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【全58話+外伝4話】されど胸の灯火は消えずに歩ませて~幻獣ハバキネスの件~  作者: ザイン=エル
【全4話・外伝】BAD END ROUTE 傷が癒えぬ君の夢 ─されど胸の灯火は消えずに歩ませて─

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外伝第三話 君の選んだ道

凄まじい、目にも止まらぬ速度で繰り出されるナイトブレードでの突き。


一点突破のこの攻撃は猛烈な速度で、横から弾くことさえも困難──クレアはどうにもできず、強烈に肩にそれを受けた。

しかし──

受けたのは打撲の音。


ナイトブレードは、鞘から抜かれていなかった。

それでも十分な激痛ではあったが──クレアはイラッとして叫んだ。

「なんで抜かない!ふざけるな!」


彼女は返す魔剣を振り抜いた。

魔剣での攻撃は大ぶりになる──ノクトにとってそれは回避しやすい。

大きくかわす必要さえなく、きれいにギリギリのところを読んでかわされる。


外野で見ている幻獣調査団の面々にとって、それは気が気ではなかった。いくらノクトにとって回避しやすいとはいえ、その魔剣の一振りの威力を知っているからだ。

一瞬の手違いでどんなひどい悪夢が現実になるか──彼らはそれを想像することさえ恐怖だった。


「魔剣じゃダメだ、ならこっちだ!」

クレアは魔剣を捨てた。その重量が地面でガランガランとすさまじい音をたてる。そして、勢いよく拳でノクトに殴りかかった。


「魔剣でダメなら拳って……」

ノクトは口元を緩め、くすっと笑った。


冷静に受ける構えで、クレアの拳を見切って回避すると、自分もナイトブレードを捨て、長い脚でカウンターの蹴りを繰り出した。

それは、クレアの太腿にヒットし、激痛を送り込む。


「クッソ!」


クレアは一時的に後退すると、再び殴りかかってくる。その軌道は先程と同じで直線的だ。ノクトはそんな単調な攻撃が当たるはずがない、と一目見てタカをくくる──


しかし、今度は大きく軌道が逸れた。クレアの筋力を限界まで使ったフェイント。

ノクトの、筋肉の動きで攻撃を読むその予測さえも覆す、渾身のフェイントだった。

彼女の拳は深く、ノクトの胸に突き刺さった。


「……ぐっ!」


言わずもがな、ノクトの胸にはフェンリルに受けた大きな傷口があり、まだ完全にはふさがりきっていない。

すさまじい激痛が走り、ノクトは片膝をついた。


「──って、さすがにそこ当てるのはひどすぎるでしょ!この外道!」

外野のハルジオからの猛ブーイングが飛ぶ。

トロントも、「そうだそうだ!」と野次を飛ばす。


「うるさいうるさい!命がけなんだこっちは!こいつ止めないと!」

クレアは怒って叫び返す。


ノクトは激痛に耐えながら、素早くナイトブレードを拾ってから大きく後ろに跳躍し、燃えくすぶっている家屋の屋根の上へと着地した。


「……マリン。そいつを説得してやってくれよ。無駄だって──」


屋根上から幻獣調査団を見下して、ノクトはつぶやくように言う。激痛をこらえ、額には汗が滲み、銀色の髪が額に張り付く。


「そもそも、この村の者たちは、お前が命を賭けて守るに値しない。くだらないことで死ぬのは、やめておけ……命が、もったいないだろ」


クレアは怒りで歯を食いしばっていたが、マリンがそっと静止に入った。

クレアはマリンの言うことはきく──腹を立てながらも、彼女のことを思うとこれ以上は動けなかった。


マリンは何も言えず、静かに涙を流していた。

ノクトに、生きていて欲しい。

マリンは思っていた──彼は不器用だから、幸せなんて上手に見つけられないのかもしれない。

それでも、生きていて欲しい……


ノクトは、そんなマリンを見て、少し困ったような表情をした。


