大人の事情 ・w・
「また何か質問があれば来るといい。私は此処で仕事をしているか
らな」
「はい」
一通りの質問を終えた一真達は、アンドリューに向かって再び一礼を行い、仕事の邪魔をしてはいけないからと四人揃って部屋を出た。『迷宮準備区域』のカウンター裏に戻るまで誰も言葉を口にせず、階段を登り切った所で、ティアが深々と息を吐いて皆の心境を代弁した。
「ふぅー……緊張したわぁ」
「あらあら」
受付嬢のセリアがクスクスと笑いながら手を叩くと、スライド式の床が階段を閉じて普段と変わらない風景になる。セリアは一真達の方へ改めて振り向き、僅かに首を傾げた。
「どうでしたか?」
「有意義な解答が得られたと思います」
「それは良かった。私もアポを取った甲斐がありました」
「えぇ、それはありがたい限りです」
「でもセリアの姐さん。ルディが先に行ってるなら、教えてくれても良ぇやないですか」
セリアはニコリと微笑んだ。
「更に三名の生徒が――と、私は言いましたよ?」
「確かにそう言うてたけど……。そこからルディの存在をキャッチするのは流石に難いわ」
「人生、何が起きているか判らないという教訓ですね~」
「むむむ……」
ティアは更に何か言おうとしたが、結局言葉にはならなかった。
「あ、そうだ。セリアさん」
「はい。何でしょう」
「『シオニウム鉱石』の持ち出しに関する申請書類って何処で売ってますか?」
「こちらですね。通常の雑貨屋では取り扱っていない筈ですので」
「『功績カード』は使えますか?」
「はい」
一真はポケットに入れていた『功績カード』をセリアに差し出す。自然、カードに浮き出ているPの数がセリアの目に入った。
「四四七六P……? 昨日が初めてですよね。何か大変なモノでもゲットなされたのですか? 武器とか装具とか」
「いいえ。特には何も」
「うーん」
特別な装備が出た訳でもなく、このような高いPを稼げるのが不思議だと言った顔で、セリアは真剣にカードを見つめる。が、次の言葉を出す前にティアがその答えを口にした。
「セリアの姐さん。それ師匠の固有スキルやと思うって、さっきも話してたんや」
固有スキル。それは迷宮に入った人間が開花する特異な力の事である。一般的に、迷宮に入らなければ効果を発揮しないと言われている。平穏無事なサラリーマン生活をしたい人にとっては無縁な才能。
「と言いますと?」
「宝箱が怪物パーティを倒す度に出てきて、中身もギッシリ詰まっていたの。全員で確認しているから、間違いは無いと思います」
「……そういう事ですか。カズマさんはちょっーと特殊ですからねぇ。スキルチェッカーで調べてみますか」
「お願いします」
セリアは指を鳴らして一真の右手に両手を触れる。すると仮想表示空間が目の前に現れ、結果が竜言語で表示されていく。
スキル:『財宝の皇子』
効果:
一、宝箱の出現率百%。
ニ、宝箱の質が最高になる。
三、呪われた品が最初から解呪済み。
「……うーん。凄いですねぇ」
どのぐらい凄いのだろうか、という疑問を浮かべた四人分の眼差しがセリアの言葉を待つ。
「宝箱が出る確率が倍になる『幸運の星』。宝箱の質を高める『栄誉の星』。呪われた品を自動解呪する『聖天の星』を所有する方々が五体を千切られんとするほど引っ張りだこになる――と、言えば伝わりますか?」
「おー」
「スキルがバレたらお前、国と国で引っ張りだこだな」
「もう既に三つの国のお偉いさんのお子さんにバレてるけどな。仲良くしてくれよ?」
「お師匠様、大丈夫よ」
「私ら仲良ぇもん」
ねー。と、二人は仲良く声をハモらせる。
陰謀渦巻くドス黒い何かでなくて良かったと、一真は二人を微笑ましく見つめる。
「カズマくんがモテモテになる要因がまた一つ増えるのか。モテ期ってこういうのだっけ」
「俺の知ってるモテ期と違うけど、似たようなもんだろう」
「「ははは」」
深刻に受け止めずに茶化す二人に、セリアは苦笑を浮かべた。
「どうしますか? 一応、見なかった事には出来ますが」
「ん~~」
一真は考えるように眼を閉じ、二秒ほど唸る。
「累計Pがランキングに載る……。これは当然、スキル込みの表示ですよね?」
「えぇ」
「……となると短期間ならともかく、長い目で見たら効果が無いか。スキル抜きで表示できますか?」
「注釈が付きますね。(※このP数はスキル抜きの値である)とか。怪物を倒した数がカウントできれば良いのですが、『隠密宮』ではそういうのも封印されているので……」
