第五十一話 黎明の一閃
疲弊した全員に、巨大なフライングボットクィーンから暖かい緑の光が照らされる。
疲労感がふっと軽くなる。戦える──!
高所落下で一瞬気力を失っていたトロントにも、縫合した傷が開いてしまったノクトにも、再び闘志が戻ってきた。
「ハルジオのおかげで、まだやれそうだぜ……」
トロントは立ち上がって、片手剣と円盤型の飛刃ソイドを構える。
「ノクトは待って、もう少し回復させて」
ノクトは出血が止まり切る前に動いてしまっていたので、再びマリンに制止された。すぐ飛び出せないのがもどかしい。
『よくぞ仲間を救いました。これが今の人間の力なのですね!』
喜びさえ感じる声で、ハバキネスは襲いかかってくる。虹色の翼の鋭い斬撃がクレアに向かう。
クレアは一瞬にして集中、魔剣を盾のように使ってそれを完璧に防いだ。
「私いま、割と絶好調かもね!」
攻撃を弾いた瞬間、斬り返すようにクレアは魔剣を振るう。踏み込みが深い。ハバキネスの肩口をスパッと斬り裂いた。
「やるな、クレア!」
トロントは彼女を褒めると、一瞬ひるんだハバキネスにソイドを投げつける。白銀の竜は肩口に攻撃を受けたことで一瞬の隙ができ、ソイドを弾くに至らなかった。露出した胸部に当たるところだったが、わずかな回避行動で脇に当たった。
『さすがです!』
ハバキネスは胸部を一気に膨らませると、劫焔を吹き出した。あまりの熱さに、二人は慌てて後退する。
「普通の竜みたいに火も吹くってか」
「なんか意外じゃん」
トロントとクレアは、余裕のない中でも軽口を叩きながら構えを継続する。
その時には、ハバキネスは不思議な詠唱を開始していた。
『では、こちらの攻撃はどうですか……』
虹色の翼を天高く広げ、詠唱を完了させる。
『ライトニングブラスト!』
全体に対する光の爆発──
だが、全員が信じていた。
ハルジオのフライングボットクィーンを。
「ここで、応えないで、どうするのさ!」
ハルジオの気迫の叫び。フライングボットクィーンは、広範囲に淡い緑のバリアを展開する。
ライトニングブラストの光とクィーンのバリアが正面衝突し、見事にお互いを相殺しきった。
だが、すさまじい爆風で何も見えなくなる。
トロントは、そんな中でノクトの様子を確認する。マリンによる回復はある程度完了しているようだ。
すでにトロントの手には、琥珀色の玉石が握られていた。
「ノクト……お前に、勝機を作る。だから、一刀で決めろ」
トロントは静かに宣言する。それに乗って、クレアも元気よく応じる。
「おっけ〜、やろっか」
「クィーンも、手伝いますよ」
「私も……!」
皆が口々に言う。
ノクトは気を引き締めて、深く、うなずいた。
できるできないじゃない。やるんだ──
次の一刀で、幻獣ハバキネスを倒す。
ノクトは黒い玉石を取り出した。
『何を企んでいるのですか?さあ、来なさい!』
ハバキネスの凛とした声と爆風の中、クレアがまず先陣を切って飛び出した。跳躍した突進はしかし、ハバキネスに読まれていたのか、翼で弾かれる。
そんな中、カシャン、という何かが割れる音が響いた。
「喰らいな、ハバキネスさんよ……ソウルブレイク!《ソイショック》だ!」
トロントは上空に向けて広範囲のすさまじい煙幕を巻き上げる。
すべての視界を遮り、全員が全員、何も見えなくなる──
だが。フライングボットクィーンが天上からハバキネスを照らし、白銀の竜の位置を的確に全員に知らせていた。
《ソイショック》の桁外れな煙幕の中、ノクトの《ナイトキラー》ゆえの隠密行動が完璧に遂行される。
彼は、黒い玉石をその手に持ち、割る。カシャン、という音が静かに響き渡った。
その音に驚異的な速度で反応して、ハバキネスはノクトの方へと翼で斬撃を繰り出した。
「ノクト!」
トロントは鋭く叫ぶ。
その鋭い翼はノクトの胴を切断する──かと思われた。が、破壊されたのはハバキネスの翼のほうだった──マリンが先に詠唱していた単体バリアを差し込み、その攻撃を完全に無効化した。それだけではない。翼での攻撃があまりにも高威力だったため、バリアによる完全なカウンターによって、ハバキネスの翼爪を折った。ノルツが氷の手刀を破壊されたように──
ノクトは、そこから刀を地に着くほどに低く構え、速度を上げて突進する。その突進はさながら、黒豹のようだ。
「ソウルブレイク……」
その突進力をそのまま刃に乗せて、黒いナイトブレードを振り抜く──
なぜだろう……
刀を振り抜く時に、こんな気持になったことは、かつて無い。
だが、この感情を何と言っていいのか、彼にはわからなかった。
「《斬鉄剣》」
ナイトブレードは横一文字に白銀の竜の胴を薙いだ。
そして刀圧によって煙幕が全て開かれ、奇跡のように輝かしい太陽が彼らを照らした。
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【第三章 今、創痍の胸に残るもの】完結です!
そして【最終章 灰色の夜明け】(全六話)へ突入!!
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