第六話『全員への好意は、全員の味方の意ではない』
アリスがオーウェルの元に訪れだしてから、約一カ月たった。
いつもなら、二人は家で昼食をとる時間だが、アリスは居らず、リビングには客人が来ていた。
「つまり、僕が魔女を匿っている……と?」
「そう思われている、という事です」
オーウェルの対面に座る彼はリース教の神父であり、オビノスエの教会を任されている者だった。
オーウェルに悪感情を抱いている訳ではないが、決して贔屓する訳でも無い。
どちらにでも転びうる可能性を秘めていた。
彼が口にしたのはアリスの事であり、彼女が魔女や、何らかの不吉を呼ぶ存在かもしれないというのは、教会やオビノスエの市民が薄々気づいている事だった。
まだ、噂話までになってはいないものの、次に姿を見せるなら、確実にそうなるだろう。
少数ではあるものの、そのような存在が市民から報告されれば、教会も無視できない。
そのため、オーウェルとは面識がある神父が自ら忠告に来ていた。
「オーウェル様……人々は貴方を嫌ってなどいませんし、むしろ好きな程だ、ですが魔女を匿っているなどと噂が広まれば、人々は平然と態度を変えるでしょう」
「忠告助かるよ、でも彼女は魔女なんかじゃ無いよ」
「貴方がそう仰るなら、私は何も言いません、ただこれ以上に話が拡大すると私達も動かずにはいられませんので……」
顔見知りだが、何かあれば容赦なく、という事だろう。
神父が家を後にすると、オーウェルはため息を吐く。
オーウェルは民衆を馬鹿だと蔑む輩ではない、時に無能だと諦めを抱く事もあるが、それは歴史の一部を確認した時であって、自分が関わる人達に対しては希望を持ってすらいる。
ただ、今のように、その希望が果たして正しいものかと不安になる事も事実だった。
「今までの僕なら、彼女と距離を置いていたのかな」
準超越騎士四位であったころ、オーウェルは何よりも人懐こい性格だった、部下のみならず、位の垣根を超えて多数から好意を向けられた。
だが、オーウェル自身が特定の誰かに深く意識を向ける事は、退職する前の一件を除いてなかった。
多数からの好意を維持するという事は、誰の味方でも居られない事が欠点だろう。その欠点に刃が向けられないように、広く、浅く、好意を向けても深くはならないように。
本人が意識せずとも、小さな頃からそういう関わり方が彼には普通だった。
天邪鬼、または天邪鬼にすらなれない生き方は、周囲には見えない孤独で彼を覆う。
それもその筈で、彼が好かれている事は事実だったからだ。
「変わったのかな……僕は……」
無き腕との接続部を撫でる、どこか懐かしむように優しい笑みを向けて。
「ふむ、助手ちゃんはここに来ない時に何してるんだろうか? 家はなくて旅をするタイプだとは思うけど……趣味とかあるのかな?」
前の郵便物の件で、アリスが一般の人の近くに居る事は控えた方がいいとは分かった。
ただ、オーウェルはアリスの範囲内にいても何も感じない。
少し前、その特性のことについて、彼はアリスに聞いた事があった。
アリス曰く、それは何者かが私の一族をそうしたのであって「あらゆる者に絶対に嫌われる」ような呪いだと言った。
なので、先生とこうしてご一緒できているのが奇跡みたいな事なんです、とも。
そのような事で、アリスには客人が来るからと伝え、なら明日はお休みにしますか、ご迷惑をかける訳にはいけませんし、とアリスとの翻訳業務は中止になった。
「彼女は絶対的な不幸を知っている筈だ、それ故に孤独で、人への憎悪、怒りが満ちている、なのに、根っこの部分は腐らないでいる……それはすごい事なんだよ……」
そんな彼女にオーウェルは希望を見た。
そして、そんな彼女への対応こそが、人類への最大のの問いになる。
彼女を助ける者がいるのなら、きっと。




