かつて愛と呼ばれたモノ
その夜、リーティアは不思議な夢を見た。
自分と同じ髪の色、同じ瞳の色をした少女が自分の目の前に立っていた。流石に顔の形は違っていたが、その少女は何処か一真と似ていると感じた。雰囲気というか、魂の形というか、そういう言葉にならない部分で似ていると。
『ねぇ、あの子が好き?』
「それって、カズマのこと?」
『そうよ』
いきなり核心を突いてくる。この少女は一体何者なのか、リーティアは測りかねた。自分のことなら答えは知っている筈。だから目の前に居る少女は自分とは違う人格を有しているとリーティアは判断する。
「好きか嫌いか、そう問われた好きね」
『……貴女ハッキリしてるわ。つまり、今の自分では好かれる自信が無いってことね』
今まで会ったこともない登場人物の癖に痛い所を突いてくる。知らず知らず、頬が少し引き攣っていくのをリーティアは感じた。眉に皺が寄る感覚もオマケとして。
「そんな事は無いわ。カズマだって、ここ一月で私に惹かれ始めているもの。選ぶ権利は私にあるのよ」
『そう、権利は双方にある。……でも自信家ね、そういう所も嫌いじゃないわ』
「いや、貴女に好かれる意味が」
『あら。特典なら在るわよ? 私なーんでも知ってるから、貴女が起きても暫く忘れない知識を授けてあげてもよくてよ?』
「本当に?」
美味い話には裏があると本で散々読んだからか、つい猜疑心が首をもたげてしまう。尤も、この少女の前ではそれは正しいことだろう。本能がそう警告していたからだ。
「私の気持ちだって解ってないじゃない」
『人の気持ちを理解しようとすると、面白味がなくなるから。秘密にしておいた方が楽しいじゃない?』
「……その気になれば筒抜けってこと?」
『そういう事よ。だから今までの会話は私の推察、それでも命中率は高いって自負しているわ。私、人間を愛しているもの』
愛という言葉がどうしてか、不穏な空気に包まれているような気がした。
それはきっと、自分とは相容れない感性で紡がれた言葉なのかもしれないと、リーティアは息を呑む。
『でもアレは頂けなかったわね』
「アレ?」
単語だけ出されても理解しようが無かったが、少女は気にせず言葉を繋げていく。
『綺麗に積み上げたガラス細工を、思い切り横から突き落とすような下卑さ。その癖、壊れたガラスの破片を踏んで痛い痛いと喚くの。どうしてこんな所に破片があるんだ~って。自分でやって、自分で踏んだことなのにね。モノを大切にしないから、ああなるのよ。私、人間を愛するとは言ったけど、無条件で、なんて言った覚えは無いのよ?』
一人で勝手に話が進んでいる。リーティアは口を挟む代わりに、一文字一文字を記憶するように意識を集中した。
『なのに勝手に縋り付いてきて、いやそれ私の管轄じゃないから。自分達で過ちを繰り返しておいて、ケツ拭けませんじゃ無いでしょう。子供じゃあるまいし、ちゃんと自分で後始末しなさいってーの。あまりに腹が立ったから『槍』の力を別の奴にあげちゃったわ。お父様はガッカリするかもしれないけど、どうせアイツに渡してもロクな使い途にならないだろうしね。面白い感じになるように、それらしい願いを持ってる――おっと』
少女は一通り話し終えると、途中でリーティアの視線に気付いて片手を立てた。
『御免なさい。すっかり忘れてたわ』
「……まぁ良いわ。貴女はカズマの関係者ってことで脳内補完しておくから」
『あらら。お詫びと言っては何だけど、貴女が知らない知識を一つだけ教えてあげる』
「何故?」
『貴女はこう思ってるはずよ。これは単なる夢で、この会話も自分が描いた空想の産物の可能性があると考えてる。ある意味間違いじゃないわ。その疑惑を拭うには、貴女が知らない知識を授けるのが一番手っ取り早いのよ』
「――」
筋は通っていた。しかし、それはつまり夢でありながら夢ではないという事になる。
「私、心の中を見透かされるのは好きじゃないの」
『好きな人が居るなら是非見てみたいわね。……でも判るわ。理解し合いたいという心の在り方のほうが綺麗だものね』
「なら」
『そうね。貴女の方から選ばせてあげるのが筋ってモノよね。……何が良い?』
「……ちょっと考えさせて」
リーティアは顎に手を当てて考える。恐らく得られる知識は一つだけだろうと。つまり、絶対に外せない。つまらないことで知る権利を消費したら、この少女は溜息を吐いて消えてしまうだろうと、強く確信していた。
『それは構わないけれど、あまり考え過ぎると目が覚めちゃうわよ? それで二度寝なんてしたら、間違いなく忘れてしまうから。それだけは覚悟してね』
「えぇ」
知りたいこと。それはどうしたら良いか、という質問では駄目だとリーティアは思う。キッカケが欲しくても、選ぶのは自分だ。例え目の前に居る少女が、何処かの神様であったとしても、自分で選ばなければ意味が無い。それだけは絶対に譲れなかった。
「決まったわ」
それは五分もの長考の果てに出た問いだった。
『聞かせて頂戴』
「■■■が■、■■■■■を教えて」
『……一番良い答えをあげる。それはね、■■■を■■って■■■よ』
「……え?」
『この世界でバベルの塔は壊されていないから、文字でなければ適当でもちゃんと通じてしまうのよね。起きてから忘れないように、一日だけやり方を刻んであげるから練習すると良いわ』
「それで通じるの?」
『こっちだと類似するモノが無いから大丈夫よ。それに、あの子の半生は知っているでしょう? 哀しい願いを聞き逃さないよう、人の機微をちゃんと見てる。だから、そんなちょっとしたことでも意図を読み取るわ。でも、忘れちゃ駄目よ?』
少女は息を吸い込むと、リーティアの瞳をじっと見据えた。
『それを口にしたら、貴女はもう戻れない。あの子も、どうしたって他人として見ることは出来なくなる。それだけ響く言葉だから。それに……』
「……それに?」
『あの子は、憧れや恋じゃ救えない』
それは『求める』想いだから。自分の理想を追い求め、他人に優しさを求めている行為だから。そうあって欲しいと願い続ける限り、人を助けることなど出来ない。それは人に、誰かに、想い人に、輝きという名の強さを求めるばかりで、弱さなど、認めても、求めても、いやしないのだから。
ならば。求めて、乞われて、願いを叶え続けて、心の傷を癒やせないまま、何時か死んでしまうだろう。誰も許してくれないのなら、せめて誰かを助けようと願って。それだけの力を持ってしまったのだから。
『貴女は今日、初めてその資格を得た。だから教えてあげることにしたの』
「……」
『それでも無理だと思ったら、止めた方がいいわね。あの子だって辛いもの。永遠に手にすることのない希望を抱くなんて、私が人間だったら死んでしまうわ』
「私は――」
『ストップ。そこから先は一人で悩みなさい。……それに、もうすぐ目が覚めるわ』
「まって、貴女は」
『無価値な愛』
冷たい眼差しがリーティアを貫いた。
『覚えておかなくて良いけど。――かつて愛と呼ばれたモノよ』
ここから先は第三章になります。ついでにM-ssを作るつもりです。リクエストがあれば感想と一緒にお送り下さい。可能な限り善処させて頂きますヘ(゜∀゜ヘ)




