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店を開けると、久々の開店ということもあってか、常連さんがやってきてくれた。特に用事がない、という人でも、「久しぶり!」と声をかけてきてくれる。
こうして見ると、この店も愛されてるよなあ、と実感できてなんだか嬉しくなる。
「万結ちゃん、これの修理依頼いいかい」
「ああ、知守さん、お久しぶりです」
小ぶりの包みをドン、とカウンターに置いたのは知守さんだ。包みの中身は――給仕器。時間を指定すれば適量の餌を出してくれる、前世にも同じ家電があったパターンの万道具。
「なにか飼い始めたんですか?」
「おうよ。昼隠し筆のことで、女房に問い詰めたら……野良猫を構って、時折部屋に上げてたことを隠してたんだよ」
昼隠し筆をこっそり使ったのではなく、たまたま机の上に出しっぱなしだった昼隠し筆を猫が床に落としたらしい。慌てて拾ったものの、ペン先から落ちてしまっていたから壊れて発覚してしまった、ということらしい。
「浮気は浮気でも、人間じゃなくて猫だった、ってわけだ。で、そのままその猫を飼いだしたんだが……あの猫、この上に乗るのが楽しいらしくて。ついに駄目になっちまった」
「ああ、これはこれは……」
餌を入れる蓋の部分が歪んでいる。普通の猫くらいの体重なら耐えられるはずなのに、蓋が閉まらないくらい歪んでいるのは、相当重みのある猫、ということだろう。可愛がられて丸々と太っているに違いない。
「強化もついでにしておきますか?」
「ああ、頼む」
本当は猫を乗せないようにするか、痩せさせた方がいいんだろうが……まあ、その辺は獣医が指導するでしょう。もしかしたら、太ってる猫じゃなくて単純に体が大きいだけなのかもしれないし。
「じゃあ、修理依頼の紙を書いてもらって――」
万道具は工房に持って行ってしまおう、と思って持ち上げたとき――ふと、万道具を包んでいた包み、新聞紙に目がいく。
――黎明学園大事件――。
その見出しをみて、思わず、中身の方も見てしまう。
……どうやら、黎明事件の文化祭で起きたあの事件と――黎明学園の学生が事故死したときのことが書かれているらしい。
ここ数か月、ずっと工房にこもって作業をしていて、ニュースとかを全く見る余裕がなかった。そりゃあ、数か月も経てば事件は進展するか。それに、姫鶴がさっき来たくらいだし、黎明学園の生徒が学園の敷地外に行かないように、という指導もなくなっているに違いない。
……でも、この新聞、日付はわりと最近だ。
「どうかしたか? ――ああ、その事件」
わたしがつい、新聞に見入っているのに気が付いた知守さんが、「怖いよなあ」なんて、言った。




