異世界の常識と魔法の授業
太陽が空の頂きに至る頃。
忠人たちは森の中を歩いていた。
「……つまり魔法は“大いなる根源”と呼ばれている次元で発生している現象をこの世界に誘引してきたもので……って少年。聞いているか?」
「……ぜぇ、はぁ。三割くらいは」
歩き疲れたと訴えたユリを背負いかなり速く歩くエルフの二人に着いて行くだけでやっとの忠人。
さすがにビオラの魔法談義を聴く余裕はなかった。
「……簡単に…纏めると……魔法っていうのは……魔力を使って……別な……世界から……ゲホッ」
無理に喋ったために咳き込む忠人。
「……ゲホッゲホ。失礼……しました。魔力を……使って……現象の設計図を引き出し……それを…再生する、という……ことですね」
「辛いなら喋るな。もしくは耐えろ」
「じゃあ、ユリを背負ってくれませんかね……」
仕方ないなと軽く笑ってユリを負ぶうのをアスターが交代した。
彼らがこんなにも仲良くなっているのは忠人の高校生活で培われた差し障りのない会話と相手への同調で人間関係にヒビを入れない自分の意見のない会話術のおかげだろう。
「……しかし魔力、ですか。それはいったいどんなものなんです?あ、魔法を使う動力って以外で」
「魔力か。魔力は生命の生きる力であり意志に宿ると言われている」
「もっとわかりやすくお願いします」
「まず全ての生き物には生命力がある。生命力とは生きるための力で徐々に減っていくものだ。生命力がなくなった時その生き物は死ぬ。だから生命力は血液に多く含まれるとされている」
「なるほど」
「そしてその生命力は意識することで増える」
「急にわからなくなりました」
「むぅ……説明が難しいな。生命力は生きる力だ。それを生きようとする意志で活性化させる……そんな感じだ」
なんとも理解できない、そんな表情の忠人にビオラが微妙な笑みを向ける。
「まあ、我々森人族も実際どんな原理なのか正しく理解しているわけではない。まだまだ未知の部分は多いのだ。そういうものだと思ってくれ」
「……はい。生命力を昇華することで魔力になると思っておきます」
「それでいい。生命力を昇華するのに必要なのが意志の力だ。そのため魔力は時折意志の力ともされる。そして生命力を魔力に変換できる効率には種族差、個人差がある。さらに魔力を活性化すれば寿命が延び、身体能力が向上ふることもわかっている」
だから我々森人族は寿命が長いと言われているのだ、とビオラは続ける。
「しかし、そんなことも知らずに魔法を扱えるとは勇者とは凄いな」
「勇者……ですか」
空間を湾曲したり生意気だからとツルハシによって魔物にボコられたり初期だと仲間がいなかったり恐竜が勇気だったりするだろうか、と阿呆なことを考える忠人。
「因みにお前で7人目だ」
「……反応に困りますねその人数」
「まあ、この世界の常識みたいなものだ」
「常識……ですか」
「どうかしたのか?」
「いえ、そう言えばなぜ俺の言葉が通じるのかな、と」
激しく今更である。
「勇者召喚陣には言語変換魔法が組み込まれていると言われている。それで被召喚者に一番聞き覚えのある言語に変換されるらしい」
「都合が良いですね」
「いや、呼んだ勇者にいちいち言葉を教えるのは無駄だろう。せっかくの即戦力が何の意味もない」
その勇者をどう扱うとしてもな、と意味深な言を残してビオラが足を速める。
「……なんか、俺奴隷になって正解だった気がします……」
「……ユリの奴隷にならなくても奴隷になっていたかもな」
忠人の呟きにアスターが苦々しげに語る。
「……帝国はお前をただの兵器として使おうとしていた」
「帝国……確か人類最大の国家ウラウィのことですよね」
「ああ、8年ほど前から亜人排斥を掲げエルフや獣人を目の敵にしていて今はほぼ全ての国と戦争状態にある」
「……そういう国どっかで聞いたことある……絶対君主がまともじゃないやつや……」
頭を掻きながら何処の世界でも変わらんのかと忠人は思った。
「とりあえず奴隷ルートは確定だったっぽいですね」
「かもな。しかしお前が奴隷ならないということは巫女様も助けられなかったこと同じかもしれない。その点では感謝しても仕切れんよ」
忠人とは違いユリを背負っても全く気にすることなく歩みを進めるアスターに少し鍛えた方が良いのかもしれないと思う忠人。
「少年、どうしたんだ?」
その視線を捉えたのかビオラが忠人の方を向く。
「いや、俺も鍛えた方が良いのかなと思いまして……」
「……鍛えた方が良いな」
「そうですね。少年、このままではおそらく死ぬぞ」
唐突な死ぬ宣言。
「え、と?」
つまりどういうことなのでしょうか、と続く言葉は口の中。
いきなりだったので引っ込んでしまった。
「まずここから先はそれなりに魔物ーーモンスターがいる。森の木々への被害を小さくするために剣がメインとなる以上あまりお前に構っていられないのだ」
