第三十一話 テントは宙(そら)に
マリンの丁寧な介助とゆっくりとした休息で、ノクトは普通に動けるほどに回復していた。
彼は焦って先に進みたがったが、マリンは断固として首を縦に振らず、余裕をみて数日は休ませた。
「マリンて、けっこう頑固だし気が強いよね……」
というのが、それを見ていたクレアの談だった。
「まあ、なんていうか、マリンのいうことは基本正しいしな……なんつーか、実家のおかんレベルに」
トロントは、思うところがあって、自分でもよくわからない複雑な思いを抱えていたが、とにかくノクトが回復したことについては無論手放しで喜んでいた。
ノクト本人は、さすがにこれ以上自分のために休憩を入れるのは無理だと、半ば頼み込むように皆に言って、どうにか野営を片付けてもらって先に進むこととなった。
皆を自分の回復のために足留めして、これ以上の迷惑をかけるのはノクトの性格上何よりも辛かったようだ。
マリンはとてつもなく渋い顔をして、何だったらちょっと怒っていたが──
ともかく、冒険の再開だ。
道中はそれなりに厳しい山道だった。
グレードワイツで最も高い山に差し掛かり、急激に標高が上がっていく。
「誰が何でこんなところに塔を建てるんだろうな……石材を運び込むのだって大変だろうに」
トロントは、光り輝く塔を見上げながら、道の険しさに呆れ果てながら言った。
「やっぱり、魔力の源泉たる場所に後から塔を建築したのでしょうか……」
マリンも、美しい塔の輝きを見ながら言う。
ハルジオは、ノクトを気にしながら声を掛ける。
「ノクト、怪我は大丈夫?」
「問題ない。おかげでかなり良くなった」
返事は返るが、ノクトはだいたいどんな事があっても「問題ない」と言いそうで、あまり信用できないんだよな……となんとなく全員が思っていた。
険しい山道を進んでいくと──
突然非常にカラフルな巨大オウムの群れが枯れ木に留まっているのが見えた。
「なんだオウムか……なんでこんなところに……っていうかこいつら無駄にカラフル過ぎじゃね?色のセンスねーな」
と、また性懲りもなくトロントが鳥たちについてボソッとつぶやくと、さすがにクレアは「あっ」となった。
案の定、オウムたちは猛然とトロントに襲いかかった。
「いてっ!何すんだ……おいやめろ!」
そして無常にも、巨大なオウムたちは群れを成して彼をつつき倒した。
「なんでトロントって鳥に攻撃されるんでしょうね……」
「さあ……」
二度目ともなると、そのまま眺めてしまうマリンとハルジオ。
だがしかし、今度はそれだけでは済まない。
なんと一匹のオウムが、トロントが背負っていたテントを無理やり剥ぎ取って、奪い去ったのだ。
「テントが!」
驚いてマリンが叫ぶ。
そして大事な野営道具を盗まれたことについて、クレアがブチ切れる。
「何やってんだぁお前ェっ!!!!」
もう今後一切の野営ができないじゃないか──それは彼らにとっては存命に関わる大問題で、過去最高のキレっぷりだった。
こんな時であったが、あまりにもあまりなクレアのキレ方を見て、ハルジオはつい笑ってしまった。
オウムたちは「アホー!アホー!」とカラスの真似をしながら、奪ったテントごと大空に舞い上がる。そして悠然と大空を飛んでいった。
「あああ、オレのテントが……!」
しかしまだしつこく残ってつついているオウムがいて、トロントは立ち上がれない。
「ていうか、テントが盗まれるのは本当にまずいな……!いけ、フライングボット!」
ハルジオはフライングボット三機を飛ばして、とりあえずオウムたちにぴったりとつけて追跡させる。これでテントを見失う事は当面なくなったが、テントを失ったという事実は変わらない。なんとか取り戻さなければ──
「どうしてオレは鳥に襲われるんだ……」
再びボロボロになりながらトロントは倒れ伏している。
それを見て、マリンは苦笑しながら言った。
「多分なんですけど、鳥の悪口いうからじゃないですかね……?」
今後、テントを取り返さなければ野営ができない──何気に危機が訪れていた。
今夜の寝床を失ったクレアは、まだ腹を立てているようだった。
前回からの落差がひどすぎるトロントでしたw




