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アンケート  作者: 菊池まりな


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第58話 再会と再編成

白い空間に足を踏み入れた瞬間、世界が反転したかのような感覚に美佳は包まれた。




まるで重力も、時間の流れすらも失われたかのような場所。


どこまでも広がる無音の空間に、ひとつだけ、色があった。




──薄桃色のワンピースを着た少女が、ブランコに揺られていた。




「……彩音?」




彼女は微笑んでいた。現実とも幻ともつかない、どこか儚げな表情で。


髪がふわりと揺れ、視線が美佳を捉える。




「ようやく……来てくれたんだね」




「ここは……あなたの“記憶”? それとも、都市の中心?」




「どちらでもあって、どちらでもないわ。これは……私が遺した“終端”」




彩音の声は、風のように優しかった。




「この都市はね、“情報”と“記憶”によって構成されていた。


人の思い出、後悔、夢、喪失……全部、LAPISに吸い上げられて、整理されていたの。私が、それを管理していた」




「あなたはずっと、ひとりでそれを……?」




彩音は、ゆっくりと首を横に振った。




「ひとりじゃなかった。純くんがいた。ユリも、翔も。……でも、私だけが“中に取り込まれた”の」




「それは……」




「選んだのよ、自分で。誰かが都市の記憶に“残らないと”、記録は消えてしまうから。……だから私は、ここに残った」




ブランコが止まり、彩音は立ち上がる。


ゆっくりと美佳の方へ歩み寄ると、小さな箱を差し出した。




「これが、LAPISの中枢制御キー。これを使えば、都市の記憶ネットワークはシャットダウンできる。記録はリセットされ、全てが白紙になる」




「……でも、それって、彩音の存在も……」




「消えるわ」




短く、でも優しく、彼女は微笑んだ。




「だから、美佳に決めてほしいの。都市の記憶を終わらせるか、それとも、誰かの意志として継ぐか」




その問いは、美佳の胸を貫いた。




「私は……どうしたら……?」




「大丈夫。もう、選べるようになってるよ。だって、美佳は──誰かの言葉に流されるだけの存在じゃないから」




美佳は、箱を受け取る。その手はわずかに震えていたが、目は逸らさなかった。




「彩音……これを、私に託してくれるんだね?」




「うん。だって、私は信じてるから」




そして彩音は、静かに後ずさる。




「ありがとう。私の記憶に、触れてくれて」




その瞬間、彩音の身体が光に包まれ、粒子のように空へと舞い上がっていった。




「……待って! まだ、言いたいこと……!」




けれど、声は届かない。




彩音は、美佳の心の中に──そして、都市の記憶の片隅に──そっと刻まれていった。




美佳はひとり、白い空間の中心に立ち尽くす。


手の中に残された、ひとつの選択。




過去をリセットするか、それとも、未来へ受け継ぐか。




そのとき、かすかな風の音とともに、“誰かの声”が聞こえた。




──決めるのは、君だよ。



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