第二十六話 偽装作戦
【前回までのあらすじ】
キングゴブリン戦。ノクトは何らかの作戦を思いつくが──
戦闘は乱戦状態にあった。
斬り込めば吹き矢によって狙われ、距離を取ればキングゴブリンの射程に入り凄まじい打撃が襲いかかってくる。
なかなか斬り込めないクレアと、ソイドを投げることしかできず決定打に欠けるトロントに、焦りが生まれる。
なんとかしてこの状態を打破しなくては──
その時だった。後ろで密生した森の木々の高いところが、突然ざわざわと動き出した。
「巨大な何かがいます!皆、下がって!」
マリンが悲鳴のように叫ぶ。すると、キングゴブリンや森の陰に隠れていた小型ゴブリンたちも、ぎょっとした様子で後ろを見る。
ノクトとハルジオだけはその隙を見逃さなかった。
ノクトは影のようにキングゴブリンの間抜けな後ろ頭まで突進し、背後からその肉厚の肩へナイトブレードを深々と突き込んだ。
「グアアアア!」
いくら肉厚の体であろうと、ナイトブレードに貫けぬものはない。キングゴブリンの絶叫。それと同時に、ハルジオのフライングボットが一機、ロープの端を持って、そのキングゴブリンをぐるぐる巻きにした。
そのロープの反対側を持っていたハルジオから端を受け取ると、ノクトはグイと容赦ないほどにきつく、キングゴブリンの両腕ごと胴体を縛り上げた。
両腕ごとロープでぐるぐる巻きにされたキングゴブリンを、全自重と遠心力を乗せたカミソリのような回し蹴りで蹴り倒す。ドウ、と巨体が為す術なく崩れ落ちた。
さらに、地に伏したキングゴブリンの血にまみれた傷口を、革靴の踵を入れて全体重でグッと踏みつけた。さすがに、あまりの激痛でキングゴブリンから汚い悲鳴が上がる。
「うわ、いたそ~。マジ外道~!」
「あいつマジで敵に回したくないな……」
というのが、クレアとトロントの感想だった。
ものの数秒、あっという間の出来事に、小型ゴブリンたちは誰も対応できなかった。しかし、何が起きたのかを理解すると、慌ててノクトに吹き矢を向けた。
「おや……」
ノクトは銀色の髪を揺らしながら、涼しい顔で言う。
さらに──ノクトは、キングゴブリンの貫通した肩の傷口へ、革靴の踵をグリッと押し込んだ。当然、更なる汚い絶叫が上がった。
「お前たちの親分を針だらけにしても良ければ……撃ってみるか?」
殺意をたたえた、冷酷な微笑み。
小型ゴブリンたちは、震えながら無抵抗の意思を示すために吹き矢を手放した。
彼らには、自分たちの首が泣き別れする未来しか見えなかった──
安全が確保され、全員が駆け寄ってくる。
「なんだよ~、ハルジオとの作戦があるなら、一言いってくれよ」
「ほんとびっくりしたんだからね!マリンの演技、マジで凄すぎ!」
トロントとクレアは口々に文句を言いながら、敵を制圧したノクトに近づいてきた。
「すまない、言ってる時間がなくてな。それに『敵を騙すにはまず味方から』という言葉もある」
「そりゃ、そうだけどよ~」
ノクトが指示をしたのは、ハルジオのフライングボットに、木立の高いところをざわざわと揺らしてもらうことだった。
この島には、巨龍やフェンリルといった巨大種がいる。キングゴブリンたちはそれらが来たのだと思って、ノクトの狙い通り、焦って戦闘を停止した。
「マリンには直接伝えられなかったが、いい演技だった。ハルジオも完璧なタイミングだった。ありがとう」
ノクトは二人に礼を言う。
「木立ちを揺らすのはともかく、キングゴブリンにロープを巻きつけるのはちょっと心配だったけど、どうにかなってよかったよ」
「ぶっつけ本番の演技指導なしで、ちょっとびっくりしました」
ハルジオとマリンは安堵の表情でそう言った。
「そうだノクト!前の幻獣調査団の……お姉さんのこと……!」
「ああ……」
ハルジオの言葉に、ノクトはキングゴブリンの方を向き直る。
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