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アンケート  作者: 菊池まりな


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第59話 選択の行方

静寂が、美佳を包んでいた。


手の中にある小さな箱──それは、まるで命を持つように微かな脈動を感じさせた。


中にあるのは、LAPISの中枢制御キー。これ一つで、都市の記憶ネットワーク全体をシャットダウンできる。




過去を白紙に戻すのか、それとも、受け継ぎ、繋ぐのか。




彩音は言った。「どちらでも、私の願いに違いはない」と。




だが、決断するのは美佳自身だ。




「……怖いよ、彩音」




誰に届くわけでもない言葉を、美佳はつぶやく。




(私が、選んでいいの?)




この都市には、たくさんの人々の思い出が生きている。


大切な記憶も、忘れたい記憶も、理不尽に失われた記憶も。




もしすべてをリセットすれば、多くの悲しみや苦しみは消えるかもしれない。


でも、それは同時に、彩音が守ろうとしたものも、すべて──


無かったことにしてしまう。




(この都市が、記憶そのものだとしたら……)




かつて、ミオと名乗った少女の声が頭をよぎる。


あれは誰だったのか。今もはっきりとはわからない。


だが確かに、彼女の言葉は美佳を導いてくれていた。




「選ぶことでしか、前に進めないんだよ」




あのときの電話の声もまた、今の自分を作るきっかけになっていた。


受け身だった自分が、いまここにいるのは、誰かの声があったからだ。




(だったら……私は)




指が、箱の蓋にそっと触れる。




その瞬間、周囲の空間に波紋のような光が広がり、再び、誰かの姿が現れた。




「……純!」




白い空間の奥から、朝倉純が駆け寄ってくる。


その制服はLAPISのもの──だが、彼の顔には迷いも恐れもなかった。




「やっぱり、ここにいたか」




「純……!」




「決めたか?」




「……ううん。でも、ようやく“自分の意思”で考えられるようになった。……だから、答えはもうすぐ出せると思う」




純は、穏やかな表情で頷いた。




「それでいい。答えを出すのは、いつだって“自分”じゃなきゃ意味がない。誰かに選ばされるくらいなら、間違ってたって、自分で決めた方がマシだ」




その言葉に、美佳の中で何かがカチリと噛み合う音がした。




「……ありがとう、純。あなたと一緒に、ここまで来られて良かった」




二人はしばし、白い空間の中心で黙って立ち尽くした。


重い沈黙ではなく、心地よい無音のなかで──それぞれの記憶と向き合うように。




やがて、美佳は箱の蓋を開けた。




中には、銀色に輝く小さなキーが収められていた。


その光は、まるで心の奥底を照らすかのように、静かに、強く、輝いていた。




「……私は、この記憶を、守る」




その言葉と共に、美佳はキーを握り締めた。




選択は終わった。


そして、物語は次の扉を開く──。



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