一旦解散(アセノホウチハカゼノモト)
「あ。そうだ」
一真は何かを思い出したかのように再び手を挙げた。
「マーガレットさん。質問があります」
「はい」
「質問集の冊子か、それに類する物がありますよね?」
「何故そう思うのですか?」
セリアは試すような笑みを浮かべて一真を見つめた。
「今日は入学式だから人は少ないですけど、こんな対応をパーティ分やっていたら係員が何人居ても足りないでしょう。説明に抜けがあっても困る。となると、それを補完する何かがあっていいかなと思うわけです」
「はい、よく出来ました」
一真の答えを聞いたセリアは嬉しそうに頷き、カウンターの空間に手を入れて四冊の冊子と、スマートフォンのような形をした魔具を四つ取り出した。それを一真達、一人一人に渡していく。
「ちゃんと考えているのは良い事です。ではこちらの冊子と、魔具をお渡しします。『功績カード』は魔具のスロットに入れておいて下さい。連動していますので、それで一括処理されます。他には何かありますか?」
「あ、俺からも質問があった」
今度はルディが手を挙げた。
「はい。何でしょう」
「迷宮に入る前にテストはありますか?」
「……本当に良い所を突いてくれますねぇ。学校からの講習を受けてから迷宮に入って頂く場合はテストがありませんが、人に先んずる事を求める方にはテストをまず突破してから迷宮に入って頂きます。主に筆記と実技ですね。私が試験官を兼ねていますので、お気軽にお声をお掛け下さい」
「だとよ」
「死人を増やさないことを考えたら当然ね」
「じゃあもう一つ。多分、これで最後です」
「はい」
「通常の講習を受けて迷宮に入る場合と、独学で迷宮探索の資格を得る場合の、二つ。これらの平均的な達成期間を教えて下さい」
「講習は通常、四ヶ月掛けて行います。今が四月ですから、夏休みを挟んで九月の上旬には入れるようになりますね。独学の場合、平均はその半分から三分の一、多めに見て二ヶ月と言った所でしょうか。竜帝校に入られる方々は優秀ですからね」
「解りました」
と、そこで一真は後ろに振り返り、三人の顔を交互に見つめる。
「俺達のパーティ名はどうする?」
「リーダーに任せるわ。センスを見てあげる」
「あー……笑いは取らなくてもええよ?」
「となると真面目系だな……よし、カズマに任せた」
「それじゃ遠慮無く」
一真は再びカウンターの方へ振り返り、申請用紙に竜言語でサラサラと書き込んでいく。後ろの三人は一真の手元を覗き込むように見つめ、書かれた文字を凝視した。
徐にリーティアが呟く。それはこの四人組のパーティ名。
「……『幸運の鈴』」
「武器だの盾だの色々考えたけどね。ここは一つ、ご利益がありそうな名前が良いだろ?」
「ふむ……」
その名を聞いたルディは自身の顎を指でなぞる。そして納得するように目を伏せ、小さく頷いた。
(……そういうことか)
「良いんじゃないか? そこまでガチガチの雰囲気でもないしな」
「でも、見合うだけの成果ださんとショボく感じてまうかもしれへん」
「そこはこれからの結果次第、ってことね。良いと思うわ」
「それじゃ、このパーティ名で申請します」
「はい。それと、それでは皆さん適性検査の用紙はお持ちでしょうか?」
一真、ルディ、リーティアの三人は持っているのをそれぞれ確認している。無言の内に、自然と視線がティアに集まっていく。
「私も持っとるよ」
「了解」
「一応、見せて頂いて宜しいでしょうか。私もこう見えて元冒険家だったので、何かしらのアドバイスが出来ますから」
ティアを筆頭に各々の鞄から適性検査の用紙を出し、一真が一人一人回収していく。全ての用紙が集まった所で、セリアに手渡した。
セリアは詳細文に特に執着せず斜め読みで済ませ、ランクだけを眺めていく。
(えーと……カズマさんが『軍属・官僚・学者・神職』の並びで、『B++・B+・C・A++』。ルーディックさんが『A・C・C・B+』。リーティマイアさんが『B++・A・B+・B+』。ティアラルさんが『B++・B・A・B++』……これはまた凄いパーティですねぇ。全員Aランク適性持ち。行動派なのに学者適性も学を年齢相応に収めているレベルのC。おまけに全員神職適性がB以上……。竜帝校じゃまず見られませんし、先程までの会話から察するに一日で集った多種族混成……ホントに規格外の子達ですねぇ。特にカズマさんはどう見ても……まぁ一介の職員による過度な介入は良くありませんね。個人の事情にも干渉してしまいますし)
「はい。ありがとうございました」
集めた用紙をトントンと机の上で整え、一真に返した。
「どうでしたか?」
