第九話 砂嵐に阻まれて
【前回までのあらすじ】
幻獣ハバキネス調査隊の五人は、それぞれが胸の内に思いを秘めながら、グレートワイツへの船に乗り、本土を出たのだった。
最新型の船で行く船旅は順調で、危険度の高い調査であるにもかかわらず、出だしは呑気なものだった。
半日もすると、問題の島が見えてきた。
ノクトは船べりに立って、ついに姿を現した島を、ラベンダー色の目を細めて睨みつけていた。
あの島に、姉さんが……。
なんだか、長い長い、果てしない悪夢を見ていたようだ。
そして、この悪夢の真相を知る旅が、これから始まるのだ。
「怖い顔してるぜ、お前さん」
黒い髪をうしろに向けてセットした、コートの男が話しかけてきた。《ソイブレイカー》のトロントだ。
「不必要に馴れ合う気はないが……」
さらりと銀色の髪が潮風に吹かれている。
ノクトは憎悪の未だ消えない目で、トロントを睨んだ。
しかし、ふっと目の光が柔らかくなる。
「家族を思う気持ちは、オレにもわかる……。
《ソイブレイカー》と共に戦ったことはなくてな。楽しみにしている」
ノクトは、トロントが自己紹介の際に、病気の子供の話をしていたことを思い出していた。
自分も病弱だった為に、色々な苦労があった。
その家族の気持ちも、ある程度はわかるつもりだ。
ノクトの目の光が柔らかくなったことで、トロントもようやく警戒を解いて笑った。
「ああ。あんたについて、噂は聞き及んでいるよ。
三年前の、首席合格の《ナイトキラー》だろ。
この三年でかなりの成果を叩き上げたらしいな。よろしく頼むぜ」
クレアとマリンも、船の先端のほうに立ち、島を眺めてた。
船の縁に肘をつきながら、灰色の肩まである髪をなびかせて、クレアはつぶやいた。
「案外近いんだね、グレートワイツ。そこまで大きくはないのか……」
「あら……。なんだか、島が……」
マリンが気づく。どういうわけか、島が大きなモヤに包まれている。
「大変だ、島に猛烈な砂嵐が発生している!」
船長室から島の様子を観察していたハルジオが、大急ぎで甲板に上がってくる。
「砂嵐……だとぉ?」
トロントも素っ頓狂な声を上げる。ハルジオは緊迫した声で神妙に伝える。
「あの砂嵐は規模がやばすぎる。
今接舷することはできないので、このまま海に停船することになります」
「えええ!」
クレアは叫んだ。いきなりの接舷不能。
「ある程度の携帯食料はありますが……基本、島で食料調達をする予定でしたよね……」
マリンが嫌なことを思い出す。ハルジオが困ったように、
「グレートワイツの砂嵐は本当に稀に起きる自然現象で、接舷できなくなるほどひどくなるのは十年に一度ぐらいなんだ……」
「マジかよ……。どういう悪運なんだ、オレたち……」
トロントが片手で頭を抱える。
どちらにせよ、これ以上ここでは動けない。
ハルジオは、砂嵐の様子を眺めて、望遠鏡で確認しながら言う。
「しかも、見た感じ、砂嵐は数日は続きそうだね……」
「諦めて、食料と数日間の生活について考えましょうか……
まさか上陸さえできないとは予想していなかったので、少し心もとないですね」
限りなく前向きに努めて、マリンが船の食料をチェックしながら言う。
「船に乗っているのは、1日分の携帯食料と、あと……」
「私、バナナ六本持ってるよ!」
元気いっぱいにクレアが挙手する。
「なんでバナナとか持ってるんだよ」
流石に笑いをこらえながら、トロントは言った。
荷物の中を漁りながら、クレアは言う。
「なんか、バナナ持ってると、いつも何かと助かるんだよね〜。
今回も早速助かったじゃん」
「まあ、そうだけど……バナナ信仰……?」
「足が早いから、携帯食よりも先にバナナから食べましょうか」
マリンの提案で、五人はとりあえず甲板に集まり、座って食事を摂ることにする。
クレアが全員にバナナを配布する。
「んじゃ、すまないな、クレア。
貴重な食料をわけてもらっちゃって……。いただきます」
トロントはありがたくバナナをちょうだいする。
「いいよ〜。役立てるために持ってきたんだし。
はい、ノクトもどうぞ」
ノクトもバナナを受け取る。肩のアイリーンがぺこ、と頭を下げたように見えた。
幻獣調査をするためにやってきた調査団の精鋭たちが、甲板の上でバナナを剥いて食べる、という謎の画が完成した。
携帯食で食い繋ぎながら、一日が過ぎ、さらに半日がすぎていく。
◆
「さて……」
神妙な顔で、ハルジオは全員に言う。
「いよいよ食料がピンチです」
「私たちのピンチ、来るの早っ!」
思わずクレアが突っ込んだ。
腕組みをして縁に寄りかかったノクトが言う。
「砂嵐の様子はどうなんだ?」
「全くの変化無しだね……あと2日ぐらいはそのままかもしれない」
ハルジオの返事に、肩を落とすマリン。濃い藍色の髪が揺れた。
「本当に私達、運がないですねぇ……」
「まあ、しょうがねえ。
食料調達は島でやる予定だったが、それが少し早まるってことで」
言いながら、トロントが折り畳み式の釣り竿を取り出した。
「オレが何か釣ってやるよ。
どうせ暇だしな」
おおー、と歓声があがった。
「トロント、釣り竿持ってきてたんですね!
助かるなあ。ここの近海には何がいるんだろう」
ハルジオの疑問に答えたのは、生物知識が豊富なマリンだった。
「この近海は豊かなサンゴ礁があるので、多種多様なお魚が釣れますよ。
食べるのに適した魚がたくさんいると思います」
「それはありがたい!」
ハルジオは手放しで喜んだ。しかし。
「……あれ?」
トロントの様子がおかしい。
「やっべ!餌持ってくるの忘れたわ!
虫とかミミズとか、島にはいくらでもいるだろうから、現地調達でいいかと思って……」
それはつまり、餌がないから魚は釣れないということだ。
マリンは残念そうにしながら、それも致し方ないと納得せざるを得ない。
「まあうん、普通はそうですよね……」
そこで、奇跡的な発想のクレアの発言。
「餌ならさあ、バナナでよければ最後の一本あるけど?」
しかし、全員の間に沈黙が流れる。
「バナナで、釣れるのか?……まあ匂いはあるから、可能性はある……か?」
さすがに疑問に感じて、ノクトが考えながら口を挟む。
「とりあえず、他に何かあてがある訳でもないから、試してみるか」
前向きな声でトロントが言う。
クレアは最後のバナナをトロントに渡した。
それは、幻獣調査団の精鋭たちが本国を出発してから、既に二日目のことだった。
精鋭揃えて二日間も、何やってるんでしょうねほんと……という回でした。
このあたりの実際のTRPGセッションについて、活動報告にネタとして書きたいと思います。
お楽しみに!




