四人組(Quartet)
「なら最後の一人が加わった所で……えっと、ティアラル?」
リーティアが確認するように尋ねると、ティアラル――ティアは右手を左右に振った。
「リーダーからして、このパーティは愛称で呼び合っとるんやろ? 私も愛称でええよ。ティアでも、ティーアでも。代わりに私もリーティと呼ぶわ」
「じゃあ、ティーア」
リーティアは胸ポケットから薄緑色のカードを取り出し、ティアに見せた。
「貴女『功績カード』はもう作った? これなんだけど」
「うん。私も昼餉の時に貰うたさかい、ちゃんと持っとるよ」
「じゃあ申請は?」
「終えとる。……その延長の話で姉さんに無理言うてしもうたんや」
萎縮するようにティアの『耳』が横を向いて項垂れた。それは自分が要求していた結果に見合うだけの実力を、まだ持っていないと素直に反省した結果なのだろう。決闘に勝てなかったショックもあってか、見るからに萎縮してしまって尊大な部分は見る影もない。
一真はそんなティアの頭の上に手を乗せて、優しく撫でた。
「まだ決着は付いてないだろ」
「え?」
ティアは驚いて一真の方へ振り返るが、優しい手も、にこやかな笑みも、止めようとしない。
「一方的な時間経過を宣言して終わらせたからな」
「でも私」
「『まだやれる』と言ってた筈だ。だから次に持ち越し。それに――次は勝つだろ?」
項垂れていたティアの『耳』が、言葉の意味を理解するようにゆっくり持ち上がっていく。それを見た一真がまた髪を撫でて『耳』に触れると、弧を描くように『耳』がゆっくりと垂れ下がっていく。もし尻尾が顕現していれば、きっとそわそわと動いていたことだろう。
「……カズマは狡いわぁ」
「策士と言ってくれ。策士と」
「むー」
「もう……話が進まないじゃない」
と、リーティアが手を二回叩いて場を仕切る。
「ハイハイ。他に誰も居ないとは言っても、カウンターのお姉さんが待ってるわ。行くわよ?」
「おー。待ちくたびれたぜ」
四人がカウンターに近付くと、お姉さんは改めて一礼した。
「はい。それでは私、セリア=マーガレットが説明しますねー。まず、迷宮内で手に入れる『財宝』の転送先申請書はこちらでお書き下さい。魔力付与によるご本人様の認証作業も含まれておりますので『自動書記』ではなく、必ず手書きでお願いします。それと――」
セリアの説明が続いていく。それらを『自動書記』で纏めると、このようになった。
一、パーティについて。
・新入生は四人以上の迷宮探索メンバーを集め、リーダーを定めた上でパーティを申請すること。
・竜帝校での迷宮探索は基本四人、最大六人とする。これ以上の人数で挑もうとしても『封印の大門』が拒むので入れない。
・四人未満での探索も可能。ただし『功績カード』の総計ポイントが一定以上で、学校側から少数探索を認められた実力者に限る。
・少数探査の場合『命のクリスタル(※後述)』を必ず所持すること。所持しない者が係員の目を盗んで迷宮に潜って死亡した場合、学校からのアフターケアは無い。
二、迷宮内で拾った財宝について。
・迷宮探索で得た『財宝』は原則として探索パーティに帰属する。
・ただし『シオニウム鉱石』に限り、学校が所属する国家――竜帝校の場合、竜国に帰属する。
・『功績カード』によって転送された『財宝』に関しては、ポイントと引き換えに竜国へ権利が移譲された物と見做す。
・間違えて『財宝』を転送してしまった場合は速やかに学校へ申請をすること。ポイントと引き換えに交換となるので、先にポイントを消費しないように。
・一時的に預かって欲しい物がある場合、月極の有料保管庫があるので、そちらで保管するように。
・転送された財宝は毎日二十二時に締め切られ、ポイントの割り振りは二十四時に行われる。即時では無いので注意。
三、学校からの支給品について。
・学校内で通話可能な魔具を渡すので、アドレスを各々交換しておくように。
・『命のクリスタル』は貴重で一月に一度しか配られない。カウンターで『功績ポイント』と交換が可能。
・『命のクリスタル』の効果は『身代わり』。致命に至るダメージを代わりに受け、砕け散る。迷宮からの転送効果は無い。
・『魂のクリスタル』は更に貴重で三ヶ月に一度しか配られない。これもカウンターで『功績ポイント』と交換が可能。
・『魂のクリスタル』の効果は『命のクリスタル』の効果に加え、砕け散ると同時に迷宮からの脱出転送が発動するというもの。
・二つのクリスタルの原材料は『シオニウム鉱石』であり、これを拾ってくることによって安全性が高まるので、多く拾ってくれると有り難い。
・命あっての物種なので『命のクリスタル』が割れてしまった場合、あらたに配られるまで勉強に専念することをオススメする。
「――と、こんな所ですかね。何か質問はありますか?」
「はい」
真っ先に一真が手を挙げた。
「はい、どうぞ」
「学校の案内に詳細が載っていないのは何故ですか? 特に『命のクリスタル』とか」
「良い所を突きますね。理由は『勉強の延長上』で迷宮探索を見る人を少なくするためです」
