第十七話 伝説の断片
【前回までのあらすじ】
一時的に帰還した幻獣調査隊の五名は、エイトのカフェで好き放題に食事をし、歓談した。
まだ飲み終わっていない飲み物だけを残して食事の皿が片付くと、五人は真面目に調査結果を共有していた。
「……という訳で、地獄の炎龍については、かつて東の大地にいた伝説の龍なのではという話でした。何か弱点があるように書かれていましたが、何分古い書物で、その部分だけ破れていて読めなかったので……」
ハルジオの話に、クレアが渋い顔をする。
「なんでそこだけ破れてるのよ〜。これ、命運を分けたりしないよね……」
「そうならないことを祈りたいですね……」
マリンが肩を落としながらしょんぼりと言う。
「こちらは多少情報がある」
気勢が削がれぬよう、ノクトが切り出した。
「フェンリルは、遠方の他国では一般的に使われている守護獣らしい。魔道士が召喚し、指示が無ければ動けないという、単純に使役されるタイプの守護獣だ」
「グレートワイツにいるヤツとはなんだかイメージが違うな……。あいつは知能が高いって話だし、霧のような魔法さえも使うとか……」
トロントの言葉に、ノクトは頷いた。
「考えられる可能性としては……グレートワイツにいるフェンリルはハバキネスの守護獣──つまり、召喚者の魔力が桁外れで、フェンリルのクオリティも驚異的に上がっている、ということだ」
話を聞く四人は一律、心底ゾッとしたようだった。
「それ……ハバキネスが保有する魔力量、ヤバすぎねえか……」
「……人間が倒せる相手なんでしょうか……」
トロントとハルジオの意見に、ノクトは肩をすくめた。
「ハバキネス自体は、我々人間がまともに相手をしても勝ち目が無い相手かもしれない。神のような、人間の上位存在というか。幻獣が敵対的でないことを祈るのみだが……。ハバキネスが一体どういう存在で、どういう伝説を持つのか、クレアとマリンが今回調査してくれているはずだな」
ノクトに話を振られて、マリンは真剣な表情で応じた。
「はい。ハバキネスは願いを叶える幻獣、虹の翼を持つ白銀の竜、というのは皆さんご存知かと思います。今回は、古い書物を中心に、あらゆる方向性からハバキネスについて調べてみました。」
彼女は手帳を開く。
「ハバキネスの伝承は、全知全能、全てを識る竜であり、人に厳しい試練を与えたという話が多く残されています。
もっと深堀りしていくと、人の魔力を奪い尽くして戦争の時代を引き起こした、世界に多くの悲しみを引き起こした元凶となった、など不穏なエピソードが多くあります。
その一方で、自分の体を犠牲にして、憎しみや悲しみを吸収し、世界の均衡を保った──という、全く正反対の伝承も残されています。そして、一部の伝承では、世界を救った光の加護獣、とも」
「……なんなんだ?世界を救ってるのに、元は不幸の元凶なのか?ハバキネスは何がしたかったんだ」
トロントが当然の疑問を口にした。マリンが困ったように答える。
「ハバキネスが何を目的としたかまでは、これらの記述からは全く読み取れないですね……。
ただ、私が気になるのは、『自分の体を犠牲にして、憎しみや悲しみを吸収して世界の均衡を保った。そして世界を救った』という伝承です。少なくともこれは……何かの思いがなければできないかと」
ノクトは、彼女の目を見ながらうなずいた。
「ハバキネスが我々に完全に敵対するかは未知数だが、少なくとも何か目的を持って動いている。そして、必ずしも敵対するばかりではなく、人間の味方となる可能性も秘めている、ということだな」
何となく難しい話なので、クレアはテーブルの上に突っ伏してごろごろしている。
ハルジオが、今回の情報の全てをまとめるように言った。
「ハバキネスが保有する魔力量は神の如きレベルで、敵対は危険……しかし、試練を突破した者の願いを叶える。その試練では、必ずしもハバキネス自体と敵対することになるかはわからない、と。
まあ……多少は希望が持てます……かね?」
「むしろ、あれだな」
トロントが腕組みをしながら口を開く。
「ハバキネスは会話が通じる相手である可能性が高い。むしろハバキネスがいるであろう、塔──そこにたどり着くまで、そしてその中が問題かもしれないな。高い知能を持つフェンリル、そして地獄の炎龍、そして禁忌の地。たまんねえな〜」
うんざりするように言うトロント。しかし、そのタイガーアイの目は、諦めることを知らずに輝いている。
ノクトはその目の輝きを見て、ふと笑った。
「戦闘は任せてくれ。どんな相手であろうと、全力であたる」
「ああ!オレも負けないぜ、ノクト」
「なになに〜、戦闘するなら私も負けないからね!」
トロントに続き、眠そうにしていたクレアが急に飛び起きて、元気いっぱいに言った。
今までのマリンの仕草とクレアのその様子から、今回得られた充実のハバキネス情報は、大体マリンがもたらしたものであることが明白だった。
◆
長丁場に渡るカフェでの談義で、とっぷりと日が暮れていた。
今日は遅いのでメンバーはグレートワイツには戻らず、本国のほうで一泊することにした。ノクトは勝手に実家のように扱っているエイト家で寝るようで、ここに残って明日に幻獣調査団本部で合流する方向となった。
カランカラン、とカフェのドアが鳴る。
「エイト、ごちそうさま!」
ハルジオが元気にお礼を言うと、皆も口々に感謝を述べた。
見送りに出たエイトは、豪快に笑った。
「いいってことよ!ノクトの仲間なんだったら、オレの家族も同然だ」
トロントは、何だかほっこりとした目でエイトを見ていた。
最初はノクトを危険な人物と思い、道中でもあれこれ思うところはあったが、育った家を見れば本人のルーツがわかる。このエイトに育てられた男なら、本当に無法な事も、本当に許されない事もしないだろうという気持ちになった。
ただ、復讐のために生きているから危うくて、刃物のようなのだと。
そんなトロントの視線に込められた思いを、エイトは鋭く察して言った。
「ノクトは非常に優れた戦闘能力を持つが、部分的には究極に不器用でな……結構、困ったところもある。だが、純粋で根はすごくイイ奴なんだ。どうか、仲良くしてやってくれ」
「おい、マジでやめろそういうの」
ノクトは不機嫌に言ったが、エイトはその不満の声を一ミリも耳に入れようとしない。
それが何だか微笑ましくて、トロントは声をあげて笑った。
「はははは!こんなに可愛がられている奴を、とても邪険にはできないなぁ」
「トロントお前、あのなぁ……」
一言文句を言ってやろうとノクトは再度口を開いたが、エイトとトロントが笑いあってるのを見て、何故だか毒気を抜かれて、押し黙ってしまった。
肩に乗っているアイリーンが、ノクトの頬にすりすりとしてくる。ノクトはアイリーンを撫で、「しょうがねえな……」という顔で苦笑した。
エイトの愛情が、どれだけノクトを救ってるかわからないレベルです。
たとえ血が繋がってなくても、親の愛は偉大……。
本人めちゃくちゃ嫌がってますけどもw




