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【全58話+外伝4話】されど胸の灯火は消えずに歩ませて~幻獣ハバキネスの件~  作者: ザイン=エル
第三章 今、創痍の胸に残るもの

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第三十七話 我が道は、復讐

ハバキネスは、第一の試練として『ハバキネスの考えを理解する』ことを提示した。

トロントはハバキネスに言う。


「それは我々幻獣調査団にとって願ってもないことだ……なんせ、それを調べにきたんだからな」


しかし、マリンは当然の疑問を口にする。


「しかし、それはどうやって……?」


するとハバキネスは、白銀の竜の首をもたげて念話を送り込んできた。


『ご心配には及びません。私が生まれた超古代の世界を、あなた方に体験してもらいます』


「なるほど、ハバキネスが生きた世界、生きた時代を旅して、体感したらいいんだね」


クレアはうなずいた。


「わかりました。いきましょう……!」


決意を奮い立たせるように、ハルジオは下げていた拳を握りしめた。

ノクトは光のない瞳でハバキネスを眺めていた。ハバキネスの言っていることは聞いているし理解もしているが、自分はここにいないような、どこか遠くの窓から覗いているような、そんな感覚でいた。


『それでは、皆さんをご案内します。超古代の世界……《夢幻界》へと……』

五人は、ハバキネスの不思議な温かい魔力に包まれた。






五人は気がつくと、不思議な場所にいた。

無限を思わせるほどに広がる、柔らかく輝くブルーの、不思議な草原。

そんな中に、幻獣調査団一行はぽつんと立っていた。


草原の中には、ぽつぽつと白い神殿のような建造物がある。

空気はとてつもなく澄み、清らかだった。

空の色は全域がオーロラのように揺らめき、不思議な天候だった。


「不思議な世界ですね……見たこともない青い葉が広がっている」


ハルジオが万感の思いにかられてつぶやいた。


「何だか恐ろしいほどの……魔力が存在する世界ですね……」


マリンは震えるようにぽつりという。彼女には魔力の流れを見通す目があるから、より強くそう感じるのだろうか。


その草原に、二人の人物がいた。

一人は、白い長い髪の、大きな耳がとがった、美しいエルフ族の女性だ。黄金色の瞳の中に、虹色の不思議な輝きが揺らめいていた。

もう一人は、黒い髪を持つ背の高い男性。黄土色の瞳がきらめく。


「あら、あなた方は……?」


こちらの姿を認めると、女性のほうが話しかけてきた。


「まあ、なんて可愛らしい魔力をお持ちなのでしょう。どこから来たのですか?そのように弱い魔力では、大変な旅だったでしょう?」


ナチュラルにバカにされた気がする。

特に魔術に長けたマリンはちょっとムスッとして言った。


「なんだか失礼な方ですね……。あなた、どちら様ですか?」


「あら、ごめんなさい。私はハバキネスと申します。こちらは、友人のヴァリス」


「幻獣ハバキネス!」


トロントはあまりにも驚いて、つい叫んでしまった。


「私は幻獣……ではありませんけど?」


女性は笑いながら言った。


「……え?ハバキネスが、幻獣だってぇ?」


さらにヴァリスという男にも聞き返され、トロントはしまった、と口をつぐんだ。クレアが「あ~らら」と肩を竦めている。

しかし、ヴァリスはその様子が面白かったのか、腹をかかえて笑い出した。


「はははは!そりゃあいい、いつからハバキネスは幻獣になったんだよ。面白い冗談だな!」


とりあえず爆笑されてしまったが、怪しまれるほどではなかったようで、トロントはほっと胸をなでおろした。

ヴァリスは余程笑いのツボに深く入ったのか、息も絶え絶えに言った。


「いやぁ、ここ最近でいちばん笑わせてもらったわ。ありがとうな。とにかく、毎日退屈でしょうがないからさ〜」


「退屈、なんですか?」


おずおずと、ハルジオがヴァリスに尋ねる。すると、彼は当然と言わんばかりに肩をすくめる。


「そりゃあ退屈でしょうよ。だって、どんな願いも簡単に叶っちゃうんだよ。こんな世界、いい加減、飽き飽きするよ」


「……!」


この男は、なんということを、さらりと言ったのか。

どんな願いも簡単に叶う──

聞き間違いでなければ彼はそう言ったのだ。


ハバキネスは、ノクトたちの世界では、願いを叶える幻獣、そして伝説として存在していた。そのルーツがここにある、それどころか……もしかしてこの世界に生きる者は、簡単に願いを叶えることができてしまうのか……?

