第十五話 試練を見据えて
【前回までのあらすじ】
幻獣調査団は、村人から様々な情報を得た。情報を共有するために一度集まる。
村のごく付近にある切り株を椅子にしながら、幻獣調査団の五人は食事にありついていた。
荒野で捌いて塩漬けにした草食獣の肉を焼いたもの、村人に肉と交換で分けてもらった小麦のパンや野菜など、比較的充実した食事だった。
ノクトは用心のためか、パンと野菜は断り、肉だけを食べていた。
「いろいろな情報が得られましたね」
食事をして人心地つくと、マリンは手帳にしたためたメモを確認する。
「情報をまとめますね。
ハバキネスの目撃情報は数件ありました。
ハバキネスは守護獣としてフェンリルを使役しています。
そのフェンリルは霧を使って視界を塞ぎ、複数体に分身するそうです。
また、非常に知能が高く強靭な肉体をもつ、厄介な相手のようです」
「正直、あまり相手にはしたくないな」
と、トロントは嫌そうな声を出す。
「そうですね。可能な限り戦闘は避けたいですね……。
それと、もう一つ。
《地獄の炎龍》という巨大な龍が外部からやって来て住み着いているようです。
どうやら島の北に魔力を放つ塔があり、その力に吸い寄せられてきた可能性があるとのこと。
この島の北部は魔物たちの楽園となり、人々にとっては立ち入ることが不可能な危険地帯、禁忌の地となっているようですね」
「ひえ〜……ハバキネス、フェンリルだけじゃなくて、巨龍までいるのかぁ。
しかも北のほうは魔物の楽園って……」
流石に危険度SSSの島だなと、クレアは半ば呆れてため息をついた。
マリンは慎重にうなずく。
「ええ、かなりの危険地域といっていいでしょう。
それから、夜は謎の遠吠えが響き、島民たちはそれがはじまると眠れなくて困ると言っていましたね。これは何者の仕業なのか、何のために行われているのかはわかっていません」
パタン、とマリンは手帳を閉じた。
「それと──」
彼女は残念そうに言う。
「行方を絶った幻獣調査団についての情報も聞いて回ったのですが、残念ながら何の情報も得られませんでした……。この島は南の入江からしか船で接舷できませんので、可能性としては……」
考えながら、ハルジオが話を引き継ぐ。
「村に到着する前に、僕たちが落ちたあの大穴のような何かで事故を起こしたか……もしくは、村に立ち寄る事なく禁域へ足を踏み入れてしまったか……」
「もしくは島民ぐるみで嘘を言っているか、だ」
少し離れたところで周囲を警戒していたノクトが、肉をかじりながらつぶやくように言った。
ハルジオもうなずいた。
「まあ、可能性としてはその三つかな……」
「調査団の行方の情報が全く無いのは期待はずれだったな……
そもそもこの村しか集落がないのにこの状態じゃあ、かなり絶望的だ……」
トロントは肩を落として言う。無念の仲間がいたのであれば、自分たちで晴らしてやりたいと思う。
「島民たちが知らないのであれば、自分たちの足で情報を稼ぐしかないかもですね……」
とりあえず、得られた情報はここまでだった。
ハバキネス関係の情報が潤沢に得られたことだけが救いだった。
「さて、ここからはどうする?」
腹が満ちて、トロントは立ち上がる。
その姿を見て、ハルジオはうなずいた。
「──ハバキネス、フェンリル、地獄の炎龍、そして魔物たちの楽園たる禁忌の地。
想像以上に、厳しい戦いが続くことが予想されます。
……敵の正体がようやく見えてきたので、一旦戻って敵の詳しい情報の入手と、不足の備品を買い足しましょうか。僕たちが敵に勝ることができるのは、知恵と、情報で先手を打つこと、そして入念に準備して対応することだけです」
言うと、ハルジオは手のひらサイズの金属の球体を取り出した。
それを展開するとカチカチと謎の機構が自動で組み上がり、小型の円形ワープホールのようなものが出来上がった。
このワープ装置は、幻獣調査団の青いバッジに反応して使用可能となる特別な機構が備わっている。一度設置すれば、エネルギーが切れるまで何度でも本部と行き来できるようになる。
「これは……噂の、最新型ワープ装置……!
