第八話 気迫の幕開け
【前回までのあらすじ】
《ナイトキラー》となったノクトは、実地で様々な経験を積み、幻獣調査団の精鋭となった。
アイリーンを亡くして三年、ついに因縁の島・《グレートワイツ》へと向かう調査団が組まれた。
「それじゃあ、皆集まってくれたみたいなので、始めます」
ハルジオは普段より声を張って、室内にいる全員に向けて言った。
幻獣調査団クライメシスの本部、その一室。
大きなテーブルには、今回の目的地である《グレートワイツ》の島マップが広げられている。
室内には、ハルジオを含めて五名の団員。
それぞれが多少緊張した面持ちで立ち、テーブル脇に並んでいる。
「今回、初顔合わせのメンバーがいると思うから、まずは、全員で自己紹介しましょう。
僕はハルジオといいます。今回の幻獣調査隊隊長を努めるので、なにか困ったことがあったら僕にいってください」
ハルジオは、丁寧にお辞儀し、顔をあげると同時に眼鏡を正した。
栗毛のやわらかい髪が揺れている。
「得意なことも紹介しておきますね。
僕は《フラインダー》なので、メイン武装は、トンボ型の自立式魔導体のフライングボットです。
探知と危険予知が得意かな。あと、僕自身はメカニック知識があるので、皆の機械や武器のメンテナンスができます。
どうぞ、よろしくお願いします!」
続いて、肩まで伸びた灰色の髪、淡い緑の瞳を持つ少女が口を開く。
メンバーのなかでいちばん小柄だが、その身躯に不釣り合いなほど巨大な大剣を背中に下げている。
「私はクレア。《魔剣士》だよ。
この大剣はすごく重そうに見えるけど、魔力の力で軽々と操れるんだ。
敵をぶった斬りたい時には私に任せて!そこにいる《賢者》のマリンとは縁があって、幻獣調査団支部のほうから一緒に派遣されてきたんだ。
本部に来るのは初めてだけど、幻獣にたどり着くまで一緒にがんばれたら嬉しいよ。よろしく!」
彼女はぺこ、と頭を下げる。
次に挨拶をしたのは、黒い髪を後ろに整えた、天然石のタイガーアイのような目をした、コートの男だ。
このメンバーの中でいちばん年長で、歳の頃は三十過ぎくらいか。
「オレはトロントだ。新任なんで、全員とお初だな。
クラスは《ソイブレイカー》。主に片手剣と、ソイドっていう円盤状の飛刃を使う。
オレが幻獣調査団に入ったのは、まさにこの幻獣ハバキネスの調査に向かうため……ハバキネスは、試練を突破した者の願いを叶える幻獣だという。
現代医学ではどうにもならない、不治の病に冒されている息子を治してやりたいと思っている。
個人的な気持ちを持ち込んですまないが、この命を賭けて、全力で戦うよ。よろしく頼む」
新任とは言うが、兵士や傭兵の経験がありそうな、場慣れした雰囲気の男だった。
次いで挨拶をしたのは、色濃い藍色の長い髪を持つ女性だ。
「マリンです。クラスは《賢者》。皆さんの回復やサポートをします。
生物学と植物学、それから複数の言語を修めてますので、島でのサバイバルや遺跡調査にも役立つと思います。
医学の知識も多少ありますので、体調管理等もさせていただきますね。
クレアから紹介がありましたが、二人で支部から派遣されてきました。
がんばって力を合わせて、今回の任務を成功させましょうね!どうぞ、よろしくお願いします」
彼女は穏やかな雰囲気で、安心して後衛を任せられそうだ。
最後に挨拶をするのは、銀色の髪、ラベンダー色の瞳を持つ黒装束の男。
「ノクトだ。夜間・隠密行動に特化した《ナイトキラー》を担っている。戦闘と隠密は任せてくれ。
オレの姉は幻獣調査団員だった……そして、ハバキネスの前回の調査で帰らぬ人となった。
その真相を知るため、今回の調査に志願した。
まあ、仕事はこなすから安心してくれ。
で、このサソリはオレの相棒のアイリーン。探知や戦闘のサポートをしてくれる。
