夜間反省会
「うん、終わったで」
「それじゃあ進むか」
「「えっ」」
ルディの言葉に女性陣は露骨に仰け反った。今の状態でミス無く進むだけの気力は残っていない。そんな二人の様子を見ていた一真は苦笑して、助け舟を出すことにした。
「……と、言われても大丈夫なように、次から四人でやるってことで。ルディもそれで良いな?」
「うむ。んじゃ帰るぞ、丁度良い時間だしな」
ほっとしたように、女性陣は胸を撫で下ろした。
「兄弟子の冗談はちと今はキツイで」
「そうよ」
「ま、心配性なリーダーに代わっての激励みたいなもんだ」
ルディが昨日と同様に『帰還の星屑』を召喚し、指で握り潰す。サラサラと零れていく粉粒が魔法陣を描いて、四人を帰還場所まで一瞬で戻した。
―― ・ ――
四人はセリア嬢に探索結果の報告をすると、それぞれシャワールームで汗を流し、私服に着替えて夜の学校直営飲食区画に繰り出すことにした。
店舗の内の一つ、二十四時間営業の『バーフォール』に入り、男性二人女性二人の形でテーブル席に座って四人前のピザを頼む。談笑の内容は今日の『ミノタウロス』戦だ。
「師匠、アイツを相手にしたらどんな風に倒したん?」
「首の骨を折って終わりだな」
「……えーと、じゃあ兄弟子は?」
「首を一撃で刈って終了だな」
「参考にならないやん……」
「そうね……」
その過程をどうするかという話なのだ。
「発想の転換、勝利までの過程を逆算してみろ。まぁカズマは例外として、俺の場合はどうすると思う?」
「一撃で首を刈るとなると……そりゃあ一撃で切れる必要があるわね」
「となると、魔法……でもリーティのアレでも一撃で倒せへんかったし」
うーん、と悩む少女二人を微笑ましく見つめる男性陣。
「分かった、氣力や」
「武器に纏って斬るってこと?」
「せや。そやろ?」
「ふむ」
ルディは正解、不正解、どちらとも言わずに質問を重ねる。
「では、氣力を纏わせて斬ると仮定して、どうやってあの分厚い首を落とす? 相手は木偶の坊じゃないぞ」
「私より強く、早く……? んー……」
「兄弟子はまだ全盛期に戻ってないんでしょう。でも、うーん」
再び悩みだす二人。今度は一真がヒントを出す番になった。
「ルディは氣力を使えるが、長時間展開していたか?」
「ううん。使う分だけ使っ――あっ」
閃いた、と言うようにティアが金色の瞳を見開く。
続いてリーティアもその解に辿り付いた。
「そうよ。必要な時に、必要なだけ使ってたわ」
「となると……瞬間的に最大の氣力を使うてたんや。せやろ?」
「正解」
「おいカズマ。たった一分で解かれちまったじゃねーか」
咎めるような物言いだったが、ルディの目はそれに反して笑っていた。
妹弟子になる二人はヒントがあると、すぐに吸収して新しい一歩を踏み出すのだ。教えがいがあると感じるのは一真だけではなく、ルディも同様だった。
「でも常時氣力を纏わないとなると、防御が疎かにならない?」
「それは魔法の手助けを借りる。氣力だけに頼るのも、魔力だけに頼るのも、本来バランスを欠いて良くないからな」
「お前等、カズマが生徒会に呼ばれた時の話を覚えているか?」
「うん」
「えぇ」
「カズマは強い氣力を使えるから氣力バカと見られがちだが、魔力に関しても平等に行使している。ただ魔力の構築速度や展開規模がC++相当の為に、略式詠唱では強力な魔法を行使できない。その代わり、一節、一動作のちょっとした手順ですぐに展開できる魔法を大量に覚えている。これによって判断を狂わされたり、びっくりして動きを止めてしまった経験は二人にもあるだろ?」
一真とティアの戦闘然り、今朝のクリスフィアとの戦闘然り。一真は様々な錯覚や罠を用いて相手を手玉に取り続けてきた。使える氣力が強力だからと言って、それだけに頼り過ぎないよう、他にも手練手管を整えている。改めて言われると「あ、確かに」と二人は納得するように何度も頷く。
「判断、決断、結果の元になる認識への介入。これこそがカズマの戦略なんだ」
「認識への介入……」
「身近な例で言うと……そうだな。コイツは今日、竜族の娘とやりあったらしいが『言霊』という魔法を使ったって言ったな?」
「えぇ」
「相手が『ミノタウロス』でも同じだ。恐らく『言霊』で背後に気を逸らさせている間に距離を詰め、奴のシミターが自分を貫く前に首を刈る。アイツは氣力を感じられるようだったしな、声と一緒に氣力を格納しておけば、良い囮になるだろう」
「はぁ~……そこまで気ぃ回らんかったわ……」
「けど、俺はティアを評価するよ」
「え?」
「俺も最大の結果を得るために相応のリスクを承知して動く。今日、ティアがアイツの『苦痛の狂声』を食らうことを承知で足元を潜ったようにね。勇気ある行動が全て実を結ぶわけじゃないけど、破れかぶれではなく、ちゃんと考えた末に行動してた。よく頑張ったね」
「ふふ……面と言われると照れるわぁ」
「それとリーティアも」
「あら、どんな風に褒めてくれるのかしら」
「一度失敗しても、二度同じ轍を踏まなかったろ。手順を変えることによって、考えられる隙を極力少なくしていることが一つ」
「もう一つは?」
「二度目の連発攻撃、それでも仕留め切れなかった時に直ぐに動いてトドメを刺したろ? 硬直することなく勇気を出して前に進んだこと。よく頑張った」
「はい」
リーティアは誇らしげに微笑んで、喜びのあまり隣のティアに抱きついた。胸へのセクハラが無かったからか、ティアもリーティアに抱きつくような形で喜び合ってる。
「褒められるって、やっぱり気持ちいいわね。お姉ちゃん」
「せやせや」
「俺らもアレやるか?」
「流石に断る。アブノーマルだとは思われたくないからな」
「お前が三人大切な人だ――なんていうと、そういう可能性が出てくることも忘れるなよ?」
ルディの言葉は耳に痛い言葉だったらしく、一真は眉根に皺を寄せてコクコクと何度も頷いた。
「……うん、肝に銘じた」
「よろしい」
「大変お待たせ致しました」
まるでタイミングを見計らったかのように、ピザが乗った大皿を手に持ったウェイトレスが一真達のテーブルにやってきた。美味しそうな匂いがふわりとテーブルを舞っていく。
「生地が熱くなっておりますので、十分お気を付け下さい」
「おし、じゃあ頂きます」
「それぞれ美味しそうね。こっちの一枚頂戴」
「じゃあ俺のもどうぞ。代わりにこっちのを貰おう」
「私も私も」
今日も『幸運の鈴』のメンバーは仲良しだった。




