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閉店後。約束通り、姫鶴がやってきた。店はあらかた片付けてしまったので、そのまま奥の休憩室へと通す。姫鶴と初めて会話をかわした部屋だ。
ぴったりと襖が閉じられたのを確認すると、姫鶴が息を吐く。この中なら、前世の話をしようと、原作が云々という話をしようと、同じ部屋にいるわたし以外に聞かれることがないので、気を張る必要がないからか、姫鶴は安心しているように見える。
わたしも姫鶴も、この世界に生まれてからそれなりに経っているけれど、どうしても、口を滑らす、ということはあるもので。
襖が閉まればすぐに話始めるかと思ったが、姫鶴は座ることすらせず、そわそわと落ち着きがない。
「……とりあえず、座ったら?」
「そ、そうね」
わたしはお茶を用意しながら、姫鶴に着席するようにうながす。わたしの言葉にうなずいて座る姫鶴だったが、やっぱり落ち着きがない。
……どうしたんだろう、何があったのかな。
「――そ、その。文化祭ではあんなことになってかなりの騒ぎがあって、紫司馬も死んじゃって、こんなことを言うのもどうかな、とは思ったんだけど……。貴女には報告しておいた方がいいと思って。決まったのは、紫司馬のことを知る前だったから、どうしようもないし……」
なんだかものすごく前置きをされた。
紫司馬が死んだということになっている今、言いにくいことなのだろうか。……当の本人は、名前を変えて今日もそれなりに楽しそうにバイトしてたけど。
全てを知っているわたしからしたら、そんなの気負わなくていいのに、と思うのだが、まあ、姫鶴は、実は紫司馬が生きている、なんてこと知らないので、ここでわたしが「紫司馬のことなんか気にしなくていいよ」なんて言い出したら、わたしがただの薄情な奴になってしまう。
実は、姫鶴には紫司馬のこと、伝えたほうがいいのか、少しだけ迷っている。
紫司馬の救済について考えていた彼女だし、彼女にとって、どうでもいい相手ではないはずだ。
とはいえ、紫司馬の死に関してはかかっているものがものだし、知っている人間は極力少ない方がいい。そこまで本気で彼を救済しよう! と考えていたわけではないみたいだし、教えない方がいいだろうか。
それなりに落ち込んではいるものの、酷く取り乱している様子はない。青慈が刺されたときのほうがよっぽどだった。
うーん、でも……。
わたしがどうするか迷っていると、姫鶴は――。
「――その、私、青慈と結婚することになったの」
――なんて、想像もしていなかった言葉を言い放った。




