第十話 静かな始点
【前回までのあらすじ】
その日の食事に困った幻獣調査団の精鋭は、バナナで魚が釣れるか試すことになった。
「さあ、釣るぞ!」
トロントは、バナナを丸めて針の先につけると、船の縁から釣り針を垂らす。
しばらく釣果を待つことに。
「お、きたきた!」
ぐぐぐ、と釣り竿が強い力で引かれる。
引いて、押しての釣果バトルの末、一匹の魚を釣り上げた。それは──
「これは……なんだこれ。硬そう……」
すさまじいまでの、刺々しい魚だ。
トゲだらけで食べる部分があるようには見えないが、捌けばどうにかなるのだろうか。
ハルジオが釣れた魚を見ると、ああ……という微妙な顔で説明してくれる。
「これはハリセントローチですね……。
こいつらが海域に出現すると大群で支配して、こいつらしかいなくなっちゃうんですよね……」
トロントは再び素っ頓狂な声で叫ぶ。
「こいつらしかいなくなるゥ?
さっきの豊かなサンゴ礁があっていろんな魚がどうこうって話は……?」
「まあ、逃げていなくなっちゃいますよね」
マリンが、本当に困ったように笑った。
トロントは絶望して、甲板にバタンと倒れて大の字になった。
「マジかよ〜……。ところでこいつ、食えるのかな?」
「食べられる部分は少ないみたいですが、頑張って捌けばあるいは……?」
マリンは、ハリセントローチをつつきながら返事をする。
それを聞いて、トロントはわずかな希望を持った。
「そうか、一応は食べられそうで、この下に大群がいるっていうなら、たくさん釣ればとりあえずどうにかなるか!そうときたら釣りまくってやるぜ」
「ていうか、バナナで魚釣れるんだな……」
ノクトは自分の中の知らないサバイバル知識を、また一つ更新した。
◆
というようなわけで──
やる気を出したトロントが大量にハリセントローチを釣り、マリンとクレアが必死になってそれを捌いてくれたおかげで、総員今日の食事にありつくことができた。
ハリセントローチは半透明な身を持ち、薄造りの刺し身にすると素晴らしく美味だった。
「おいし〜。こんなところで高級お刺し身食べられるなんて」
「ほんと、美味しい!」
クレアとハルジオが、美味しそうに一枚一枚味わって食べている。
「……三人ともありがとう。大変だっただろう」
ノクトは、釣ってくれたトロントと、捌いてくれたマリン・クレアに礼をいう。
マリンはほほえみながらノクトに応じる。
「いえいえ。とにかく食べるものがあってよかったです。
運は悪かったですけど、なにもないよりずっといいです」
「トゲトゲしかいないって聞いた時にはどうしようかと思ったけどな」
笑いながら、トロントは言った。
とにかく腹が満ちて、全員ほっとため息をついた。
一方アイリーンには食事は不要で、水だけあればエネルギーを生成して活動することができる。彼女はノクトの水筒に頭をつっこんで、上手に水を飲んでいた。
とりあえず、五人は一つの大きな問題を突破したようだ。
◆
ついに、幻獣調査団の五人はグレートワイツへと接舷する。
それは出発してから三日後のことだった。
「すごい砂嵐だったねぇ。このまま島に降りられないかと思ったよ……」
ハルジオは流石にぼやきながら、大地を踏みしめた。他のメンバーも、体を伸ばしたり、ストレッチをしたりしながら降りてくる。最新型の船とはいえ、広大な大地とは比較にならないぐらい狭かった。
ノクトは、気配を殺しながらその島にゆっくりと降り立った。
一歩ずつ、踏みしめる。
「……やっと、来たよ。姉さんのいる、この島に……」
誰にも聞こえない、囁きのような声。
ラベンダー色の瞳には、深い憎悪の色。
どれほどこの時を待ったことか──
ノクトは、因縁をもつこの島を睨み据えていた。
この「第十話 静かな始点」最後のパートを読んだ後に、
「第一話 未練を抱きし既往」の出だし数行を読んでいただくと、
ちょっと感慨深いものがあるかもしれないので是非……!
活動報告のほうに小ネタも掲載していきますw
次回も更新がんばります!




