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第1話 会話

「おーい叶夜! 一緒に帰ろうぜ!」

「……聞こえているから大声を出さないでくれ信二」


 咲き誇っていた桜も散り始めた四月の中旬の青空に、チャイムが鳴り響く。

 E県にある私立緑間高校。

 その一年A組の教室にて、下校や部活に向かう同級生を掻き分け大柄の男子が叶夜に声をかけた。


 男子の名は大山信二。

 明るく人付き合いも良いため、誰からも好かれる快男児である。

 だが小学校からの友人が笑顔を向けながら自分に近づいてくるのに対し、叶夜は迷惑そうな顔をして横を通り過ぎる。

 かなり失礼な態度であったが、二人の間では日常的なやり取りなため信二は気にせず後を追いかけた。


「何でついて来るんだよ」

「一緒に帰りたいって言ってるだろ?」

「了承した覚えはないが?」

「だったら追いつける速さで歩るかなきゃいいだろ?」

「……はぁ」


 結局渋々ながら信二と共に下校する。

 これも最早日常となっているやり取りであった。


「と言うか何で俺と帰りたがるだよ。友人なら沢山いるだろうに」

「みんな部活だったりで忙しいんだと。それにお前と一緒の方が楽しいしな」

「それ、あまり人がいる所で言うなよ。頼むから」


 入学早々仲良くしている二人を見て、ある熱狂的な生徒たちが自分たちのカップリングを想像していると知った時は、呪殺を考える程であった叶夜。

 だが事情を知らない信二は、照れているだけだと思い適当に聞き流す。


「そんな事よりも。あの話、考えてくれたか?」

「同好会を作るって話か? こっちは部活動が強制じゃないって理由で、この学校を選んだんだけど?」

「まあまあ。折角の高校生だぜ? 青春らしい事したいじゃねぇか」

「大体どんな活動するかも決めてないんだろうが」

「それをお前と決めたいんじゃねぇか。頼むよ最悪名前貸しでもいいからさ」


 階段を降りながら粘る信二に大きくため息を吐くと、叶夜は足を止めて後ろを振り返る。


「そんなに青春を味わいたいなら、作らないで部活に入ればいいだろ。運動も出来るし頭もそこまで悪く無いんだから」

「一から作るっていうのが肝なんだよ。それにただの部活じゃ入らないだろ?」

「だから何で俺を巻き込むんだ」

「お前がいつも退屈そうな顔をしてるからさ。折角の人生、楽しまなくちゃ損だろ?」

「……はぁ」


 深いため息を吐き、再び階段を降り始めた叶夜。

 当然の如く後をついてきた信二と、叶夜は会話を再開する。


「気にしてくれてるのは有り難いけど、悪いが平々凡々な俺には生きるだけで精一杯なんでね」

「勉強も運動も出来るじゃんか」

「そこそこ、だろ。本気で熱中できるような何かに、打ち込める程の実力も願望も無いんだよ俺は」

「見つけるために何かに打ち込んだっていいだろ」

「かもな。けど見つける為に頑張るのも躊躇う。そんな男なんだよ俺は」

「諦めないからな」


 下駄箱までたどり着き、それぞれ外履きに履き替えると共に校舎を出る二人。

 しばらく黙り込む二人であったが、ふと信二が思い出したように話題を振る。


「そう言えば知ってるか? 噂の神隠し」

「? 悪い。最近ニュースあんまり見てなくて」

「何でも一か月前から行方不明者が続出してるんだと。性別も年齢もバラバラで、一部じゃ神隠しって呼ばれてるだと」

「へぇ。けど警察も黙ってないだろ、そんな事件」

「ネットに出てる話だと、証拠も何も残ってないみたいでな。警察も手を焼いてるって」


 運動部の掛け声や吹奏楽の演奏が風に乗って聞こえる中、二人は歩きながら会話に没頭していく。


「お前も気をつけろよ? お袋さんが交通事故で亡くなって息子が行方不明になったら、海外赴任の親父さん泣くぞ?」

「ご忠告どうも。そっちが行方不明になっても俺は泣かないから心配するな」

「とか言いながら実際になったら探してくれるんだろ? 分かってるって」


 叶夜の肩を強めに叩きながら勝手に照れる信二。

 嫌そうにしながらも、叶夜は振り払う事もなく衝撃を受け入れる。

 そんなやり取りをしている間に、二人は歩道に出ていた。

 しばらく他愛のない会話をしていたが、曲がり角の直前で叶夜の足が止まる。


「じゃあな。また明日」

「おう」


 信二は短く答えると、自身の家に向かってそのまま歩き去る。

 ……はずであったが、突然引き返して叶夜に質問してきた。


「そうそう。何人かとカラオケに行く予定になってるんだが、一緒に来るか?」

「行くって言うと思うか? 俺が」

「どんな可能性もゼロじゃない。だろ?」

「お前はどこの主人公だ」


 険しい表情でツッコミを入れる叶夜。

 だが口角は上がっており、嫌がっている訳ではない事は見て取れた。


「悪いが無理だ。帰ったら買い出しに行かなきゃならなくてな」

「残念。そんな理由じゃ無理強いは出来ねぇな。じゃ明日な」

「おう」


 今度こそ信二は叶夜に背を向けて去って行く。

 その背中が見えなくなるまで見送り、戻ってこない事を確認した叶夜も自宅へと足を動かす。


 ―この後、人生を揺るがす程の事件が待ち構えているとは知らずに

本格的に始まりましたが、如何でしたか?

これから先の叶夜に待ち受ける事件を、是非見届けて欲しいと思っています。

※感想・レヴューお待ちしております!

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