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ヴァージン・エピローグ  作者: シキ
アリス編
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10/23

第三話『古典チャンネルと量子もつれによる〇〇』

朝、日が上り少し経ってから、私はいつものように先生の家を訪ねる。

 いつもなら少し活動の気配がするけれど、今日は違ったようで。


「買い出しに行ってくるから部屋で待ってて……」


 玄関の扉にそうした張り紙が貼ってあり、私は先生の家にお邪魔した。

 張り紙のとうり、先生は外出してるようで。


 朝ごはんを準備しておこうかと思ったが、勝手に食材に手をつけるのもなんだかと、書斎へ向かい翻訳するための本を手にする。


 『ヴァージン・エピローグ』と『一九八四年』の二冊。

 ヴァージン・エピローグに関しては、ある種の恋物語でとくに珍しい内容でも無かったが、問題は一九八四年の方だった。

 先生としてはこちらの内容の方が重要らしく、直訳しただけではあるが、内容を聞くと珍しく重い表情を浮かべていた。


 そもそも、この二冊はなんなのか、それに関してはまだ深く聞いていない。

 ただ、危険を予防するために必要らしい。


 題の一九八四年は年月を表すものと考えるのが当然といえる、今現在の暦は1.8廻天半ば、人類が暦を使い始めてからの年月が一八六十年であり、この世界では上二桁だけをとり1.8と表現する。

 現在の標準とされる表記ではない事に疑問を覚えるが、この本は約百二十年後を指している。


 それに、この本の内容は全く読めない、書いてある文字がではなく、単語の意味が理解できないのだ。


 単語として最も使われているのは『魔女』と呼ばれる存在で、その次にあるのが『量子』と『もつれ』である。

 物語としてはシンプルで、その魔女と呼ばれる存在が大勢で特定の場所に攻めてくる、というものだ。

 ただ、長く生きている私にとって、それはありえないと言える、確かに「私達」以外の種族は存在するが、大勢では無いはずなのだ。

 もし、そんな大勢の知的生命体をさすのなら、真っ先に思い浮かべるのが先生を含めた「人」である。


「魔女と呼ばれて迫害された人々が反乱する?」


 確かに、魔女狩りは存在するし、その人々が反乱するというのは充分に考えられる。

 だが、この本にはそれを否定するかのように、ある不明な単語を使って、こう書かれていた。


「魔女達は二つで一つの生命体であり『量子もつれ』のような状態にあるため、どんな場所にいても一瞬で意思疎通が出来てしまう……か」


 量子もつれとは一体何なんだろうか、この本の内容を明かした時、先生は戸惑っていた、それはこの量子と呼ばれる存在が現代には存在しない、または「観測」されていないとされ、原子に似た何かだろうかと呟いていた。


 そもそも、遠く離れた場所で意思疎通ができるという生命体を私は知らない。

 人々の発明において、現在最も新しく、ソレに類似するものはモールス信号を使った電信と呼ばれるものだった。

 トンとツーで信号を送り、受け取った側はそれを解読して文にする。

 私はまだ見たことはないが、先生から聞く限り、それはそれは凄いらしい。


 それまで手紙や、騎士達による特殊な力で情報を「物質」として運ぶ事が常だった。ここまでは私も知っている。

 ただ、電信というものが発明されてから、国境や、重要な拠点と拠点は銅線で繋がれ、物質ではなく、『電磁波』と呼ばれるエネルギーが情報を運ぶらしい。

 遠い場所に情報を送る際、手紙なら何ヶ月、騎士達なら何週間と、人と人がその物質を繋いでいく事によって情報が伝達された。

 だが今では、銅線が繋がっているなら一秒かそれ未満で情報が届くという、遠い場所ならエネルギーが弱まるか何かで、中間地点にいる者がもう一度同じ信号を打ち直すということもあるらしいが、それでも今までよりは何倍も早いのだ。


 一度はこの目で見てみたいというと、先生はきっと一般にも普及する筈だからそのうち見れるよとの事だ。

 待つのが得意な私はそれなら見れる筈だと安心した。


 そんな事もあって、魔女狩りによって迫害された人々の反乱という説も否定される。頭の中を除いた訳ではないけれど、電信のような、もしくはそれよりも早い速度での意思疎通は無理だろうから。


「本当にこんな事が起こるんだろうか……」


 ただのお伽話が書かれた本であると信じたい所だが、先生はそう捉えてはいなかった。

 先生が帰ってきたら聞いてみようかなと考え、本を閉じると同時に、玄関の扉を叩く音がした。


「先生……かな?」


 先生ならノックなんてしない筈だと思いながら、私は玄関に向かった。

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