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アンケート  作者: 菊池まりな


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85/104

第85話 錆びた回廊

扉の内側は、湿った空気と埃の匂いで満ちていた。


 懐中電灯の光が錆びついたパイプと、剥がれ落ちた壁の塗装を照らす。長い間誰も立ち入らなかったはずのその空間には、なぜか妙な「気配」が漂っていた。




 足を踏み出すたび、コンクリートの床が乾いた音を響かせる。


 三枝美佳は息を潜めながら周囲を見渡した。


 ──ここに、私の答えがある。そう感じさせる何かが、胸の奥で脈打っていた。




 隣を歩く朝倉純が、不意に低くつぶやく。


「この施設……ただの工場じゃないな」


「え?」


美佳は振り返った。


「空気の流れが不自然だ。換気システムがまだ稼働してる。誰かが維持してるんだ」




 純の言葉に、有栖川玲と宮下ユリも表情を硬くする。


「つまり、“現役”ってこと?」


ユリが囁く。


「でも、ここは封鎖されて久しいはずだよ。表向きは……」


玲が言葉を濁した。




 そのとき、美佳の胸ポケットで“鍵”が微かに光を放った。七海彩音から託された銀のペンダント。


 廊下の奥へと進むほどに、光は強く脈打ち始める。まるで導かれるように。




「……この鍵が、道を示してるの?」


 美佳は思わず呟いた。




 やがて一行は、分岐点にたどり着く。左右に延びる回廊。その先は暗闇に沈んでいる。


 純が真剣な眼差しで美佳を見つめる。


「どちらに進むべきか、鍵に聞いてみろ」




 美佳は深呼吸し、目を閉じた。手のひらに熱を帯びるペンダント。その脈動を感じ取るように意識を集中させる。


 ──左。


 はっきりと、心の奥に流れ込む直感があった。




「……左に行こう」


「了解」


純が短く答える。




 四人は左の回廊へと進む。そこは長く続く暗い通路で、壁のパネルには消えかけた警告灯が赤く点滅していた。


 ──まだ、どこかで電力が供給されている。




 次の瞬間。


 頭上のスピーカーから、微かな声が流れた。




 《……ケて……ください……》




 美佳の背筋に冷たいものが走った。


 女の声。それは、遠く、途切れがちだが、どこかで聞いた覚えがある響き。




「今の……!」


玲が顔を上げる。


「誰かが、この工場の奥から……?」


ユリの声が震える。




 純は唇を固く結んだ。


「……罠かもしれない。けど、進むしかない」




 四人は再び歩みを進めた。


 錆びついた回廊の奥に待つのは、救いか、それとも破滅か。


 胸の中で光る鍵だけが、唯一の道標だった。





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