣で岩の範囲を指定、浮遊させ『詠唱技法』で相手を指定、飛ばすという命令を使っている。
刻印技法が施された武具は高価だし、それを実践で素早く詠唱し起動するのは中々の手練れだろう。
先に投げてきたナイフもただ投擲しただけの威力じゃない。
これだけ刻印が施された武具を持っているという事は一般人にはまず有り得ない。
どこかの貴族でも用意するのがやっとな筈だ。
それにしても。
そんな相手よりも特別不思議な存在が私の横に立っている。
先生は飛んできた岩に触れると粉砕、または分解してみせたのだ。
先生に触れられた岩はサラサラと辺りに浮遊し、頭上に展開していた虹色の冠は輝きを増した。
突如現れた左腕の存在にも理解が追いつかない。
先生には岩を粉砕するだけの純粋な力はない筈だ、つまり何らかの指定文を実行している。
でも、飛んできた物体に関する指定文をいったいどうやって実行したのかが全くわからない。
「あぁ、何とも美しい刻印だ『主』に聞いた通り、あなたの左腕は実に興味深い」
「主というのは『魔女』の事だね? いいのかい? この国において『信用の偽造』『反人類への協力、加担』『教義の否定』は重罪だけれど、少なくとも君は二つ当てはまる」
仮面の奥で恍惚とした表情を浮かべているだろう声を出しながら、相手は先生の左腕に言及する。
先生が言った通り男が魔女を『主』としているなら、狙いは先生だ。
「どの口がそれを言うのやら……」
男はそう言いながらまた剣を振る、だがその時。
先生の前で形をなくした岩がみるみるうちに元通りになっていく。
「助手ちゃん、ちょっとそっちに寄っていいかな」
先生はニコッとしながら私の方へピョンと跳ねる。
私の腕に体を預け、何とか体勢を整えると耳元で呟いた。
「これが僕の能力だよ、そろそろ維持するのがしんどいから解除した」
その言葉と同時に頭上の冠は輝きを落とし、先生が元いた地面を復元した岩が抉った。
一体何なのだろう、これはさっき相手が飛ばした岩そのものだ。
そのものだというのは、相手が飛ばした速度や方向がそのままだと言う事で、まるで時間でも巻き戻したかの様だった。
だけれど、先生が言った言葉からするに、こうしたのは相手じゃなくて先生だ。
現に興味深く相手はその様子を観察していた。
つまり、先生が力でバラバラにした岩を復元した? 元の威力や方向まで真似て?
「先生……これは……一体……」
「アーサー・オーウェル、我らが主より特別な危険因子とされる貴方こそが『反人類』であり、『教義の否定』を行っているのでは?」
私が疑問を投げかけようとした時、相手は剣を持ちながら宙をすくう様にに両手を広げる。
その声には憎悪や怒りの他に崇拝まで感じる様だった。
「何が言いたいのかな? 僕は根っからの人類派だけれど」
「よく言いますよ」
相手は冷めた口調でそう言うと、剣をそこら中に振り回す。
『刻印技法』によって浮遊させた岩は先程の比ではなく、これから岩の雨が降る事が明白だった。
「助手ちゃん、後ろにいてね」
先生はまだまだ余裕のある笑みを浮かべながら、小さな背中で私の前に出てくれた。
危険な雨はじきに降る、詠唱による力の実行が始まりそうな時、相手は言った。
「『魔女との恋』は『反人類』そのものではありませんか?」
え?
その疑問を深く考える時間は無く、辺り一体を岩の粒が穿った。