「他に類の無い構成具合なので、一つだけ。貴方達は全員我の強い困ったちゃんです。なので、迷ったりパーティ内で反発が起きたら判断をリーダーに丸投げしちゃって下さい。カズマさんは責任を持ってパーティを纏め、パーティの皆さんはカズマさんを信じて下さい。以上がアドバイスになります」
アドバイスになっているのかどうか微妙な可否ラインだったが、一真を除く三人は特に何も言わず頷く事で肯定した。何はともあれ、一真を中心として動くことを各々決めたのだ。
「それでは」
一真は一歩前へ踏み出し、両手を腰に添えて頭を下げた。
「質問に答えて頂いて、ありがとうございました」
他の三人も同じように一礼し、言葉を揃える。
「「「ありがとうございました」」」
「いえいえ」
セリアはにこやかな笑顔で手を振り、一真達に軽く頭を下げた。
「また聞きたいことがあれば、何時でも声をお掛け下さい。二十四時間、係員が在中していますからね」
「はい」
―― ・ ――
『迷宮準備地区』から地上に戻った一真達はラウフドゥーリア式、多機能搭載通信機器。通称『魔具』のアドレスを交換し合った。ちゃんとメールや通話が出来るか一通り確認した後、一真は三人に向かって、
「今日は一旦解散しようか」
と、宣言した。
「冊子を一人で眺める時間も欲しいだろうし、それに」
「それに?」
「ティアが風邪でも引いたら大変だろ。俺もシャワー浴びたいし」
「……それもそうね。あとでメールか電話を頂戴」
「あ、私も」
「了解」
―― ・ ――
そんなこんなで一真は学校から充てられた男子寮の個室に戻ってきた。シャワーを浴びて濡れた髪をタオルで拭い、壁に掛けられた時計を見れば現在十四時二十二分。結構話し込んでいたなという感想が頭を過ぎり、ベットに横たわりながら魔具を手に取った。
(まさかスマホまであるとは……)
この国――いや、この世界の技術や文明の進み具合は現代世界で最先進国と評される日本とあまり差が無い。むしろ生活関連の機器に関しては日本より進んでいると言えた。
その理由として挙げられるのが、異世界から招かれた人間によって齎された技術導入。これに加え、先程の説明にもあった『シオニウム鉱石』の存在だ。
現代世界では、石油や天然ガスと言った化石燃料を始めとする消費型の資源を使うことによって電気を生み出し、その電気で工作機械を動かし、加工製品を作っている。
この『資源消費』による社会発展の構図はこの世界でも変わらない。だが迷宮探索によって得た『シオニウム鉱石』が異様な利便性を発揮し、世界の在り方を大きく変えていた。
『シオニウム鉱石』はこの世界でも発掘されるチタンやネオジムなどの希少土類、希少金属、あるいは化石燃料と溶かし合わせると、母体となった素材の性質を取り込み高性能化を施す。例えば石油ならより少量でより多くの熱を持つと言った具合だ。おまけに投与された『シオニウム鉱石』に応じて総量を増やすようになる。
これだけでも常識どころか物理法則さえ超越する勢いの代物だが、『シオニウム鉱石』が有する最大の利点は別にある。『シオニウム鉱石』を含有させた物質は、元が生物にとって有害な物質であっても無害な物質に変質させてしまうのだ。たとえ燃やそうとも性質は変わらない。
よって極力自然に負担を強いることなく文明を発展するのが可能になっている。これは新技術導入の敷居を下げているのと同じだ。元になる素材も他世界より高性能である為、ソフトはともかくハードに関しては融通が利く。あとは異世界からやってきた招人の知識さえあれば、未知の技術でさえも瞬く間に世界に広がっていく。
(でも魔素と魔法があるから今更か……)
魔素――正式名称は『精神感応素粒子』だ。文字通り人間の精神に反応して様々な現象を起こす物質を指す。その魔素を動かすエネルギーが精神力、あるいは魔力と呼ばれる力であり、魔素によって呼び起こされた現象を魔法と呼んでいる。
そうした魔法が高性能ハードと組み合わされば『功績カード』による『財宝転送』を初めとする便利な超常現象を日常的に使えるようになる。このスマートフォンのような物も、そうした産物なのだと言えた。
ピロロロリーン♪
甲高い音と共に画面に手紙のマークが浮かぶ。中身を開いてみると、一件のメールが入っていた。
・差出人:ティア
・要件:十五時に会えませんか。場所は第二図書館が良いです。
(メールは近畿の方言じゃないんだ……)
などとメールの内容とは全く違う方向に一真の思考が逸れて行く。
(折角のお誘いだし、言っておきたいこともあったしな)
一真は了承の旨を端的に纏め、送信ボタンを押した。




