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「け、けっこん……」


 晩婚化が進んだ前世ならいざしらず、この世界で学生時代に婚約してしまう、というのは前世ほど珍しくはない。まあ、乙女ゲームの世界だしね。しかも、学校が舞台。そのくらいの年齢で将来の相手が決まる、というのがおかしくない認識なのだ。

 と、分かっていても、いざ自分の身近な人間から結婚する、と言われるとびっくりしてしまう。


「わ、私だって、このタイミングはどうかな、と思ったのよ。でも、卒業と同時に入籍することが決まっているし、紫司馬が死んでしまって、いつ、どのタイミングでもなんだか正しくない気がして……。……貴女は、一応ヒロインなのだから、報告しておいたほうがいいと思ったの」


 ゲームに登場したキャラが死んだ一方で、本来ならばゲームとは全く違うエンディングを迎えようとしている。台詞をある程度暗記しているほどストーリーモードをやりこんだ姫鶴にとっては、あまり良く思われないと感じてしまうことなのだろう。

 ――……わたしは全く気にしないけど。


「……あのね、わたし、もう、この世界が『黎明のアルケミスト』の世界だとか、気にしないことにしたの」


 わたしがそう言うと、俯きがちだった姫鶴の視線が上がり、わたしのものとかち合う。驚きと、ほんの少しの不安に姫鶴の瞳は揺れていた。


「貴女も自由にしていいし、わたしも自由にする。ヒロインがどうとか、悪役令嬢がどうとか、気にしなくていいの」


 ……まあ、わたしが学校通っていないし、好き勝手万道具を作っているし、割と生まれたその瞬間から自由気ままにやっているんだけど。

 姫鶴の方はそうでもないようで、ずっとどこかで気にしていたのが、ぐっと、泣くのを堪えるように、唇を噛みしめていた。


「――……そ、そうよね。ゲームとか、気にしなくて、いいのよね」


 「貴女に言われると、そんな気がしてきたわ」と姫鶴はようやく笑った。


「結婚のための万道具が必要だったら言ってね。何でも作っちゃうから」


 わたしがそういうと、「ううん、青慈と二人で揃えたいからそれは大丈夫」と、潤んだ目を擦りながら姫鶴が言った。それはそうだ。万道具について学ぶ黎明学園に通っているのだから、二人で作ればいい。そういう特別な万道具は二人で作った方が思い出になるものだと思うし。


 ……この様子だと、紫司馬のことは伝えない方がいいかな。余計なことは下手に知らない方がいいだろう。

 今はまだもやもやと落ち着かない気持ちがあっても――きっと青慈と一緒に乗り越えていくだろうから。

 そんな風に考えていたのだが――。


「――ところで、貴女の方はどうなの?」


 ――なんて、姫鶴の言葉に、わたしはぴしりと固まってしまった。

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