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世間話として、だいたいのことを知守さんは教えてくれた。「万結ちゃんは一度万道具へ夢中になると周りのことは見えなくなるからなあ」なんて言って。事実なのでなにも言い返せない。
文化祭の事件の方は、被害者が黎明学園の学生一人のみ。一時は危なく、助かる見込みはない、と言われていたそうだが、奇跡的に回復したとか。
名前こそ報道されていないが、間違いなく青慈のことだろう。
事件後、一人の男の遺体が見つかる。事故死らしいが、被害者の黎明学園の学生――青慈の血液が付着した、犯行に使われたと思われる凶器を持っていたことから、犯行後に逃亡をはかったものの、そのまま事故で亡くなってしまったのでは、と見られているようだ。
姫鶴から、紫司馬のことを聞いていたから、あの事件を起こしたのはてっきり紫司馬だと思っていたのだが――。
「あ? なんだそれ」
勝手な思い込みだったかな、と考えていると、わたしの後ろから覗き込むようにして紫司馬――じゃない、白陽も、くしゃくしゃになったのを広げた新聞紙を見た。
「――……へえ。こんなのがあったのか。怖いなあ」
「お、新入り? 珍しいねえ」
「ドーモ。バイトなんで、ちょっとの間しかいないかもしんないですけど、よろしく」
白陽は自己紹介をしながらも、しっかりと新聞紙が見える位置から動かない。流石に新聞紙を見ながら、なんておざなりな挨拶ではないけど。
「ちょっと前に事件があってなあ。兄ちゃん、知らないの」
「自分、最近こっちにきたばっかなんで」
害がなさそうな人を演じていたからか、嘘をつくのが、まあ、上手い。それとも、わたしはこれが完全に嘘だと知っているから、白々しく感じてしまうのだろうか。
「他にも学生が一人事故死しちまうし、黎明学園も大変だよなあ。――っとと、いけね。この後、女房と約束があるんだった」
慣れたように修理依頼の受付伝票をさらさらと書いて、颯爽と知守さんは帰っていった。
「――これ、赤希を殺そうとしたの、オレなんだよな」
客が途切れた瞬間、新聞を見ていた白陽がぼそっと呟いた。わたしが勝手に犯人を思い込んだというのは、あながち間違いではなかったのだろうか。
「え、でも、犯人――」
「大方、裏で工作したんだろ。オレがしくじって死んだと思って、さ」
……ということは、一族の人間は騙せている、ということか。紫司馬が事故死したことも新聞に合わせて掲載されている。
「本当に騙せるとはなあ」
白陽はくしゃ、と新聞を丸めてそのまま捨てた。その横顔は、とてもじゃないが怖くない、と言えないような代物で。
「……もう、こういうことはしませんよね」
「当たり前だろ。なんのために『こう』なったと思ってんだよ」
呆れたように白陽は言う。
確認したくなるくらいの顔だったんだって。
なんだか、ヤバい人を野放しにしてしまったのだろうか――いや、わたしと透くんの命がかかってるから! かかっているものがものなので、彼が新たに白陽として罪を犯さない限り、許してほしいものである。




