最終話 我が行くは、幸せと
仕事が終わりエリオス王国に帰ると、ノクトは真っ直ぐエイトのカフェに向かった。
ドアを開けるとカランカランと、彼にとっては聞きなれた音が鳴る。
この時間、夕暮れ時のカフェはあまり忙しくはない。しかしなんだかんだと準備をしていて、ノクトが来たことに気づかないエイトの姿があった。ノクトは、その姿を見たら急激に思慕の情が湧きだして、胸が痛くなった。
何も言い出せずに立ち尽くし、その様子を眺めていると、エイトがこちらに気づく。
「なんだノクト、帰ってたのか!そんなとこに突っ立ってないで、こっち来いよ」
いつものエイトだ。
ノクトは、いつかのように、ふっと大人びて笑った。
そして、エイトに対して、綺麗な酒瓶を差し出した。
「エイト、これ……」
そしてエイトに言いたいことがあったんだった、と思い出し──
ノクトは急激に顔を真っ赤にしながら、そっぽを向いて小さな声で言う。
「あの、さあ。………が、好きかなと思ったから、これ、土産」
だが、その声が小さすぎてエイトにはよく聞こえない。
「え?なんだって?」
「…………が、好きかなって……」
「え?何が?好きだって?」
ノクトは、うまく言い出せない。そして、声量調整を完全に諦めた。
昔よりも強くなった肺にしっかりと息を吸い込んで、声を作り出す。
「……父さんが!」
ノクトははっきりと大きな声で叫んだ。
「父さんが!好きかなと!思ったから!これ土産!」
大きな声が、カフェ中に響き渡った。客が少ない時間帯で本当に良かったと、ノクトは観念して顔を赤くしたまま心から思っていた。
ぱちくりと瞬きをして、一瞬何を言われたのかわからないエイト。内容をようやく理解すると──カフェカウンターからダッシュで駆け出して、綺麗な酒瓶を受け取って、カウンターにそれを割らないよう丁寧に置くと、ノクトを抱きしめた。
「ありがとうよ、ノクト!オレの息子!」
微妙な年頃さえも完全に通り越したノクトは心底それを嫌がって、
「離せよ!バカ!」
と、逞しい腕のなかで苦しそうにそう叫んだ。
「あ、そうだ」
嫌がる彼を解放しようとせず、そのまま思い出したようにエイトは言う。
「じゃあ、父さんって呼んでもらえて、家族として認めてもらえたわけだし……オレもノクティって呼んでもいいか?な、いいよな?」
「……は?」
想像の斜め上からの提案に、ノクトは完全に不意を打たれ、さらに顔を真っ赤にした。
「ふ、ふざけんな!ていうかあんた、それ、いつどこで聞いたんだよ!」
「どこって……なあ?」
カウンターの上で、ナイトスコーピオンのアイリーンが嬉しそうにそれを見つめていた。
姉を亡くしてから、ノクトが愛情を込めて『ノクティ』と呼ばれることは、もう無かった。だが──
「さすがに無理!絶対にやめろ!」
ノクトの怒号が、店内だけでなくカフェの外にも響く。
ちょうどカフェの前を歩いていたハルジオとトロントは、何の騒ぎかとカフェを覗き込んだ。
これは、病弱な少年だったノクト・レヴァンスが、最愛の姉を失いながらも──新たな家族、そして仲間たちと、新たな人生を歩む物語。
悲しみに身を堕し、
憎しみに人生を捧げ続けた。
されど、今は光さす幸せと共に。
この胸の灯火は消えずに、歩ませて。
おしまい
【筆者あとがき】
ノクトの長い長い物語をここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
「されど胸の灯火は消えずに歩ませて~幻獣ハバキネスの件~」本編はこれにて完結です。
この後、本編エピローグという名の番外編、
『傷が癒えぬ君の夢 ─されど胸の灯火は消えずに歩ませて 外伝─』を全4話だけ追加させていただきます。
読んでも読まなくても内容に変わりなく、オマケ的位置づけの作品です。
最終話掲載の現在から、10分刻みで4話連続、瞬足公開です。
お休みの日など、お時間あるときに是非ご一読ください。
この作品が筆者の処女作でございます。
小説家になろうのアカウント作成をしたのもこの作品のためです。
もし、本作が好評でしたら、
続編TRPG原作「立ち上がる勇気と悠久を~幻獣アウズスの件~」
こちらの長編の執筆ももしかしたら頑張れるかもしれませんので是非是非、★やご感想、レビューで応援いただけましたら幸いです。
また、お気軽に読みいただける短編スピンオフは、今後ちょこちょこ執筆するかもしれません。
下のイラストは、原作TRPGが完結して打ち上げの時に描いたものです。
ハッピーエンドになると全く思ってなかったので、めちゃくちゃ嬉しくて……w
この絵を見るに、原作が終わったのって2026年7月15日だったみたいです。
小説執筆に一か月ぐらい要してますね。本当に怒涛だったなあ……
この度は、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
またどこかでお会いできましたら幸いです!
ザイン=エル




