第十話『可愛いだけじゃ、ダメですか?』
「…………」
「…………」
ルーク・ヴァルキヤからの伝言を受けた次の日、いつも通り先生の家に来て、コーヒーを準備した。
そしてソファに横並びに腰をかけ一息つくと、私はその伝言を伝えたのだが。
その伝言の一部に疑問を持ったらしく、ほっぺを膨らませた先生がこちらをじっくり見つめていた。
ぷにぷにでかわいい……
「配達物を届けた騎士見習いが君の事を報告して、教会が調査員を派遣、で君がその調査員を蹴散らしのか……へぇーー」
まずい、先生のほっぺは今にも破裂しそうで、何で隠してたんの! と訴えている。
私が視線を逸らすと、視線の先に回り込み、目を細くして無言で問い詰めてくる。
「その、相手も下っ端だったので、私でも何とかなったというか、幸運だったなぁ、なんて……」
「ふーん、まぁ君が戦えるかどうかは別にいいけど、そんな事があったなら僕に言ってくれれば良かったのに」
「い、いや、お世話になりっきりですし、迷惑をかけたくなかったと言いますか……」
先生としては私の隠し事に深く言及するつもりは無いらしい。
ただ、助手として先生と関係がある以上、そういう面倒ごとは相談して欲しかったらしい。
私は何だか、仲良しみたいで嬉しかったけれど、先生は本気で不貞腐れている。
「僕が頼りないみたいじゃないか! 僕は君が思っているよりもずっとずっと頑張れるんだもん!」
「いえ、決して頼りないから相談しなかったなんて事はなくてですね!?」
男の子というのはこういうものなのだろうか?
私には男性とこういった会話をした経験が皆無だ、女性でも母以外にない。
今まで人達との会話は全て、嫌悪や恐怖をは含んだものだった。
頼られたかったという事だろうか?
私としては迷惑をかけたくなかったのだけれど。
「男だと思ってないでしょ助手ちゃん!」
「!……そんな事は……ないですよ? モフモフしてて可愛いと思ってるなんて事は全然……」
「かっ!? もう助手ちゃんの馬鹿!!」
どうやら、先生は男としての頼り甲斐やカッコいいが好きらしく、可愛いが嬉しくなさそうだった。
というより、過去に可愛いと言われすぎたのだろうか?
おそらく、可愛いと言った人達も、頼り甲斐やカッコ良さが無いと思っているのではなく、ただ可愛いの方が圧倒的に先生の魅力だと思っているからだろう。
先生はわかりやすく、そっぽを向く。
さっき結んであげた髪の尻尾がゆらゆらと揺れる。
私は思わずナデナデしたくなるけれど、グッと堪えるので必死だった。
先生と居て、一番心地いいのは先生が私を好意的に思ってくれているのが分かる所だ。
普通の人となら、今の会話だけで本当に嫌われたのではと勘違いしそうな程、私の経験は浅い。
「頼り甲斐やカッコいいなどは分かりませんが、私にとって、こうして会える人がいるというだけで、心が随分と穏やかになります、普段の生活だけで私は貴方から何より多くのものを貰っているんですよ? 先生からしたら普通のことかもしれませんが」
「…………」
そっぽを向いていた先生がチラッとコチラを見る。
上目遣いで本当に? と問いかけてるようだ。
この人、騎士団にいる時は相当女性達を困らせたのではなかろうか?
それとも私の経験が浅すぎるだけで、普通なら何も思わないのか?
「本当ですよ?」
「ふふ、ならいいや! もっと褒めてくれてもいいんだよ? あ、何なら僕が褒めてあげようか? そうだなぁ、君は美人だし、気がきくし、頭もいいし、それとそれと〜」
「わ、私はいいです! 褒められ慣れてないのでやめて下さい!!」
少年のような笑みを浮かべる先生は何よりも可愛い、やっぱり笑っている時の先生は卑怯なくらい魅力的だ。
ぐいっと近づいてそう言う先生から少し体を離すと、ほてった顔を冷ますためにクッションで顔を覆う。
暫くはこうしていようと思った……。