皆もアイリーンと仲良くしてやってほしい。よろしく頼む」
ナイトキラーは幻獣調査団の中でも戦闘と隠密のプロフェッショナルと名高いが、容赦のない殲滅行動で有名だ。総数が少ないため、他のメンバーたちがナイトキラーに会ったのは今回が初めてだった。しかも、ナイトスコーピオン付きのナイトキラーは数えるほどしか存在しない。
全員が自己紹介し終わり、全員が全員の顔を確認して頷く。
ハルジオが言う。
「このメンバーなら、何でもやれそうな気がするよ。よろしくお願いします!」
そして、ハルジオは、テーブルに置かれた、虹色の竜が描かれた紙を指し示す。
「僕たちの調査対象はこの虹色の竜、幻獣ハバキネスです」
「どんな幻獣なのか、再確認させてもらってもいいですか?」
そう言ったマリンに対して、ハルジオはうなずく。
「もちろん。そもそも幻獣ハバキネスが発見されたのは四年前……」
彼は、少しだけノクトのほうを見ながら言う。
ノクトは無表情で、表情から何かを察することはできなかった。
「幻獣調査団の飛空艇からの情報で、このエリオス王国の南にある謎の小島の上空を航行中、虹色に輝く翼をもつ、白銀の竜を見たとのこと──その姿は、各地の伝説にある《幻獣ハバキネス》と一致していたんです」
ハルジオの話によると、《幻獣ハバキネス》は、試練を突破した者の願いを叶える竜。
しかしその姿を見た者はほとんどおらず、存在さえも伝説として言い伝えられていた。
「四年前、ついにハバキネスの生息地が発見されたんです。
我々クライメシスは、ハバキネス発見から一年が経った頃、謎の島グレートワイツへと調査団を派遣しました。
結果は、調査団員全員の死亡──よって、情報もなにもない状態です」
ショッキングな言葉に、メンバーたちは息を飲む。
「マジか……」
ざわり、と空気が変わる。
呻くようにつぶやいたトロントは、この任務が非常に危険なものだと再確認していた。
そして、先程の自己紹介で全員が察していた。
帰らぬ人となった幻獣調査団の姉の話──
思わずメンバーはノクトのほうを見てしまうが、当人は鉄面の表情を変えることなく、微動だにせずいた。
その肩にのった自立式魔導体のナイトスコーピオンが、何故かもじもじと動いている。
「調査団全滅の事件があってから、その島にメンバーを派遣することはクライメシスの中では禁忌となりました。
しかし、ハバキネス発見から四年が経った今……」
ハルジオは続ける。
「あの頃よりも僕たちの技術は進歩した。
危険があるのはわかっています。
ですが、幻獣調査は僕たちの悲願であり、歴史を知ることであり、大切な人の死の真実を知ることであり、技術の進歩への礎になります」
全員が、深くうなずく。
「だから、必ず成し遂げましょう。幻獣ハバキネスの調査を!」
全員、右手を胸にあてて、幻獣調査団の敬礼を行った。
◆
完全に準備が完了している調査隊のメンバーは、そのまま出発となる。
謎の島グレートワイツが位置しているのは、エリオス王国の南端より船で出て、半日かかる場所だ。
今回の出張は長くなるだろう──
任務達成、つまり幻獣ハバキネスの調査が完了するまでが出張期間だ。
もちろん、困難を感じたら急いで戻るように言われている。
上空から島を確認した調査団からの報告によると、かなりの数の魔物の群れや、巨大な何者かが存在している、危険度SSSの島。
その分、幻獣調査団の中でも手練が選ばれている。
五人は、それぞれの思いを胸に──
幻獣調査団本部を後にした。
幻獣をめぐる冒険と、激しい戦いが始まる。
今回は二章開幕ということで、二話同時掲載です!
TRPGのセッションパートに入りました。
沢山のセッション裏話をぼちぼちと活動報告のほうで書いていきますので、是非そちらも楽しんでくださいねっ。