そして、今度はハルジオ、トロントのほうを見る。トロントから見て、その目には、強い惜別の光が宿っているように見えた。


「ノクト……お前……」

トロントには、ノクトの気持ちが痛いほど、伝わっていた。

この凄まじい、全てを許せなくなる怒りの根底にあるのは、あまりにも深い悲しみだ──彼に、その猛烈な悲しみが移ってしまったように、目頭が熱くなる。


「それがどんな道であれ、オレは……お前を否定したくない」


トロントは無意識のうちに、強く拳を握りしめていた。

それは、今だけを切り取って善悪を語るからではない。彼を知り、冒険を通じて、ノクトがどんなことを思って生きてきたのか──全てとは言えないまでも、その一端を知ったからだ。


トロントは苦しそうに言った。

「思うまま、生きろよ……」


ノクトはトロントを見て、目を細めた。その目には、強い思慕の情が浮かんでいた。

しかし、目を伏せる。

ノクトはトロントに対して、何も言わない──何か言ったら、自分が瓦解しそうだった。


そして、今度はハルジオのほうを見る。

どうしてこんなことに──

ハルジオの表情は、悲しみで満ちていた。

絶対にこうなってほしくなかった運命。避けられて心から安堵した宿命。

それが何故、今更、こんな形で……


ノクトの唇がゆっくりと動いた。

「ハルジオ──」


ハルジオは咄嗟に、聞きたくない、と思ってしまった。

「嫌だ。嫌だ、ノクト!」


それはきっと、別れの言葉だ。

ハルジオの目に涙が浮かぶ。


友達がなかなかできなかった子供の頃──

同年代の友達がいなくて。少し年が離れた近所の子供たちは、読書や機械いじりに興味がなくて。

趣味のことを話せる人は、祖父のマルウスしかいなかった。


そんな折に、エイトが知人の弟を預かったと聞いて。その子が同年代で、しかも読書が好きだと知って、いてもたってもいられず、会いたいと言って。


カフェでエイトに紹介してもらって初めて会った時には、ちょっと怖い雰囲気の子なのかなとも思った。だけど、本当に本のことが大好きなのが伝わってきた──

ハルジオにとっても、ノクトは初めての心を開ける友達だった。

そして、「また話そう」って、言ってくれたんだ。


そのノクトが、今炎の中で、最後の言葉を口にする。


「ハルジオ……アイリーンを、幸せにしてやってくれ」


ハルジオは口を開くが、何も、言葉が出なかった。

ノクトはもう、返事をきかない。

炎を背景にして皆に背を向け、右手を上げ──力なくそれを一回だけ振る。

別れの挨拶だった。


彼は燃えくすぶる家屋から向こう側へと飛び降り、炎の果てへと消えていく。


「ノクトの……バカ野郎!」

ハルジオは泣きながら叫んだ。


それが、幻獣調査団が見た、ノクトの最後の姿だった。





全知全能の幻獣ハバキネスは、塔の屋上で静かに寿命を迎えるところだった。

ノクトの所業については観測していた──行かせたくない運命へと行かせてしまった悲しさはあったが、これも人の運命(サガ)か……


全知全能の幻獣とはいえ、全てを思い通りにすることはできない。


ノクトはメルソン村を焼き払い、この島から人間の足跡を全て消し去っていた。

だが、それと同時に彼は本国へ帰る手段、そして共に生きていける可能性のある人間を全て失い、この島に残るただ一人の人間となった。


『あなたは憎悪の末、人であることを捨て……孤独の道を歩むのですか、ノクト……』

寂しそうに、ハバキネスは言った。


この原始的な島で、ノクトは生態系の頂点に立った。

キングゴブリンを屈服させる。野良狼を力でわからせた。そして、巨竜の弱点を把握し完全なる配下へと下らせた。

憎悪は彼を、この島を統べる魔王へと変貌させた。


生きる気などなかった。

ただ、死に場所を失っていた。

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