迷宮探索が命懸けではなく、スポーツのように思っている者が少なからず居るということだ。
「まず厳然たる事実を述べましょう。迷宮探索は国にとってメリットが沢山あるので、本当なら好きなだけ迷宮探索を行なって欲しいという考えがあります」
あまりに明け透けな本音に、四人は思わず声に出してしまった。
「……ぶっちゃけ過ぎやろ」
「……御為倒しすっ飛ばして良いのか国家公務員」
「……今の時期にやってくるような俺等に遠慮しても仕方がねーってことだろうな」
「……分かっていたことだけどね」
「ですが迷宮探索は命懸けです。そして人命を賭しているのは国民であり、国民は国家の根幹を成す存在であり、失い難い王家の財産でもあります。人情的にも、出来るだけ死んで欲しくないのは道理ですね」
「それと、説明不足がどう繋がるのですか?」
「新入生の皆さんは徹底的に迷宮が『怖い』所だと教えられている筈です。ご家庭から、学校の冊子から、あるいは知り合いから。それによって生じた緊張感をあまり損ねたくないのです」
「例えば『命のクリスタル』があるから大丈夫。などという考えが一番危険という事ですね?」
「はい」
「うぅ……あっさり言われた。しゃーないけど……」
不測の出来事に不運は付き物で、予想もしない結果を招いたりする。そういう時に助けになるのが手堅い計画であり、日頃から積み重ねられてきた事前練習であり、入念な下準備なのだ。
「『怖い』所に潜るとなれば、皆さん必死になって調べようとするでしょう。なので、わざと不親切で調べるのに手間が掛かるようになっています。同時に、早目の時期から調べればお徳な箇所もあります。例えばクリスタルの支給に関しても、パーティを登録してから支給を開始すると言った風にです」
「ふむ」
「それに私達は説明を求められればキチンと答えます。同時にこうした手間こそ、あなた方を生かす命綱の太さを決めると言えるのです。ここはまだ学校ですから、講師や私に尋ねれば教えてあげられますが、社会に出れば誰が教えてくれるかも判らないでしょう」
「確かにそうね」
「自分から調べることを必然とし、自分達で考える。将来的には慣れや油断による怪我や事故も出てくるでしょう。それでも最初から安全な部分があると思われて致命傷を負わせるぐらいなら、危ない部分を全面に押し出してビビリ君を増やす方が危機に陥る確率は低い。そう考えていますし、もし慎重を期すような人を小馬鹿にするような子はお仕置きします」
「……うっ」
リーティアの額に汗が浮かぶ。セリアはその反応から察したが、にっこりと微笑んだ。
「向上心があるのは良いことですよ? 良い結果を出す為に、率先して前に出るのも良いことです。それに、自分が成した事を周囲に知らしめる為の時節という物も確かにあります。ですが、まず無事に生きて帰ってから行えることです」
優しく諭され、リーティアは目を伏せる。
「はい……」
「他に何か質問がありますか?」
「迷宮が基本四人最大六人なのは、強制的な制限が掛かるからですか?」
「その通りです。『主神』から神託がありまして、迷宮ごとにパーティの人数が定められているので、それ以上で入ろうとすると『封印の大門』から拒絶されて入れません。無理矢理入った所で『財宝』が手に入らないとか、それ相応のペナルティを負うでしょうね」
「なるほど」
「今度は私からの質問。パーティの最大数を制限するぅ言うなら、中は別パーティと遭遇する型なん?」
「準非遭遇型ですね。中がとにかく広いので、別のパーティと鉢合わせすることは殆ど無いでしょう。怪物の湧き具合も、他の迷宮と比べてかなり高めになっています。竜帝校が最難関と言われる所以ですね」
「次は私からの質問。迷宮に入ったら階層はともかく、ランダムで飛ばされるって聞くけど、戻るにはどうしたら戻ってこれるの?」
「青い光を放つ『扉』を見つけるか、『帰還の星屑』というアイテムを『財宝』として手に入れるか、もしくは宝石店にて販売しています。『シオニウム鉱石』を加工する際に大量に出来る副産物なので、そこそこ安いですよ」
「あと、初日から説明を求めてくるイカした人達はどのぐらい来ますか?」
「そうですねぇ。そういう常識外れな子達は毎年一%と言った所ですかね。一週間以内という括りならともかく、初日からというのは中々居ませんね」
ああ、でも。とセリアは思い出したように視線を宙に寄せて、
「女の子ばかりのパーティですが、貴方達の前に一組来ましたね。丁度お昼前に集まって、申請されてました。えーと……『真紅の剣』というパーティ名ですね」
「へぇ」
「その子等、みんな竜族なん?」
「えぇ。まぁ竜帝校の生徒なので普通ですが……」
「……何か含みがあるのは何故?」
「その……お一人が『打倒、カズマ・ミカゲ!』みたいなことを仰っていたので、カズマくんと関係があるのかなぁと」
「関係が無いと考える方が難しいな。やーいカズマくん、モッテモテー」
「余り褒めるなよルディ。恥ずかしいじゃないか」
「……カズマの度胸って、心臓に毛が生えとるようなレベルやわ」
「ま、頼もしいと言っておきましょう」




