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「きゅ、急に何をいいだすんですか!?」
わたしは思わず敬語で声を上げてしまった。情けないくらいにひるがえっている。
さっきまで紫司馬のことを気にしていたのが嘘のような切り替えっぷりである。
「私だって、紫司馬のことを忘れたわけじゃないわよ。そこまで薄情じゃない」
わたしが考えていたことを見透かしたかのように、少し拗ねたように姫鶴が言った。
「――……ただ、思い出したのよ。死ぬのはいつだって運次第。唐突に来るものだって知ってたはずなのに、青慈と紫司馬の一件があるまで、すっかり忘れてたの」
「それは――……」
そう言われてしまうと、わたしはなにも言い返せなくなる。一度死んでいる人間がそう言ってしまえば、言葉の重みが違う。
わたしだって、死んだのは交通事故だった。まぎれもない、運。あの日、あの場所に行かなければ死なずに済んだかもしれないけど――危険だと思わない、普段使っている道での交通事故は、予知能力でもない限り避けるのは不可能だ。
「結婚を決めたって、無事に卒業して結婚式をする前に死ぬかもしれないのよ、運次第で。まあ、だからと言ってびくびくおびえて過ごすのも癪だけど――それはそれ、これはこれ。死んでから後悔したって遅いんだから」
「……」
まさにその通り。
前世で死んだときのように、運がなければ死んでいたな、という事件が、今、わたしがここに至るまで何度もある。
「わ、わたしだって、何も考えてないわけじゃ……」
「……へえ?」
わたしが言い訳をするように呟くと、姫鶴の目がきらりと輝いた。その好奇心に満ちた視線に耐えきれず、わたしは目をつむって顔をそらした。
「た、ただ、なんか、こう、透くんに、告白のための万道具を作ろうと思っても、何がふさわしいか、分かんなくて……」
プロポーズするときに婚約指輪を用意するように、結婚を前提とした告白のときにも万道具を用いることがある。定番は和風ファンタジーらしく簪だが、それはあくまで男性が贈るもの。いや、女がそれを贈ってもおかしくはない。実際、髪をのばしている男性に贈る、という話を聞いたことはある。でも、簪とか使うほど、透くんの髪は長くないし……。
女が贈る定番では時計だけど……一般的な懐中時計よりは腕時計の方が使いやすいかな、でも腕時計を贈られる人って多くないよな、って考えたら、作る手が止まってしまったのである。
その、用意した素材は、ついさっき、透くんに見つかったわけだけど……。こっそり工房に置いておいた私物の素材がまさにそれである。
わたしがうだうだ言い訳を並べていると――。
「じゃ、何が欲しいか本人に聞けば?」
――そう言って、姫鶴はいつの間にか開いていた襖の先を指さした。
その先には、顔を真っ赤にしている透くんが立っていた。