「面倒臭い仕様だな。注釈付きにすると下手に勘ぐられて、痛くもない腹を探られるようになるか?」
「でも二倍どころか五倍、十倍だと流石にな……。他の生徒の迷宮探索に悪影響が出かねないぞ? 主にやる気の問題で」
「そうだなー」
「では大雑把に七分の一、という表記にするよう申請しておきますか?」
「それでお願いします」
「分かりました。まぁ皆さん優秀ですし、一年潜り続ければスキル抜きでも独走状態でしょう。いっそ最高記録に挑戦してみたら如何でしょうか」
最高記録に挑戦、という単語にリーティアの瞳がキラリと光る。
「前代未聞の記録を打ち立てる……良いわね」
「おおぅ……末っ子のやる気が満ちてきてるで。兄弟子、どないするん?」
「そうだな妹弟子よ。カズマに別のパーティから勧誘が来たら『カズマを連れて行きたくば弟子達を倒すんだな。最後は師匠と戦って勝てたら持っていくが良い』とか何とか言うのはどうだ?」
「それ! ごっつ面白そうや」
「勝てば官軍ね。……ふふ、すっごく燃えるわ」
「俺達も決闘の経験も積めるし、カズマまで辿り着く猛者が居ればコイツも喜ぶだろう」
「よし。それで行こうか」
「皆さんポジティブですねぇ~」
半ば呆れ顔のセリアに、一真はニコリと笑みを返した。
「悲観主義は面白くないので」
「素敵ですよ、そういうの。えーと……元は『シオニウム鉱石』の申請書類の話でしたね」
「はい」
「申請用紙と封筒が一枚二千DCになります。あと切手代は五千DCですね。オプションとして速達と内容証明、重要内容ということで監査順を早める判子――これらのGセットが一万DCになっています」
無駄に高いという感想をグッと飲み込み、一真は比較例を尋ねることにした。
「Gセット無しと有りだと、どの程度早くなりますか?」
「そうですねー。半月掛かる所が二、三日と言った所でしょうか」
「じゃ、それ全部で」
「はい」
一真はカウンターに設置されていた刻印にカードを触れさせる。承諾、確認の電子音の後、セリアは緑色の申請用紙と青の封筒、竜の紋章が描かれた切手と拳大の大判を取り出した。
「ではこちらです。言わなくてもお解りになるとは思いますが、申請理由が正否を分けますので良く考えて下さいね」
「そうですよね……なら『私、カズマ・ミカゲの固有スキルにより高純度のシオニウム鉱石が定期的に採れる為、結晶体の研究素材として一定個数を確保する許可を頂きたく、ここに申請致します。なお結晶体の製作は竜帝校の魔法付与師、アンドリュー・バッツドルフさんに専属の依頼を行い、制作物に関しては竜国内で消費することを誓います。』と、こんな所でどうでしょう?」
「国に使用する個数を委ね、技師として竜族の方を指名し、制作物は竜国の外には出さない……完璧ですね。無理にゴネても御国の利にはなりませんし、むしろ条件を緩くすることで愛着を覚えさせる方へ動くかもしれません。財宝系の固有スキル所持者は希少ですしね」
「お墨付きを貰った所で本番だな」
一真は胸ポケットに入れていたペンの蓋を取ると、申請用紙に竜言語でサラサラと述べた内容を一文字一文字丁寧に書いていく。こういう細かい所で好意を稼ぐのが、人付き合いを良くするためのポイントなのだ。
最後の一文字を書き終えると、一真はセリアに申請用紙を手渡した。
「確認をお願いします」
「はい。……えーと、ふむふむ。はい、問題ありません」
セリアは用紙の端を指で二回叩くと、もう片方の手で指を鳴らして『軽防護』の魔法をかける。用紙の表面がまるで薄い樹脂で加工されたかのように、照明の光をテラテラと反射していた。
「それでは、こちらの書類は責任を持ってお預かりいたします。魔具はお持ちですか?」
「あ、はい」
「書類の返送先が竜帝校の総合受付になると思いますので、届き次第メールでお伝えしますね。その為のアドレスを教えて下さい」
「分かりました。アドレスが……」
一真とセリアはそれぞれポケットから魔具を取り出し、アドレスの送受信機能を使用して速やかにアドレスを交換した。
「セリアさん、今日は色々とありがとうございました」
「いえいえ。パーティ『幸運の鈴』の活躍、私も賭け――楽しみにしていますので」
何やら黒い言葉が聞こえた気がしたが、世の中には知らない方が良い事が色々とあるのだろう。一真達は笑顔のまま黙認することにした。




