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“スレイヴリング”と転移魔法

“スレイヴリング”。


人間族が開発した亜人用の拘束器具。本来は力や魔力で劣る人間族がエルフや獣人を縛るために造られたものなのだが。 そんなことは忘れ去られ今ではもっぱら亜人を隷属させるために使われている。元々は行動の抑制しか効果がなかったのだが時代の変遷ともに命令機能が増えたとか。

そして命令機能以外にも色々と機能が増えているとか。例えば伸縮自在であることは基本的であったり。本来は首につけるものだが手につけられるタイプもあったりする。物理的にシメるものや魔力に干渉するもの、棘や針が出てくるタイプなどなど。

要するに一部の好事家が余計な機能を追加しまくって今の“スレイヴリング”がある。そういう事だ。


そして忠人が偶発的に装着してしまった“スレイヴリング”は解析の結果伸縮自在、装着位置がほぼ自由、魔力干渉型、命令絶対が機能として備わっているとわかった。


その説明を受けて、


「これ……どうすれば外れますかね……?」

「無理だな。むしろ何故巫女様から外れたのかの方が不思議だ」


左手の腕輪を引っ張ったり擦ったりぶつけたり色々と外そうと忠人が努力してしばらく。


泣きそうな表情で助けを求める忠人にビオラは諦めろと首を振る。


もちろん主人たるユリが正しい手順で操作すれば簡単に外れるのだが、


「……?ユリよくわかんない」


幼いユリにはまだ難しく外すことは叶わなかった。


「まあ、まだ命令が入っていないから今のうちにユリから離れればなんとかなるはずだ。街に行って外せる人を探せ」

「そうですね。四の五の言ってる暇はないです。さっさと記憶を消してください」


このままだと確実に大変なことになる。そう思った忠人とビオラは作業に入ろうとした。


「お兄……ちゃん?どっか行っちゃうの?」

「……聞かれたか」


終わったなと言うような表情のビオラ。子供とはタイミングの悪い時に限って耳聡くなるものである。


「……お兄ちゃん行かないよね?ずっと一緒にいてくれるよね?」


泣きそうな顔をしてユリが忠人に訴える。


「イヤだよ、お兄ちゃん……行かないでよ……」

「……ビオラさん、彼女の記憶も」


切なげな顔こそ見せているものの忠人は心中で早いところなんとかしないとこれ以上わけわかんない状況になる、と思っていたわ


「ダメ!お兄ちゃんはユリと一緒なの!『絶対に何処にも言っちゃダメ』なの!」

「……」


ポーン、またあの音が忠人の腕から響いた。『めいれいをじゅだくしました』とメッセージが表示される。


「…………この場合どうなるんですかね」

「どう皆に説明するかな」

「……そうですか」


ビオラが顔を背けたのを見て大体を察する忠人。ちょっと涙が出ていた。


「まあ、とりあえずビオラさんの奴隷と言うことにしておいて勇者くずれとして扱うのでどうでしょう」

「やはりそんなところか」


爽やかな森とは違いどんよりとした雰囲気をまとい忠人、ビオラ、アスターはこれからの方針を決めていく。


「そもそも私が召喚を止められなかったのが原因だ。それに勇者を帝国に渡すわけにもいかない」

「あのまま放置されても多分死ねましたし特に文句はないです」

「奴隷になってしまったのは私が転んだためだから私も責任を取ろう」

「いえ“ネガティヴプレッシャー”から庇って頂いたのにそこを追求はしませんよ」


いつのまにか謝罪合戦に近づいていた。ちょっとだけ日本に戻った気分になる忠人。


「話は変わるんですけど」

「なんだ?」

「ここって、なんていうか転移先なんですよね」

「そうだが」


少し不安そうに忠人は質問をする。


「衛兵?みたいな人がいないんですけど大丈夫ですか?解析されたりして敵が転移してきたりしないんですか?」

「……ああ、お前は転移の原理を知らないのか。アスター説明してやってくれ」

「そうだな。転移魔法とは厳密には自由に場所から場所へ跳んでいるわけではないのだ。転移先の一部を切り取って何かに保存しその一部が戻ろうとする力を利用して転移しているのだ」


つまり好きな場所に飛ぶわけではなく特定の場所に帰還する、と言った方が正しいですねとアスターは続ける。


「でも、それじゃその保存してある何かを取られたらここに来られてしまうんじゃないですか?」

「その心配はい。なぜなら正しく切り取られた時と場所を把握していなければ転移のときに弾かれてしまうからだ」


アスターが言うには転移魔法を組むタイミングでその場に居合わせた者だけがその転移魔法を使うことができるということだ。

この世界の知識が圧倒的に不足している忠人。それがどこまで本当なのか、どういうことなのかも理解できているとは言えないが、


「じゃ、またあのゾンビとかとやらなくてもすむんですね」

「ふむ、それは保証しよう」

「とりあえずこれが外れるまでは同行するということで」


忠人はそう言って左手を振る。


「本当にすまないな」


謝罪するビオラに困ったように笑う忠人。ここでどこかに放り出されてもどうすれば良いかわからない。それなりに信用できるビオラたちに同行するのが良いだろうと考えていた。


「代わりに、この世界の常識とか魔法とか教えてくださいね!」


にこり、と笑いながらそんなことを言う忠人。やはり超常の存在である魔法のことをもっと知りたいようだ。


「そのくらいならお安い御用だ」

「ほんとですか!」


魔法が学べることにやったと呟くあたり実に男の子である。


「……団長、ここにいつまでも止まるわけにもいきません」

「そうだな。少年、いくぞ」

「わかりました。ほら、ユリ。いくよ」


忠人たちの話に興味が持てなかったのか木の枝を持ってクルクルと回転していたユリに声をかけて、忠人はビオラたちを追いかけるのだった。

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