第四十六話 愛しき子らへ、燈を灯す
『過去の私を助けていただき、ありがとうございました。あなたがたがいなければ、ノルツが導く破滅への道を止めることはできなかったでしょう』
ハバキネスは穏やかな口調で口を開いた。竜の姿の彼女は、念話で幻獣調査団の面々に対して直接言葉を飛ばしてくる。
「僕たちが体験したあの世界……《夢幻界》や《古の民》は本当に存在して、実際にあったこと、なんですか……?」
ハルジオは、あまりの怒涛の出来事に、そう確認せざるを得ない。
銀の竜は、深く首をもたげてうなずいた。
『そうです。あれは、今から一万年以上も前の出来事──』
遠く遠く、思いを馳せるようにハバキネスは言った。
『しかも、当時の私にはわかりませんでした──私は、外の世界からきた五人の若者に協力してもらい、ノルツを倒してもらいました。その五人は、未来の私がこうして呼び出した者たちだったのですね……』
五人は衝撃を受けた。
あの世界は幻や虚構だったのではない。実際に彼らが一万年も前の過去の世界へ行き、ノルツを倒すことで、その世界に現実のものとして関わったのだ。
それは冒険家の彼らにとって、どんな褒章よりも栄誉なことだと感じられた。誰にも知られることなく、彼らは世界を救った英雄となったのだ──
『私の考えを理解し、共に戦ってくれて、ありがとう』
ハバキネスは静かに言う。
ノクトの目は少しだけ赤っぽく腫れていたが、その瞳は死んでいなかった。
『それでは……あなたがたに、最後の試練を課します』
「最後の試練!」
まだ試練は続くのか、とハルジオの心臓が跳ねる。一体何を言われるのか──
『人間の、生きる力を証明しなさい。この私を倒すのです』
全員が、いちばんあってほしくないと思っていた試練。
しかも、彼女の目指したもの、実現したもの、彼女の優しさと強さを見せられた上で──
「なぜ……あんたを……」
ノクトの声は、苦しそうだった。
『私はもう、一万年を生きました。本来 エルフの寿命は千年。しかし、様々な力を吸収したことでそれを大きく越え一万年……十分に生きたのです。もう、力も尽き果てるところ……ならば、この最後の力を使って、人が強くなったことを、最後の命のやりとりを、心の底から、感じさせて……!』
ハバキネスはもたげられていた首を上げる。
虹色の巨大な翼を広げると、その温かい光は増し、グレートワイツだけでなく世界そのものを包み込むようだった。
グルルル、と獰猛な竜の鳴き声が世界に響き渡る。念話は、更に凛として厳しくなる。
『さあ……あなたがたは何のためにここまで来たのですか?私を知り、願いを叶えるため、でしょう。
来なさい!幻獣調査団!』




