第四十三話 独り在る者、共に在る者
マリンがトラップの位置を読んでくれたおかげで、厄介なそれに足を食われないように立ち回れるようになった。
「今度は炎と闇だ……かわせるかな!」
ノルツの左手からは舐めるようなすさまじい業炎と、右手を使った指示により床から突然串刺しにするかのような鋭い黒い槍が突き出る。しかし、
「ハルジオ、右へ!トロント、前へ一歩!」
魔力の流れを読むマリンの的確な指示で、その炎と闇の魔法をうまく回避できていた。ギリギリを回避し、ハルジオは思わず叫ぶ。
「あっぶな……!でも、マリンの指示のおかげで、かわせる……!」
もちろん多重魔法は非常に厄介だったが、トラップの場所がわかったことで、足を食われて足を負傷したり、身動きが取れぬまま二連の魔法攻撃が直撃するようなことはない。
幻獣調査団がトラップをうまく回避していることに納得がいかないノルツは、大声で叫んだ。
「なぜだ、なぜトラップにかからない……かかれば即座に貫いてやるのに!ならばこうだ!」
ノルツは風と光を同時に展開した。広範囲にかまいたちを出現させて切り裂くと同時に、光の爆発を加える──逃げ切れはしまい。その体、バラバラになれ!
「フライングボット!」
ハルジオの指示が響き渡る。
三体のフライングボットが仲間たちを覆うように緑色のシールドをはった。
「なんだ、新しい機能……!」
トロントは可能な限り皆の前面に立ち、魔法から受ける面を小さくしてダメージに備えた。
しかし、衝撃は訪れない。
フライングボットが全体に及ぶダメージを完全に無効化していたのだ。
「無効化、だとぉ!」
さすがに驚いてノルツは叫んだ。
ハルジオは自慢げに言う。
「へへ、テントでノクトに休んでもらってるときに、新しいシステムを作ってたんですよ……間に合ってよかった。『防衛システム』で、一度だけ全体に及ぶ攻撃を無効化できます」
「えー、めちゃくちゃやるじゃん」
クレアが口角を上げて笑う。
「生意気な……」
ノルツはより強力な魔力を練り上げようとしている。
マリンは、静かに、だが丁寧に、不思議な言葉の詠唱を開始する。
氷と闇を手に纏ったノルツは、気勢を張った声で怒鳴る。
「ならば一人ひとり始末していくのみ!まずは貴様からだ!」
言いながら、ノクトに対して飛びかかる。
ノクトは度重なる心身へのダメージによって、わずかながら動きに精彩を欠いていた。そこを的確に狙ってくる。
ノクトは構えていたナイトブレードの切っ先をノルツに向け、相手の突進力で貫こうとする。しかし、すさまじい威力を秘めた氷の手刀でそれが弾かれ、ナイトブレードが手を離れた。
「ノクト、下から──!」
マリンの指示で、下から突き刺してくる闇の槍をギリギリでかわす。しかし、氷の手刀が目の前に迫る。
ノクトの右の肩口から左の脇腹までを、氷の手刀が容赦なく通過していく──
誰もが絶望的な目で見ていた。しかし、マリンだけが何も諦めていなかった。
マリンはすでに詠唱していた単体バリアを、その攻撃がヒットする直前にノクトに差し込んでいたのだ。強力なバリアの効果によってノクトの体は両断されることなく、その致死の手刀を完全に無効化していた。
むしろ、氷の手刀のほうが砕け散っていた。
「なにィィ!」
ノルツが絶叫した瞬間、ノクトはサバイバルナイフを抜き放ち、隙だらけになったノルツの肩口にそれを突き刺した。根本まで深々と、薄いノルツの体を背中まで貫通していた。
ノクトは容赦なく一気にそれを抜き、さらに滅多刺しにしようと襲いかかる。
「うっぐ……!」
ノルツはすさまじい痛みをこらえながら、飛び退いた。
一撃しか刺せなかったことを悔やみながら、ノクトはマリンに礼を言う。
「すまない、マリン。また、命を救われたな」
「先にバリアを詠唱しておけば直前に差し込めるかも、と思って……」
マリンは安堵してほっとため息をつくが、あまりの緊張にへなへなと力が抜けてしまう。一瞬でも遅かったら間に合っていない、危険な状態だった。
ノクトは落ちたナイトブレードの柄に足を引っ掛け、跳ね上げる。宙に舞った黒い刀をパシッと掴み、再び装備した。
ナイトブレードに刃こぼれがないかチラッと確認するが、ハルジオによって良く研がれたそれは黒い鏡面のように美しく、ノクトの顔をよく映していた。しかし、その表情は納得がいかないようで、
「今日は、刀が走らないな……なぜだ?」
と、心底理由がわからない風につぶやいた。
そりゃ、あれだけお前に色々あったら普通調子も悪いだろう、と幻獣調査団はシンクロして思っていた。
一方、深々と刺された手負いのノルツは怒り狂っていた。願いの魔法が封印されているため、その深手を治すことはできない。
「貴様ら……低俗な種が……許さんぞ!」
刺された肩のほうの左手はもうほとんど上がらない。それでも、左手に炎、右手に土の魔法を展開し、再び同時魔法を放とうとしていた。




