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されど胸の灯火は消えずに歩ませて ~幻獣ハバキネスの件~  作者: ザイン=エル
第一章 辿るは黒き夜

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第三話 明日へ繋げるために

エイトは自身の言葉通りにノクトを鍛えるため、まずは自宅に住まわせることにした。


そもそも介護が必要な子供だ。

アイリーンがいなくなった家に、彼をそのまま住まわせておくわけにはいかなかった。


もう乗りかかった船だと腹を括っている。


ノクトは迷惑をかけて申し訳なさそうな顔をしていたが、構うもんかと連れてきた。


約束通り、彼の体を鍛えなくてはならない。が──

最初に百メートルほど走らせて様子を見ようと思ったが、呼吸器が弱いノクトはその半分を走りきることができなかった。


それだけでは飽き足らず、夜に高熱を出し、食べたものも全て吐いてしまい、二日間寝込んだ。

虚弱なのは最初からわかっていたが、ここまでとは……


エイトは考えを改め、ベッドの上のノクトに謝罪した。


「無理をさせてすまなかった……。

起きられるようになったら、もっと軽めな、入念なストレッチと呼吸法からはじめよう」


しかし、その対応が逆に不満だったようで、ノクトは口を曲げた。


「別に、走り込みでいい……早く強くなりたい」


「早くって……お前なあ」


呆れたようにエイトは言った。


「こんなこと続けてたら死んじまうだろ。

物には順序ってもんがあるんだよ」


「どうせ死ぬなら、仇をうってから死ぬよ。

だから大丈夫」


「何がどう大丈夫なんだよ……」


エイトは頭を抱える。

無茶なことをさせたら本当に死んでしまうだろう。

しかも本人はその無茶を望んでいる。


「とにかく!」


エイトは気を取り直して言った。


「まずは呼吸器をある程度強くして、人並みの生活が送れることを目指す。

強くなるのはその先!わかったか?」


悪い生徒のノクトは納得がいかず、窓の外を眺めながらも、エイトを困らせることは本意ではなかったので、


「……わかった」


と、渋々うなずいた。





最初の三ヶ月が最も厳しい地獄だった。


エイトの要求する無理のないストレッチメニューをこなすだけでは満足できず、ノクトは勝手に走り込みをしてしまう。


無理をしたことで夜は高熱を出し、悪い夢を見て何度もうなされていた。


「……走り込みはまだダメだって言ってるだろう。こんなに熱出して……」


「……」


何度止めても無茶をやめようとしないノクトに、エイトは困り果てていた。


熱が出てる間は大人しくするだろうと思いきや、まだ下がってもいないのに朝に起きだして、また走り込みに行ってしまったと知った。


死に向かうのが先か、体力が身に付くのが先か──


いくら止めても聞かないなら、好きにすればいいと、半ば怒りに任せてノクトを放置した。

危険だとわかっていたのに、探しに行かなかった。


カフェの営業は普段通り行っていた。

開店し、多忙がピークに達する。


多忙な内はなにも考えなくてすむ。


客足がまばらになる夕方──まだノクトは帰っていない。

冷たい汗が、エイトの背筋を伝っていった。


まさか……


他の店員に仕事を任せ、飛び出すようにカフェを出て、彼を探しにいった。


「ノクト……どこだ……!」


あいつに、何かあったら……


戻らないノクトのことを思い、最悪のことを想像する。


どうしてオレは、怒って、ほったらかしたりしたんだ。

あいつが無茶苦茶するのは、当たり前じゃないか。


病弱で、大事な人を亡くした、まだほんの子供じゃないか……


エイトの頭の中に、アイリーンの顔が浮かぶ。


戻らなかったアイリーン。


ノクトにも、そんな運命を、背負わせるのか。


どうして……


「どうして大人のオレが、あの子を思いやれなかったんだ……!」


後悔で胸が塗りつぶされそうだった。


だが──


帰路の脇に倒れているノクトをみつけた。


「ノクト!」


エイトは叫んで走り寄る。


「ノクト!起きろ!ノクト!」


抱き寄せられて強く揺さぶられ、彼は苦しそうにラベンダー色の瞳を薄く開いた。生きている。


「痛い……よ。馬鹿力で揺らすな……折れる……」


それはその通りだったので、思わず「すまん」と謝ってしまった。

だけど、ほっとした瞬間、言いたいことがたくさん湧いてきた。


意を決して──エイトは、意識を薄く取り戻したノクトの頬を、軽く、ぺち、と叩いた。


「お前、強くなる前に死にたいのか!アイリーンがそれで、喜ぶと思うのか!」


叩いた力は、ものすごく弱かった。

だが、言葉は強い。

エイトは、初めてノクトを叱った。

ノクトは驚いて、エイトを見つめる。


エイトが怒って、本気で身を案じていることを伝えようとしている。


この弱い平手打ちが、エイトができうる最大の手加減だったんだろう。

もはや平手打ちとも呼べない、触れる程度のものだった。


だけど、アイリーンがいなくなってから、彼の頬に誰かが触れたのはこれが初めてだった。


「……うう」


ノクトはエイトに抱きかかえられながら、自分の無力、やり場のない憎しみ、そして寂しさに、子供のように泣いた。

エイトの逞しい腕に震えながらしがみつき、涙がとまらない。


エイトは「怒ってごめん」と謝りながらノクトを抱きしめる。


「心配なんだ。お前まで死なないでくれ。アイリーンのぶんまで生きてくれ…」


アイリーンの分まで生きる……そんなの、あんまりにも、難しいよ。エイト……


ノクトは思っていた。

だって、仇を打ったら、この命はもういらないんだよ……


だが、自分のことを、こんなにも正面から思ってくれているエイトの前では、どうしてもそれは言えなかった。


だから、観念したように、エイトの腕の中で、静かにうなずくしかなかった。

お読みいただきありがとうございます!

「され灯」は復讐と成長、友情をテーマにした王道冒険ファンタジー幻獣譚です。

初回第一話~第三話まで同時公開させていただきました。

どうぞよろしくお願いいたします(o_ _)o))


★「され灯」は完結まで毎日17時50分に連載予定です★

ブックマークや★、ご感想をいただくことで救われる命(私)や次回続編もあるかもなので、

ぜひぜひお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
Xの企画できました。まくおです。 やっぱり本気で怒ってくれる人って大事ですね!
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