第二十七話 往時、なお真相遠し
【前回までのあらすじ】
功名な作戦によってキングゴブリンを捕獲した幻獣調査団。
彼らはついに、ノクトの姉・アイリーンの情報を聞き出すことに……?
キングゴブリンは低い唸り声を上げていた。両足も縛ったので、もう起き上がることはできない。
「またキサマにやられた……ふざけるな、シね。どこかへイけ!」
「何をどう勘違いしているのかは知らないが、その人物とオレは別人だ。そして、以前お前を炎で焼いた、その相手の行った先を教えてほしい」
冷静な声で、ノクトはキングゴブリンを問いただす。
「アア~?なんでオレサマがキサマに何かを教えねバならんのだ!ふざけるな!」
それに対して、察しが悪いなぁ……という顔でクレアは冷笑した。
「なんでって、そりゃ命がかかってるからねぇ」
「エ……」
すでにノクトの腰から、無言でサバイバルナイフが引き抜かれていた。
「い、いいまス、いいまス……」
キングゴブリンはこれだけの手傷を負わされて、ロープでぐるぐる巻きにされて、抵抗するのは無理だとようやく察した。
「……炎の魔法使いをツれた一行は、そこにあるアーティファクト無人販売で買い物をして……ヒき返していっタ」
「……引き返した……あの塔へは向かっていないということか」
「ソウダ。そいつらとオレたちとの戦闘は、激戦をキワめた……双方にタダイなケガ人がデた。これ以上進むのはムリだと判断したそいつらは、キた方へとカエっていった」
「ちなみにそれは……いつのことだ」
「いつ……」
ざわざわと小型のゴブリンがやってきて、キングゴブリンに対してああでもない、こうでもないと話しかけている。
「かなりマエのことで、正確にはヨクはわからない。数年は経っている」
「……」
ノクトは、そうか、とつぶやくことすら難しかった。
もし比較的最近のことであれば、まだこの島の中で生きていて、船や何かに異常があって戻れなくなったと考えられたのに。
初めて入手した姉の情報は、「数年前に、ここでキングゴブリンと戦闘をし、ここではないどこかに引き返した」ということだけだった。
どっと疲れが襲ってきて、ノクトは天を仰いだ。何かを期待していた分だけ精神的にきつい──
肩に乗ったナイトスコーピオンのアイリーンは、そっとノクトの頬をなでるように擦る。それに気づいてノクトは優しく微笑み、ナイトスコーピオンのアイリーンを撫でてやった。
「また、行方不明になった幻獣調査団の情報は、振り出しなんですね……」
心底残念そうにマリンが言う。
しかしハルジオは、明るい声を作って言う。少しでもみんなを元気づけたいという思いがあった。
「でも、何も情報がないよりいいかもしれないよ。少なくとも、ノクトのお姉さんたちは、この禁域までやってきていたんだ。その後の足取りも掴めるって、信じよう。そもそも──」
そして彼は、光り輝く塔を見て、決意を新たにしながら言葉を続ける。
「幻獣ハバキネスは全知全能の存在。どんなことでも知っていると言われている。ハバキネスに会えば、四年前の幻獣調査団のこともわかるはずだよ」
「そうだな……」
ノクトも、温かい輝きを放つ塔を見ながら、深くうなずいた。
「おっ」
ふと、トロントが、地面に散らばったどんぐりに気がつく。
数えてみると、二十個ほど転がっていた。
「俺たちが勝ったから、こいつはもらっていいんだよな」
確認を入れながらも、相手の返事は待たずに持っていく気満々のトロント。キングゴブリンは悔しそうに唸っていた。
幻獣調査団の五人は、先ほどの無人販売の場所まで戻っていた。
どんぐりを二十個入手したので、これらのアーティファクトが手に入る──それは、冒険家である彼らにとって、ワクワクする瞬間だ。
支払いのために、クレアは二十個のどんぐりを小さな箱の中に入れた。
「これで持って行って大丈夫かな?」
「大丈夫なんじゃないですかね……?」
クレアの言葉に同意するハルジオ。
あまりにも不用心なこの無人販売所で少し戸惑いながら、指定の支払いはしたため、おそるおそるアーティファクトを手に取ってみる。
「この、翼の模様がある腕輪は、どういう効果があるんだろ?」
クレアが美しい白銀の腕輪を手に取ると、光でできた文字が突然現れる。
「わわ!なにこれ!」
彼女は慌てながらもその腕輪を大事に持ち続け、トロントはその文字を覗き込んだ。
「へー、説明書までついているのか、おあつらえ向きだな」
「でもこれ、文字読めないね。マリンはこれを読める?」
すると、様々な言語を習得しているマリンが助け舟を出してくれた。
「古代文字ですね。『ジャンプウィング。鳥の翼を手に入れし者よ──これを装備すると、ジャンプ中の攻撃力が二倍になります』と書いてありますね」
トロントは思わず言う。
「出だしの神秘的な言葉と、後半の具体的な言葉の落差がすごすぎる」
「二倍……二倍とは、どういう基準で……?」
ノクトも疑問に思って口にする。
トロントはベルトの方も触ってみる。唐草模様のような美しい白銀の装飾がされたベルトで、青黒く輝く竜の鱗が使われている。こちらも手に持つと、腕輪と同じように不思議な文字が光として現れた。再びそれをマリンが読み上げる。
「ええと、こちらは……『スーパーベルト。黒竜の力を継ぎし者よ──これを装備すると、常時+1のバリアを得ます』」
「名前、なんかダサくない?」
「まあ……うん」