彼らにはそれがどういう世界なのか、想像もつかなかった。


「あの、どんな願いも簡単に叶うというのは……」


おずおずとマリンが尋ねると、驚いたようにヴァリスは言った。


「ああー!もしかして、世界の果てから来た人かな。たまにいるんだよね、願いを叶える魔法を持たない、かわいそうな人たちが。いいよ、オレが見せてあげるよ。ほら!」


ヴァリスは黄土色の輝く目を煌めかせ、なにかの術式を行うでもない、ただ手を軽く振っただけで──そこに、小鳥を生み出した。


「鳥が出てきた!なにこれ、手品?」


クレアが興味深く、ヴァリスの手に留まる小鳥に近づいた。小鳥は驚いたのか、飛んでいってしまった。


「手品じゃないよ。オレが今生み出したのさ。人間でだって、同じことができるよ」


「えええ!」


人間も生み出せる──


それが、どれほどの魔力を必要とする恐ろしい行為か。

マリンは恐怖で寒気を感じていた。

自分の魔力が「可愛らしい」と評価されるのも、それはただの真実だったのかもしれない。


ともかく、五人がこの世界に来た目的は試練の達成のため──ハバキネスの考えを理解するためだ。彼女に出会えたのであれば、彼女と共にいれば試練は達成できるのではないか。

ハバキネスがその超常の力で五人に害をなすようには見えない。恐ろしい状況ではあるが、幸先は悪くない──


そう思った時だった。


「あれぇ……なんか、変なのがいる」


知らない声が、降ってきた。

空を舞う、ローブの男。


「小せぇ魔力。なんだなんだ、そいつらは。どこから来た」


暗く、傲慢な物言い。宙に舞った男は灰色の髪、狂気を纏わせた赤い目をしていた。


「ノルツ……!皆さん、ごめんなさいね。彼は私の……近しい考えを持った親しい友人なのですけど。少し無礼なところがあって……」


ハバキネスが申し訳無さそうに言うと、陰気な顔を歪めて地上に降り立ったノルツが五人に近寄ってきた。

その様子を見て、まずいと思ったのか黄土色の瞳のヴァリスが、間に入ってノルツを制しようとする。


「ノルツ、物騒なことはやめるんだ。彼らは旅人だぞ」


「旅人だから、いなくなったところで、何の問題にもならねぇだろ」


だが、ノルツは楽しそうにくつくつと笑って、ヴァリスをどかして五人のほうへと歩んでいく。

接近し、その中の、ノクトに目を止めた。

俯き気味のノクトの顔を、下から煽るように覗き込む。


「あれぇ、なんか、めちゃくちゃ暗い顔のヤツがいるじゃん……どうしたぁ?悲しいことでもあったかぁ?」


ノクトは死んだような目で、赤い目の狂気の男を眺めている。

するとノルツは狂ったように笑い出した。


「あははははは!……ああ〜、もしかして……願いの魔法も持たないのに家族が死んだ奴かぁ?よく来るんだよねぇ、そういう奴……オレが、願いを叶えてやろうかぁ?誰でも、一瞬で生き返らせてやるぜ……オレの靴を舐めて、土下座したらなァ!あははははは!」


あまりの無礼に──ノクト以外の四人の顔色が変わり、一気に物騒なオーラが満ちる。

だがその瞬間──

ナイトブレードが一閃。

ノルツの右腕は、胴体から切断されて泣き別れしていた。出血が赤い花びらのように舞う。


「ノクト!」


さすがに愕然とし、ハルジオが叫ぶ。ノクトが全くの無表情のまま、鞘から刃を走らせて相手の腕を叩き斬ったのだ。いくらナイトキラーのノクトといえど、ここまでの容赦のない振る舞いを見たのは、ハルジオにとって初めてだった。


その様子は、本来のノクトのものではない、壊れた何かを感じさせて、ハルジオは背筋が寒くなった──

今までもそういうところはあったが、そこに至る判断材料の少なさ、そしてその決断の速度はもはや段違いだった。

しかし、ノルツは痛みに呻きながらも、果てしなく凄惨に楽しそうに、笑った。


「いいねえ……その負けん気の強さ……これだから外の奴を見つけたら嬲り殺すのが楽しいんだ。バカにされて怒るやつなんか、この《夢幻界》にはいねえ……いい退屈凌ぎになりそうだなぁ?」


ノルツは当たり前のように、一瞬にして腕を再生した。

マリンは驚きのあまり目を見開く──術式も何もあったものではない。あまりの魔力の強さによって、全ての法則を完全に無視しているように見えた。


ノクトは感情を失った目で、ただ自分と、何より姉を侮辱した形になったノルツの息の根を止めようと、ナイトブレードを構え直す。


「おやめなさい、ノルツ!」


凛と響く声で、ハバキネスが言う。

ノルツは緊張した空気をといて、肩を竦めて背を向けた。


「おお、こわ。そんなんじゃ一生独り身だね、ハバキネスは」


「好きなように言いなさい。私はあなたに構っている時間はないのです。これから用事がありますので」


「用事、ねぇ」


狂気の赤い目を持つノルツは、陰気に笑いながら立ち去ろうとする。


「用事も何もかも、もうどうでもいいじゃねぇか。こんな膿んだ世界……滅びることでしか、救えねえんだから…」


「ノルツ、お前……まだ、そんなこと言って……」


ヴァリスは食い下がるように彼を諌めようとするが、ノルツはひらひらと手を振り、気にするようでもなかった。

ヴァリスは五人に対して「ごめんな」とでも言うように、頭を下げた。そしてヴァリスを追っていった。

ハバキネスは油断ない顔で、ノルツの遠ざかっていく後ろ姿を見つめ続けていた。






その瞬間。青く輝く草原が急に消え去った。五人は驚いて、周囲を見渡す。

「……!」

宙に浮くような感覚があって、気がつくと、五人は世界の記憶が散らばる空間に浮いていた。

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