「それにもう一つの心配ごともあるしな」
「……ビオラさん?」
「こっちは杞憂に終わる可能性が大きいがこれからのことを考えるとそれなりに自衛ができた方が良いな」
妙な表情をするビオラ。
「だから、夜はしごくぞ。厳しくな」
「……やべぇ……目が、マジだ」
夜。
黒く染まった森にフクロウの鳴き声が響き、風が不吉な音を立てる。
そんな中冷えた地面に倒れる忠人がいた。
「……やべぇ……マジだった」
ビオラの魔法の授業を聞きながらアスターの剣を避けるという謎のスパルタ式。問題を間違えれば石が飛んでくる。
授業を気にし過ぎれば剣に打たれる。
30分もたたないうちに夜梨忠人という名のほとんど死体が誕生した。
もちろん剣は木刀だがそれでも十分痛い。さらに手加減されているとはいえ石も痛い。
味方してくれそうなユリは完全に眠りについているのだ。それはもうけちょんけちょんにやられた。
「……しぬ……」
「まあ、初日からこれはキツかったろうし許してやろう」
「本来十分経験を積んだ騎士見習いを叩きのめすための訓練内容だからな」
「………酷ぇ……」
敬語も忘れて呟く忠人にビオラとアスターは笑う。
「しかしこれについてくるとは思わなかったぞ。さすがは勇者といったところか」
「そうですね。特に足回りは驚嘆に値します。あの脚力がなければ10分持たなかったでしょう」
「………嬉しく……ないっす…」
くたっ、と倒れる忠人。
「次だ、立て」
「……無理デス」
「………せめて座れ」
のっそりと立ち上がり地面にぺたんと座る忠人。その顔に焚き火の明かりが大きな影を落とした。
「では、改めて『接続』についてだ」
容赦なくビオラの講義が始まる。
「一応、歩きながら話した内容を覚えているな?」
「半分くらいは」
「上出来だ。魔法とは“大いなる根源”と呼ばれる次元、世界から引き出された現象ということは覚えているな」
「はい」
「そしてその現象を引き出すのに必要な通り道を覚えるのに必要なのが『接続』という行為だ」
「ええと?図書館の本の在り処を覚えるようなことですかね?」
「それでだいたいあっている。その例え方なら魔法は本の中身で“大いなる根源”は図書館、そして『接続』が本を借りる行為、魔力は……本をめくる力といったところか」
ビオラの講義は続く。
元々魔法に興味のあった忠人だ。すっかり復活して講義を聞き入っていた。
「『接続』すると精神が“大いなる根源”へと飛んでいく。この際実際の肉体は無防備だから注意が必要だ。さらに『接続』できる現象の種類には個人差がある。この種類を一般的に領域と呼ぶ。領域は6種類に分かれていると言われている。何か質問は?」
「今の所は特にないです」
ノートと筆記用具があれば全部メモしておけたのにと忠人は少し悔しく思った。
「6種類に分かれている領域のうち第一領域には炎、水、土、風、氷、雷などの自然現象の魔法が、第二領域には生命の身体や精神に関わる魔法が、第三領域には錬金術と呼ばれる技や物の速度を上げたりする魔法が所属している」
(第一領域が所謂四元素的な魔法、第二領域が白魔法に近い魔法。第三領域は科学に近い魔法ってことか)
「第四領域には光や闇、時間や空間など存在があやふやな現象に関わる魔法が、第五領域にはなんと言えば良いかな、個人や一族、種族単位での特殊な魔法が所属している」
(第四領域がなんかすごい主人公っぽい魔法で第五領域はゲームの種族専用魔法や固有魔法みたいなものかってあれ?)
「第六領域は?」
自らが使える魔法“快癒の御手”と“輝眼”所属する領域である第六領域の説明がなかったことを不思議に思う忠人。
「第六領域はな……わかりやすく言えばごった煮だ」
「……つまり?」
「第一から第五領域の全ての魔法に該当する魔法が所属している。ただ……」
「ただ?」
「効率が悪かったり何に使うのかわからなかったり思いっきり宴会芸みたいな魔法だったりするのだ」
「えーと?俺の“快癒の御手”も“輝眼”も第六領域なんですけど……」
「……逆にあたりとでも言える強力な魔法も所属している。だからごった煮と言われているのだ」
つまり当たり外れの大きいネタ枠ってことか、忠人はそんなことを思った。
「さて、やってみろ」
「はい?」
「『接続』だ。やってみろ」
「いやいやいやいや!やり方を教えて頂いていないんですけど?」
「『接続』と唱えるだけだ」
さあ、やれとばかりのビオラに忠人はため息をつく。おそらく、おそらくだがビオラは勇者である忠人の『接続』を見たいのだろう。おそらくだが。
10話も経ってようやく世界観と魔法の説明。これからちょっとだけ忠人くんのチートが発揮されます。チートって言うよりちーとくらいですけど。