クレアの正直な感想に半ば同意しながら、トロントは言った。彼は再び気を取り直して続ける。
「何をもってして+1なのかは相変わらずわからないが、確かにすげー魔力を放っている……これで首の皮一枚つながることもあるかもな」
そして考えたトロントは、それをノクトに渡す。
「ノクト。なんかお前が一番死にそうだから、とりあえずこれでも付けとけよ」
「……別に死なないが?」
取り付く島もなく素っ気ないノクトの言葉が返る。彼は冷静に言葉を続ける。
「オレは基本的に攻撃は回避できるからな。トロントのほうこそ危ないだろう、装備しておけ」
まるで『お前は回避が苦手だろ』という体で言われて、トロントはキレた。
「うるせえ、怒るぞ!あちこちでめちゃくちゃしやがって、見ててヒヤヒヤしすぎてオレの寿命が縮んだらどうするんだ。いいからこれを装備してオレの寿命に貢献しろ!」
トロントは、いきなりノクトに掴みかかった。
「おい……!」
掴みかかられた彼は、予想外の出来事に驚いた声をあげる。
トロントはウエイト差を活かして彼を押し倒し、そのまま両手両足を押さえつけた。
彼は計算高く考えていた──ノクトは敵に対しては容赦のない男だが、仲間に対して危険な行動をとることはあり得ない。
「なっ……何を……!」
突然のトロントの暴走に、ノクトは困惑する。
トロントは自重と地面を利用してがっちりとホールドしていて、体は少しも自由には動かせない。
トロントは鋭く叫んだ。
「ハルジオ!抑えとくからこいつのベルト抜け!」
「え……ええ?そんな、え?……いいのそんなことして」
何か背徳的なことをしているような気になりながら、言われるままハルジオはノクトのベルトを外そうとする。
ノクトは全力でこのホールドを解こうとするが、ウエイト差がありすぎて到底無理だった。彼はトロントをどうにかすることを諦め、ハルジオに対して叫ぶ。
「ふざけるな!おい、やめろ……触るな!……こんなことをして……ハルジオ──!」
他意はないのだろうが、何か見てはいけないものを見させられてるような感じになっていたので、マリンはクレアの目を塞いでいた。アイリーンはコンパクトになってクレアの手の中にあり、やっぱり目を塞がれていた。そしてマリンだけは彼らをしっかり眺めていた。
結果、トロントが勝手にノクトの腰にベルトを装着することに成功した。
「お前……勝手に……!」
「どうだ、ちゃんとそのまま付けておけよ!」
ようやく解放されたノクトと、勝ち誇るトロント。そして、親友に何かいけないことをしてしまった気持ちになっているハルジオ。
騒動は終わったようだ。無事にクレアとアイリーンの目は解放された。
一部始終を眺めていたマリンは、コホンと一つ咳払いをした。
「最初はこの二人が仲良くやれるか、ちょっと心配してたんですけど。仲良しになって何よりです」
「今の出来事をもってして、何かの仲良しと言えるのか……?」
乱れた制服と髪を正しながら、ノクトは疲れたように呟いた。
そして、もう一つの腕輪はどうしようかという話になる。するとクレアがうるうるとした目で腕輪をつかみながら離そうとしない。
「これめっちゃ綺麗だし!私、よく跳躍して斬撃するし!ほしい!」
「まあ……」
この性能であれば、装着して性能を引き出せるのは、ノクト以外であればクレアとトロントの二人だ。しかしトロントの方は、その腕輪が装着された自分の外見が想像できず。
「オレにはどう考えても似合わないし、言うほど跳躍攻撃しないし、クレアでいいんちゃう?」
「やったー!トロント、ありがとー!」
そのやりとりを眺めていた三人も、なんだかほっこりした。
アーティファクトを二つ入手した幻獣調査団のメンバーは、禁域の先、光る塔へと向かう。目的は、その先にいる幻獣ハバキネスと会うことだ。
「ノクト、待ってください」
マリンは彼に駆け寄った。左頬に刻まれた赤い傷が少し腫れ始めていた。
彼女が頬の傷について言及していることを察知したノクトは、時間が惜しくて言った。
「この程度の傷、放っとけば治る」
「ダメです。小さな傷でもちゃんと処置しないと。菌が入って大変なことになったり、傷跡が大きく残ったりもするんですから」
ね、というように首を傾けて、マリンはノクトの肩にいるアイリーンに同意を求める。アイリーンはこくこく!と強くうなずいた。
反論に困って、ノクトは諦めた様子で処置を受け入れる。背が高いので、少しかがんで消毒と応急処置を受けた。傷口にぴったりのテープを貼ってもらって完了した。
処置中、その怪我人を押し倒してあれこれしていたトロントとハルジオは微妙に気まずく、ちょっと反省していた。
肩に乗ったアイリーンが、マリンに対してぺこっと頭を下げたような気がした。マリンは、アイリーンに向けて優しく微笑む。
その時──森の木立の高いところがざわざわと揺れた。
「もう、ハルジオ~。木立揺さぶるのはもういいってば」
またかー、という感じでクレアが文句を言う。
「え?僕は何もしていませんが……」
と、三機のフライングボットを肩と頭に止まらせたハルジオが首をかしげた。
「……え?じゃあ、あれはなに……?」
ざわざわと音をたてる木立の隙間から、それは姿を現す。
狼のような巨体──左目を失った、あのフェンリルだ。
ノクト的にはがっかりな情報だった上、
まさかの強敵フェンリルに再び出会ってしまいます。
誰だ進行でサイコロ⑥出したやつ!!