持ってきていたんですね」
マリンが驚いて、美しくきらめくホールをみつめている。
ハルジオは少し誇らしく言った。
「おじいちゃんの最後の研究で、実用化に間に合ったんですよ。
さあ、ここを通れば幻獣調査団本部へ帰れます。行こう!」
五人はワープ装置に近づくと、それぞれの首元の青いバッジが輝く。
そして、光に包まれた。
すると、あっという間に、幻獣調査団本部の前に立っていた。
「うわー!本当にあっという間に本部に帰ってきちゃった!」
「は~、安心感半端ねえ〜」
クレアは驚いて叫び、トロントは大きく伸びをする。
「まあ、へんてこな未開の土地から一気に帰ってきましたからね」
ハルジオは笑いながら言った。
「とりあえず埃っぽくなっちゃったし、まずは本部でシャワー浴びたいですね……。
そうしたら、どうします?」
マリンの言葉に、ハルジオは頷いて言った。
「一旦解散として、図書館で合流してフェンリル、地獄の炎龍について深く調べましょう。
僕たちが対面した時に命を救う、何か良い情報が得られるかもしれません。
その後は雑貨屋ですね。このままだと、少し装備が足りないので」
それぞれが「了解」と短く答えた。
◆
「エイト、一旦ただいま。シャワー借りるぞ」
カランカラン、とカフェの入口からノクトが現れる。
もちろん、肩にはアイリーンが乗っている。
「おか……えり……?」
接客中だったエイトは、手に持ったメモを取り落とした。
グレートワイツという遠方へと向かったノクトがここにいるという事実に目を疑った。
アイリーンが嬉しそうに、エイトに対して尻尾を振っていた。
◆
ノクトはシャワーを浴びて、すっきりしてから二階の部屋から降りてくると、エイトに捕まった。
「おいおい待て待て、ノクト、アイリーン。
なんでここにいるんだ」
「エイト……仕事はいいのか」
「まあ、一瞬客足がはけてきたから、他の仲間に頼んでこっちに来た」
「そうか、店が大丈夫ならいい」
ノクトは慌ててやってきたエイトの様子を眺めて、少し笑った。
そして、事情を説明する。
「オレたちはクライメシスの最新の簡易ワープ装置で一時的に帰ってきた。
なかなか危険度の高い厄介な島で……補充と情報収集に不足を感じてな」
ノクトが言うのであればそれは相当な危険地帯なのだろう、とエイトは思った。
ノクトは現在の状況を簡単に説明する。
粗方の状況を把握して、エイトは唸った。
「ふ〜む……ハバキネスの守護獣のフェンリル、地獄の炎龍、光る塔、か……」
「エイトはこれらの中で何か知っている情報はあるか?」
聞かれて、エイトは自分の頭の中で昔の記憶を探るように、うーんと唸った。
「オレが知っているのはフェンリルの事ぐらいだな。出会ったことがある」
「フェンリルに出会ったことが……?本当か」
「ああ」
エイトは、ノクトの目を見ながら深くうなずいた
「あれは他国との戦争の時だったな。
フェンリルは守護獣として召喚されていたが、その時はけっこう大群で……何体もいて厄介だったな」
それを聞いて、ノクトは驚いて言った。
「大群……しかも、戦争……つまり人間が使役しているのか。それも、何体も……」
「ああ、そうだ。そこの国では、フェンリルは一般的に守護獣として扱われていた。
そして、フェンリルには必ず使役している魔術師がいるんだが、指示がなければ基本は動けないんだ」
「指示がなければ動けない、か……こっちの情報とはかなり違うな」
グレートワイツにいるフェンリルは知性が非常に高く、困難な敵だと聞き及んでいる。
それが、指示がなければ動けないとは、一体……
ノクトは思案しながら口を開く。
「召喚者の魔力によって守護獣のクオリティが変わるとしたら……」
グレートワイツにいるフェンリルは、幻獣ハバキネスの守護獣。それはつまり、ハバキネスのすさまじいまでの魔力を示しているということかもしれない。
ハバキネスの試練、か。とノクトは思いを馳せる。そこまでのすさまじい魔力を持つ幻獣に、自分たちが太刀打ちできるのか……
不安はあったが、ここで言っても仕方のない話だった。
「ありがとう、エイト。有用な情報だった」
「いや、お前の役に立てば何よりだ。それはそうと、ノクトはこれからどうするんだ?」
エイトはノクトの身を案じて、ついつい親モードになってしまう。
エイトにとっては、つい先日まで病に臥せ、発作を起こし、訓練で倒れていた子供でしかない。
その様子を見て、和むように、ふっとノクトは笑った。
「今から図書館で調査。それから、それが終わったら雑貨屋で備品の補充だ」
「なら、それ終わったらカフェに来いよ。全員に夕飯おごるぜ。
それから、夜になったらさすがにもう島には戻らないだろ。なあ、一泊ぐらいしていけよぉ」
ノクトは「わかった。あいつらに提案しておく」と言って、エイトの家を後にした。
ここで一旦帰還で、エイト登場ですね。
もう完全に親w
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