第二十二話 小豆色の巨体
【前回までのあらすじ】
幻獣調査団の面々は、怪我人を休ませるためにテントを設営した。
ハルジオはマリンの願いを知り、自分の気持ちと重ねてそれを受け止め、前に進むことを改めて誓う。
夕暮れ──何かを煮るような良い香りが鼻をくすぐり、クレアはテントの中で目を覚ました。
クレアの肩の傷口は劇的に良くなっていた。ノクトが渡した傷薬は鎮痛剤入りで非常に良く効いたし、その後もマリンが細やかに回復魔法をかけてくれていた。
包帯で固定はしてあるが、それでも腕がしっかり上がるようになって、彼女はご満悦だった。
四つん這いになりながらいい香りがする外へ出ようとすると、薄暗いテントの中で何か柔らかいものを踏んで、踏まれたものが苦しそうな鋭い呻き声を上げた。
クレアの下で、思い切り体重を乗せられたノクトが顔を歪めていた。
「……あ。ごめんノクト。だいじょぶ?」
「……クレアか……いいから、どけ……重い」
「私重くないもん!あんたより軽いし!」
反射的に『重い』というワードに反応して怒るクレア。
しかしノクトは何をそんなにムキになっているのか全くわからない。
「……?いや、人間の全体重が腹に直撃したら、普通に重いだろ……」
相変わらず、姉さん以外の女性の考えることは、自分にはわかりにくい。神秘の領域だ。
昨日も自分なりに一生懸命やったのに、マリンに散々怒られたしな……と、クレアに押し潰されながら、ノクトは一瞬だけ昨日のことを反芻していた。
しかし何故か、昨日のことを思い出すと、怒られたにも関わらず胸の奥が温かくなって、自分でも何がなんだかわからなかった。
すると突然オレンジの光が外から差し込む。テントの中から元気にすったもんだする声が聞こえてか、トロントがテントをあけて外から覗き込んでいた。
「……何やってんだ、お前ら……」
クレアとノクトはテントの外に出た。夕暮れの空は少しずつ藍色に染まりはじめ、小さな鍋から温かい湯気と食欲を刺激する香りが漂っていた。
「クレア、ノクト!」
ハルジオが安堵の表情で駆け寄ってきた。
「二人とも、随分顔色がよくなって……本当に良かった!」
ノクトは彼のその顔を見て、随分心配をかけてしまったことを知った。
「失態を見せてすまなかったな……休ませてもらったおかげで、だいぶ楽になった」
そして、ノクトは自分の調子を確かめるように、軽くトントンとジャンプする。肩には嬉しそうなアイリーンが乗っていた。
「もう全然痛くないよ〜!」
言いながら、クレアも大きく伸びをした。その様子であれば、もう肩の傷も問題なさそうだ。
「良かった。一時はどうなってしまうかと、心配していました」
マリンが微笑みながら声をかける。その手には、温かいスープの器があった。
「さ、暗くなってしまう前に、食べましょう。英気を養わないと、戦えませんから」
◆
夜は奇跡的に襲撃もなく、穏やかに過ぎていった。
だが──何故か急に、マリンとトロントから食事量をチェックされ、もっと食えだの肉が足りてないだのとあれこれ言われたのが腑に落ちない様子のノクトだった。
「エイトの飯であれば沢山食ってるが、旅先だと最低限のほうがよく動けるんだよ」
というのが本人の談だったが、トロントの「うるせえ食え」の一言でやたら食わされた。
朝になると、全員しっかりと休息がとれて、元気いっぱいだった。
昨日はできなかったような事──川で軽く髪を洗ったり、体を拭いたり、各自身支度をしたりした。
野営の後片付けを完了し、さて草原を抜けて禁忌の地へと向かうか……と思ったその瞬間。
「あんな、盛り土なんて、昨日あったっけか……」
トロントが疑問に感じて呟く。テントを設営していた場所から比較的近くに、こんもりとした盛り土があった。
「盛り土……?どれです?」
「ほら、ハルジオ、あそこ……」
ハルジオとトロントが、謎の盛り土を凝視する。
確かに、あんな小豆色の丸っとしたものは昨日はなかった気がする。
その盛り土のようなものは、急にずずずずと動きだした。
「え、え、え……?」
二人は呆然と、盛り土が動くのを見守っていた。
それは首をもたげ、翼を生やし、あまりにも巨大な──赤茶けた恐ろしい龍の姿になったのだ。
「きょ、きょ、きょ」
「きょ、きょ、きょ……」
二人がきょきょきょきょ言ってるのを不審に感じたクレアが、同じ方向を眺めて、「あーっ」となった。そして一言。
「巨龍じゃん」
なんとここで攻略方法が確立できていない巨龍に出会っちゃいます。
フェンリル戦直後での出来事で、TRPGセッション時も皆「マジかよおおおうわああああ」ってなりました。ヤバイ大ボス連戦すぎる……。
これ確か、誰かがファンブル⑥出したせいです。ハルジオだったと思います…w
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救われる命があります!!




