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【全58話+外伝4話】されど胸の灯火は消えずに歩ませて~幻獣ハバキネスの件~  作者: ザイン=エル
第三章 今、創痍の胸に残るもの

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第四十九話 異なる者、同じ境地へ

『戦争が終わらないのは、敵を憎むからです!』


ハバキネスのその言葉を聞いて、ノクトの中に、再び仄暗い感情が鎌首をもたげた。


姉さんを奪われた事を、許せと──何の罪もない優しい姉さんをあんな風に無惨に殺した連中を、許すことなんか……できるはずがないだろ!

心の中で、ノクトは血を吐くように叫んだ。


ハバキネスは、そのノクトの目つきの変化を見ていたが、何も言わなかった。

代わりに──


『クレア、マリン』


ハバキネスは、二人に声を掛けた。


『あなたがたの中にも、強い憎悪がある──アストーアとテンクルジヴァーの大戦争で、あなたがたは幼くして戦災孤児となった。大切な家族を、失っていますね』


全知全能のハバキネスに対して隠し事など無意味。言い当てられ、クレアとマリンはうなずくしかなかったが──クレアは静かに言った。


「それが今、なんの関係があるっていうのよ」


マリンも、挑むように言う。


「私は、悲しみのない世界を作りたい──そう思って、ここまできました。その原動力が憎しみだというなら、その通りです。それが何か、いけないことですか!」


驚いて、ノクトは二人を見る。

彼女たちは戦災孤児だった──だからマリンは、憎しみという衝動で生きるノクトに、その気持ちがわかるからこそ、生き抜くよう怒ったのかも知れないと、初めて察した。

ハバキネスは言う。


『憎しみを胸に秘めつつ、悲しみのない世界をつくりたいと思うこと──過去の《古の民》には到底できないことでした。嬉しく思います』


ハバキネスが言わんとすることは何なのか……彼らは固唾をのんで聞き入る。


『クレアとマリンは東のアストーア出身……』


白銀の竜は、下界で猛然と展開する広範囲の戦争に目を落とした。青い国旗側の軍隊がアストーア。その反対に展開する赤い国旗が、その敵対国のテンクルジヴァー。


だが、ハバキネスの言葉に、一人だけ衝撃を受けている人物がいた。


「クレアと、マリンが……アストーア出身だって……!」


その声はトロントだった。


「どしたの……?トロント」


クレアが不安な声をあげた。まさか──


「オレは西のテンクルジヴァー出身……テンクルジヴァーの元尉官だ……」


「な……!」


「お前ら……まさか、アストーア人だったのかよ……」


低い声で、唸るようにトロントは言う。


トロントは尉官時代、アストーアの兵隊に、部隊の仲間たちを虐殺されていた。


その現場は地獄のようで──捕獲された仲間たちは尊厳なく、娯楽の対象、怒りのはけ口として、無残に殺された。

心を通わせた部下、時間をかけて信頼を培った仲間たち。


彼らはただ笑う敵兵士たちに慰み者にされ、バラバラに切り裂かれ、埋葬されることもなく戦場に放置された。


トロントは独り生還してしまい、アストーアの人間たちを絶対に許すことはできないと、地面を叩きながら壮絶に怒り狂った。


ノクトとハルジオは衝撃を受ける。彼らは、お互いが憎しみ合う仇同士であったと──?


「それは、こっちのセリフです……」


苦々しくマリンはつぶやく。

マリンは過去を思い返していた。


家の中まで侵入してきたテンクルジヴァーの兵隊たちに父と弟を惨殺された。

母はマリンを庇って死んだ。

彼女は冷たくなっていく母の下で、泣きながら息をひそめてどうにか生還する。


しかし、九才まで過ごした家は焼き払われて孤児となる。

その後の人生は地獄のようだった──師と仰ぐ、大導師マルウスと出会うまでは。


「トロント、あんた、テンクルジヴァーの……しかも尉官って……将校だったんだ……」


クレアは、トロントを睨みつけた。

彼女も、この戦争で両親を失っていた。


天涯孤独となった彼女は祖父に引き取られるが、戦争によって環境が悪化し、あらゆる死体を媒介として流行り病が蔓延した。


その流行り病によって、唯一の血縁だった祖父も逝った──彼女はただ独り、戦場で生きた。


そんな中、とある兵士に拾われ、剣を学び、戦士としての腕を上げていく。

そうして、現在のエリオス王国にたどり着いた。


双方が睨み合う。幻獣ハバキネスを前にして、このグレートワイツの奥地までやってきた今……ぶつけられた真実によって、結束が崩壊してしまうのか……


しかし、先にふうと息をついて緊張を緩めたのはクレアだった。


「言うて、別にトロントに直接家族殺されたわけじゃないし……」


口をとがらせて言う。


「今まで一緒に戦ったこととか、なかったことになるわけでなし……」


気持ちの整理をつけて、クレアは言った。

そのクレアの言葉のあとに、息をついてマリンも続ける。


「そうですね……たまたまそこに生まれ落ちた、というだけです。手を直接下されたわけじゃない、です……。私たちの間で積み上げたものが、なくなるわけじゃありません……」


それを聞き、心底ほっとしたのはトロントのほうだ。


「一人袋叩きにされるかと思ったぜ、今……マジで」


「袋叩きにしたい気持ちも全然あるけどね」


クレアの軽口が戻る。トロントは「おいおい……」と困ったように言って、続ける。


「まあ……オレが本当に心から許せないのは、オレの部下や仲間を、娯楽みてーに、楽しむように殺しやがったアストーアの奴らだ……クレアとマリンだったら、多分敵として立ってもそんな事はしない──戦うとしても、敬意を持って相手と戦うはずだ。オレはそう信じる」


そして、更に安堵していたのは、外野に立つノクトとハルジオだ。


「焦った……」


「仲間割れ起きないで、本当によかったです……」


ハバキネスは大きく翼を広げ、世界に凛とした声を響かせた。


『人を憎まず、罪を憎むことで、それを糧としてより良い人生を歩むことができる──』


その言葉は、ノクトの胸に届くか否か──


『さあ、戦いの途中です。来なさい、人間たち──私に人の強さを証明して!』

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