第二十五話 樹林の死闘
【前回までのあらすじ】
幻獣調査団は、禁域にてキングゴブリンと遭遇する。
キングゴブリンはもしかしたら、アイリーンのことを知っているのかも知れない。
ノクトは、やっと手に入れた姉の手がかりの可能性によって思考を飛ばし、完全に不意を突かれた形になった。
それでも、持ち前の反射神経で奇跡的にその棍棒を回避した。
が、その回避はぎりぎりだった。
端正な顔面が破壊されることは防がれたが、頬に一筋の赤い線が刻まれる。
トロントは、ザクロが弾けるような無惨な風景を思い描いていたため、血が上った頭から急激に血の気が引いて、安堵しすぎて倒れるところだった。
「マジで勘弁してくれよな……今の、ガチで死んだかと思ったぜ」
一方、肩に乗っているナイトスコーピオンのアイリーンは、驚きすぎて震えている。言葉が聞こえなくても、彼女の怒りが伝わってくる。「大事なノクトに顔になんてことを!」と激怒して尻尾をプルプルしていた。
「そのスましたキレイなカオを、ブッ潰せなくて、ザンネンだなあ~」
キングゴブリンは下卑た笑顔と野太い声で、ノクトを侮辱した。だらしのない口元からは涎が滴っている。
「きさまのカオも、オレみたいに、丸焼きにして、メチャクチャにしてやるぞ!」
「……すまないが、趣味じゃないな」
ノクトはトントンとつま先でステップを踏み、カウンターの構えを展開。ナイトブレードの切っ先を敵に向けて、攻撃に備える。
ノクトは、一旦重大情報のことはさておき、目の前の戦闘に集中することを心に誓う。
前方を全力で警戒して敵を見据えたまま、ノクトは仲間たちに周知する。
「悪いが、こいつを殺さず捕らえてくれ……多分だが、姉の事を……行方不明になった幻獣調査団のことを、何か知っている可能性がある」
「なんだって……!」
ハルジオが血相を変えて呟く。
クレア、トロント、マリンも同様に顔色を変えた。
キングゴブリンはこちらの都合などお構いなしに突進してくる。人間の倍以上のリーチから繰り出される攻撃は、まともに受けたら骨も含めて破壊される威力だ。
狙われたノクトとトロントは、その攻撃の筋を見切って紙一重でかわす。
かわしざま、トロントは飛刃のソイドを投げつけて牽制する。
「うざッたい!」
キングゴブリンは投げつけられたソイドを棍棒で弾くと、巨大な足を持ち上げてトロントの腹を蹴って吹き飛ばす。
「うぐっ……!」
「トロント!」
ハルジオが吹き飛ばされたトロントを支える。
「なんて……クソ力だ……」
苦しげに呻くトロント。
ギリギリで、腹と敵の攻撃の間に盾のように片手剣をねじ込み、ガードが間に合っていた。
それでもこの破壊力──モロに食らっていたら臓器を損傷する威力だった。
その攻防を隙として、クレアは無言で飛び込んだ。高く跳躍し、狙うは弱点である首周り。威力がブーストされた魔剣の斬撃は、的確にキングゴブリンの弱点を突こうとするが──
突然鳴り響くアイリーンの危険アラート音。木の陰から、吹き矢が乱射された。
「あぶなッ!」
アラートに気づき、寸でのところでクレアは切り返して後ろへ下がる。つい一瞬の前までクレアがいたところは、無数の吹き矢によって剣山のようになっていた。
突き刺さった吹き矢をチラと見て、ノクトは冷静に言う。
「神経毒が塗られているな」
「まあ、だよね」
ぺろ、と口角を舐めながら、クレアも同意した。
吹き矢が飛んできた方向を見ると、影と赤い目がザワザワと大量に息づいている。
ノクトは正面を見据えたまま、声だけで後ろの状態を確認する。
「無事か、トロント」
「ああ……マリンに軽く回復魔法をかけてもらった。いけるぜ」
「わかった。──ハルジオ、きてくれ」
ノクトは、迅速にハルジオを呼ぶ。
正面を睨み据えたままハルジオの肩を掴み、耳元に唇を寄せて、短く囁く。
「OK」
ハルジオは二言は言わせない。
すぐさま作戦内容を飲み込み、実行に移す──
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