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アンケート  作者: 菊池まりな


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第71話 零域の残響

零域からの脱出は、まるで夢から覚めるように唐突だった。視界を覆っていた白い靄が裂け、気づけば美佳は藍都学園都市の一角、夜の校舎裏に立っていた。


 だが胸の奥では、まだあの場所の冷たさが脈打っている。


 「……彩音……」


 彼女の名前を口にすると、零域で見た最後の光景が脳裏をよぎる。ホログラム越しに微笑んでいた七海彩音。その手から渡された、小さな金属製の“鍵”。掌の上でひやりと冷たいそれは、今もジャケットのポケットの中にあった。




 背後で足音。反射的に振り返ると、そこには純の姿があった。LAPISの制服が街灯に照らされ、金色のラインが微かに光る。


 「……無事だったか」


 淡々とした声だが、わずかに安堵の色が混じっている。


 「彩音が……私に鍵を渡したの」


 言葉を選びながら、美佳はポケットから鍵を取り出した。純の視線がそれに注がれる。


 「俺じゃなくて、お前に、か……」


 そう呟く純の目は、驚きと何かの決意が交じっていた。




 「この鍵、何なの?」


 問いかけに純はすぐ答えず、少しだけ夜空を見上げた。


 「説明はできる。でも……今じゃない」


 その言い方はいつもの彼らしい慎重さだった。だが美佳は、零域で聞いたミオの声を思い出す。


 ――“選べ、美佳。誰を信じるかで、未来は変わる”


 耳の奥でその響きが甦り、胸が締め付けられる。




 二人はそのまま旧校舎を離れ、LAPISの本部へ向かった。夜の学園都市は、どこか静かすぎる。街路樹の影が伸び、遠くの建物の窓が一斉に消えるように暗転した。


 「停電……?」


 美佳が呟くと、純は首を横に振る。


 「いや、これは制御された遮断だ。誰かが──」


 彼の言葉が途切れる。その瞬間、二人の端末が同時に震えた。




 画面に映るのは、同じ発信元不明の番号。


 それは、美佳にとって見覚えのある数字の並びだった。


 (……まさか)


 受信ボタンに指がかかる。だが通話の向こうから聞こえてきたのは、低く押し殺した声だけだった。


 「……鍵は、まだ渡すな」




 次の瞬間、通信は切れた。通話履歴には「該当なし」の文字。


 美佳の鼓動が早まる中、純が眉を寄せた。


 「誰だ?」


 美佳は答えられなかった。答えられるはずがない──あの声の主を、まだ自分は知らないのだから。

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