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アンケート  作者: 菊池まりな


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第72話 揺れる選択

夜の藍都学園都市は、不気味なほど静まり返っていた。


 美佳と純は、零域からの帰還後、その足でLAPIS本部近くまで戻ってきていた。街灯が作る影が二人を細く切り裂くように伸びている。




「……あの鍵、まだ持ってるか?」


 純の低い声が、背後から追ってくる。


 美佳は一瞬だけためらい、バッグの中に手を入れた。金属の冷たい感触が指先を走る。それは七海彩音から渡された、あの小さな鍵。


 彼女の顔が頭に浮かぶ──あの日、わずかに笑ったあの表情と、なにかを決意していた瞳。




「持ってる。でも、まだ何に使うのかはわからない」


 そう答えながら、美佳は鍵を取り出す。街灯の光が反射し、夜の闇に小さな輝きが走った。


 純はそれをじっと見つめ、わずかに眉をひそめる。


「……これは、旧校舎のものじゃない」


「え?」


「似てるけど違う。たぶん、別の場所──もっと厄介な場所の扉を開ける鍵だ」




 美佳の胸にざわりとした波紋が広がる。旧校舎の影を追ってきたはずが、その先にはさらに別の“何か”があるというのか。




「彩音ちゃんは、純くんにじゃなく、私に鍵を渡した。理由は……」


「お前にしか開けられないからだろ」


 純の答えは即答だった。だが、その声には不安が混じっていた。




 その時、街の向こうから突風が吹き抜けた。冷たい風が、二人の頬を刺す。ビルの谷間を通って響く低い唸り声のような風音に、美佳はぞくりとした。




「……誰か、見てる」


 背筋に冷たい感覚が走り、無意識に後ろを振り返る。しかし、そこには誰もいない。ただ、遠くの交差点に赤い信号が点滅しているだけだ。




「行こう。ここは長居する場所じゃない」


 純が美佳の肩を軽く押し、足を速める。


 だがその瞬間、美佳のポケットの端末が震えた。画面を見ると、番号は「非通知」。そして、その響きは──




『……また会うことになる。鍵を、手放すな』




 あの日と同じ、無機質な声。通話は一方的に切れ、端末の履歴には何も残っていなかった。




「誰からだ?」


 純の問いに、美佳は答えられなかった。ただ、心臓の鼓動が耳に響いている。




 胸ポケットにしまった鍵が、まるで熱を帯びているかのように感じられた。


 この小さな金属片が、自分たちをどこへ導くのか──その答えは、もうすぐ現れる。



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