第四十八話 戦火の残響
ハバキネスの災害級の超大型魔法、《ペンタグラム・レイ》の第三波が、幻獣調査団全員の死を引き連れて眼の前まで迫っていた。
フライングボットの犠牲により第二波までを半分だけ無効化したものの、彼らはかなりの損傷──焼けるような光に蝕まれていて、後ろを守るために矢面に立っていたトロントは、すでに身動きできないレベルに傷ついていた。
駄目で元々──!
ノクトはトロントの前に出た。この第三波を、ナイトブレードで斬るしかない。
『それは、無理ですね……あなたが光熱で、溶けるだけ……』
ハバキネスのつぶやきが耳に届くが、やるしかない。残された方法はもう、他には──
カシャン、という何かが割れる音が奇妙に大きく響く。それは、マリンが持っていた白色の玉石を割った音だった。
「ここで使います、老師……!」
マリンから、ハバキネスにも一瞬勝るとも劣らないかのような、聖なるオーラが立ち上る。
「ソウルブレイク……《マナシールド》!」
一瞬にして、全体バリアが展開する。白い輝きは、恐ろしい威力を秘めた《ペンタグラム・レイ》の第三波を完全に無効化した。
しかもそれは、バリアだけではない──
先ほど受けた全員の損傷を回復させたのだ。
「ま、マジかよ……賢者のソウルブレイク、すげえ……」
その恩恵を最も受けたトロントは、おどろいて自分の身体を確認する。先程までの熱のダメージは全くなかったことになっていた。
「ありがと〜!これでまだ、戦えるじゃん」
「助かる、マリン!」
クレアとノクトはそう言いながら、トロントと共にすでに飛び出していた。ハバキネスに一矢を報いるならば、大技を使った直後の今しかない。
「悪いけど、勝たせてもらうから!」
クレアは跳躍する。ジャンプウイングが白銀に輝き、凄まじい威力となった魔剣が叩き込まれる。虹色の翼が切り裂かれる。
『やりますね……!』
《ペンタグラム・レイ》の使用直後で、ハバキネスの動きは精彩を欠いている。
白銀の竜は、反対側の翼でクレアに対して斬撃を繰り出そうとする。トロントは一瞬の隙を見逃さず、竜の首に向けて飛刃のソイドを投げ込む。
ハバキネスは翼の攻撃方向を変えて、その翼をソイドを弾くために使った。
──ついに、決定的な隙が生まれた。
ノクトはナイトブレードを構えて突進する。
ハバキネスを殺したくない。
だが──
自分が攻撃を当てられないとき、皆にどんな運命が待つのか、それが何を意味するのか、痛いほど理解しながら──
「すまない……」
ノクトは、美しき白銀の竜の胸に、ナイトブレードを突き立てた。
だが──
「クッ……!」
硬いもの同士がぶつかりあう音が、耳をつんざくように響き渡る。ナイトブレードを弾いたというのか……!
ノクトは肩に大きな衝撃を受けて、その衝撃で縫合した胸の傷が再び出血したのを悟った。思わずその痛みに呻く。
しかし、さすがにハバキネスも完全に無事では済まなかった。
白銀の竜の胸殻がヒビ割れ、肉が露出した。
『まさか私の胸殻を割るとは……さすがです!』
ハバキネスはこの戦いを心から楽しんでいた。この戦いは、一万年以上の長旅、そして己の道の軌跡の証明だったからだ。
『素晴らしき知恵。阿吽の絆で連携する戦術。仲間を守るために身を挺して前に出る勇気……《古の民》たちには何一つ成し得なかったこと。やはり私の選んだ道に、間違いはなかった……』
白銀の竜は満足そうに笑うと、虹色の巨大な翼を広げて、天高く広がる巨大樹とそれを共鳴させた。
『あなたがたに見せましょう。戦いの歴史を──』
ハバキネスが力を開放すると、今度は《命の庭園》は消え去り……
五人は空中に用意された四角いフィールドに立たされていた。かなりの高所だ──
「な、なんだこれは……空中にいる、だと!」
トロントは叫ぶ。
「皆、下を見て!」
ハルジオが驚きと共に絶叫する。
彼らのはるか眼下に展開していたのは、二つの国家が今まさに争う様──東のアストーアと西のテンクルジヴァーの両国が、凄まじい大軍を派遣しあって広範囲に渡る戦争を行っていた。
『人々は家族や友人を愛し絆するからこそ、自分自身の利益を守り、大切な人を奪われたことを許せず、戦い続ける──
戦争が終わらないのは、敵を憎むからです!』
その言葉がまるで矢の如く──ノクト、トロント、マリン、クレアの四人に突き刺さった。




